5

 Aが顔を上げて見ると、Aの父親が抜身の剣を手にしてこちらにやって来るのが見えた。

 Aの父親は、二人の息子を殺すために来た。

 彼は息子を殺した後で、自分も死ぬつもりであった。

 彼は娘のことがネットで拡散されているのを知り、同僚や親族にもそのことが知れてしまったので、自分はもう生きていけないと思ったからである。

 放蕩息子の兄は弟に言った。

「おまえはおれの陰に隠れていろ。おまえは手出しするな。あんなやつは、このおれ一人で十分だ。あんなやつのために、おまえまで呪いをもらうことはない」

 兄は父に言った。

「父よ、あなたは実の息子をその手にかけようというのか? あなたはその手にした剣で、息子どもを八つ裂きにしようというのか?」

 父は兄に言った。

「だまれ。薄汚い獣が。わたしは、わたしのやばい娘と母親のせいで、もう生きておれなくなったのだ。これ以上、生き恥をさらすことはできぬ。おまえたちもろとも死んで、罪をあがなわなければ、わたしは死んで祖先に顔向けできぬ。おまえはわたしのこれまでの恩に報いて、ここで大人しく死ななければならない」

 兄は父に言った。

「死ぬのなら、ひとりで死ぬことだな。誰も止めやしない。あなたが死ねば、あなたの遺産は、おれと、おれの弟と、あんたのやばい娘とで、分けることになろう。しかし、ここでおれと弟が死ねば、あなたの遺産は、そっくりそのまま、あの淫売母娘のものとなるのだ」

 父は兄をあざけって言った。

「おまえの頭には、死ぬまで金のことしかないのか? いまから死ぬとわかっていながら、おまえは死ぬ間際まで、金の心配をするのか? あわれ。わが長子よ。おまえは獣の娘の子。薄汚い半妖めが。人の心を弄び、悪心に付け込んで生きながらえる獣よ。おまえを最後に退治することが、わが生涯のせめてもの償いとなるであろう」

 兄は父に言った。

「あざけるな! 死にぞこないのたぬきが。かかってこい。おしゃべりは終わりだ。きさまの死ぬ時が来た」

「死ぬのはおまえだ!」

 父は剣を振り上げておどりかかってきたが、父は突然地上に開いた穴に吸い込まれて姿を消した。

 Aは兄に「どうなったのか」と聞いた。

 兄は弟に言った。

「やつは枯れ井戸に落ちた」

 Aは兄に聞いた。

「これは、あなたがこうなるよう、仕組んだことなのか?」

 兄は言った。

「井戸のふたが朽ちて、ちょうどいま崩れただけのことだ」

 Aの父は、自分が研いだ刃で心臓を貫いて死んだ。彼は、井戸の中で死んだ。

 父の葬儀のあと、Aは、兄と自分とで父の遺産をわけた。

 父の家には兄が住み、Aは遺産を受け取ると父の家を出た。

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