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別れのとき、ふしだらな妹は、Aに言った。
「お兄さま。わたしは今日、お兄さまにお別れを言わなければなりません。それは、わたしにとって、とても辛いことです。幼い頃、お兄さまと遊んだ、この広いお庭とも、今日でお別れです。わたしはお母さんの実家に発ちます。よもやこんな日が来るとは、わたしは夢にも思いませんでした。わたしは罪なことをして、それが世間の人たちの知るところとなったので、わたしはお母さんと共に、お母さんの実家に行って、ほとぼりが冷めるのを待ちます。今後、わたしの親権は母がもつことになるので、わたしは、お母さんと共に、お母さんの家の姓を名乗ることになるでしょう。それは、わたしにとって、むしろ好都合なことでした。わたしと教師とのことが、世間の人たちの知るところとなって、ネットで拡散されてしまったからです。お兄さま、最後に、ひとつお願いがございます。どうか、わたしのために、わたしの最後の願いをお聞き入れください」
ふしだらな妹は、泣きながらAに言った。
「母に、わたしが兄に貸したお金の建て替えの件で、行って、話をつけてください。母はわたしにお金を渡そうとしません。ですから、お兄さま、お願いいたします! 母を説得して、わたしに、わたしが兄に貸したお金を建て替えてくれるよう頼んでください。どうか、お兄さま。最後に、妹の切なる願いを叶えてやってください!」
Aはふしだらな妹に言った。
「呪われよ、ふしだらな妹よ。この別れのとき、おまえの頭には、金のことしかないのか? そんなことだから、おまえは世間に顔向けできないような罪を犯して、落人のように、こそこそ逃げ隠れるはめになるのだ。聞け。おまえとわたしの縁は、たったいま切れた。おまえは、おまえが生きているうちは、わたしの顔を見ることは二度とないであろう。なぜなら、わたしは、おまえが生きているうちは、おまえにわたしの顔を見せるつもりはないからである。わたしが次におまえの顔を見るのは、おまえの魂が罪のために死んで、おまえの体が冷たくなり、おまえの眼が永遠に閉ざされたときだ。おまえは、おまえがつくった罪のためにわたしよりも早く死に、わたしの顔を見ることは、二度とないであろう。だから、おまえがわたしの顔を見るのは、今日が最後である」
妹は兄に言った。
「わかりました……。お兄さま、お別れです! わたしがお兄さまの顔を見るのは、これが最後です。どうか、この最後の別れのとき、お兄さまの妹として生まれた女を憐れんで、わたしと、わたしの母の旅路を祝福してください。兄に貸したお金のことは、忘れてください」
Aは最後に妹を憐れんで、これを祝福したので、妹は満足して、母と共にAのもとを去った。
妹が去ると、Aは妹が立っていたところに、塩と米をまいた。
そこに、放蕩息子の兄が出てきて、涙を流して言った。
「ああ、母と妹が行ってしまった! おれはこの先、いったい誰に金を無心したらよいのだ!」
Aは自分の兄に言った。
「聞け、放蕩息子の兄よ。あなたにはわからないのか? あなたのために、家族がちりぢりになり、わたしたちの父の財産の半分が、あの愚かな母娘に持っていかれたことに、あなたはまだ気づかないのか?」
放蕩息子の兄は言った。
「おまえは、家族がちりぢりになったのは、おれのせいだというのか?」
「そうだ」
「弟よ。聞くが、家族がちりぢりになったのは、両親が決めてそうしたことではないのか? あの妹がこの地を去らなければならなくなったのは、あの女が淫売だったからではないのか? かれらが結婚の契りを破り、女の操を破ったのであって、おれが破ったのではない。それともおまえは、おれがかれらにそうするよう仕向けて、それを破らせたとでもいうのか?」
Aは兄に言った。
「あなたは放蕩息子だ。あなたは人の皮をかぶった獣だ。あなたも呪われるべきである」
放蕩息子の兄は言った。
「弟よ、おれの罪に、かれらの罪を増し加えるようなことを言うものではない。かれらの犯した罪を、ぜんぶおれが被らなければならないと言うのであれば、おれはアザゼルのために荒野に送られた、あの生贄の山羊と同じではないか? おまえはおれのことを獣と言ったが、もしおれが獣だとすれば、どうして人間が犯した罪を、獣のおれがかれらに代ってあがなわなければならないのか?」
Aは放蕩息子の兄の前に平伏した。兄との口論に敗北したからである。
しばしの沈黙の後、兄は弟に言った。
「おまえは泣いているのか? おまえは誰のために泣いているのか? 聞け、弟よ。おまえは人間のために泣け。決して獣のために泣いてはならぬ。さあ、立て。見よ、忌むべき者が来た」
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