3
次の日の昼。Aの父親の長男で、放蕩息子の兄は、Aの母親に言った。
「少しだけ、お金を用立ててください。わたしは、買いたいものがあるのです」
Aの母親は言った。
「お金を借りるなら、あなたのお父さんに言ってください」
放蕩息子の兄は言った。
「わかりました。わたしはお父さんのところに、お金を借りに行きます」
それからしばらくして、Aの父親の同僚Cが言った。
「放蕩息子が来た!」
Cの周囲にいた他の同僚たちも、口々に、「放蕩息子がお出ましだ!」「放蕩息子が金を借りに来たぞ!」と言った。
Aの父親は、自分の長男に言った。
「あなたはなぜここにやって来たのか? 周囲の目をはばからずに。あなたはここに、わたしに恥をかかせるために来たのか?」
放蕩息子は言った。
「わたしはお父さんにお金を借りに来ました」
Aの父親は長男に金を渡して言った。
「その金をもって、さっさと帰ってください。わたしは顔から火が出るようです!」
それを見て、Aの父親の同僚Cは言った。
「放蕩息子が帰る!」
Cの周囲にいた他の同僚たちも、口々に、「放蕩息子がお帰りだ!」「放蕩息子が金を借りて帰るぞ!」と言った。
Aの父親がうなだれていると、彼の上司が歩み寄ってきて言った。
「放蕩息子の父よ、どうかそんなに落ち込まないでください。あなたに落ち込まれると、わたしと、わたしの会社が迷惑します。あなたは納期を送らせてはなりません」
Aの父親は言った。
「わかっています。わたしは努力して、課せられた仕事をします。わたしは納期を遅らせることはしません」
それを聞いて、同僚Cは歌った。
「呪われよ、放蕩息子よ。
父親は、息子の罪をあがなう。
上司は、彼を励まして言う。
落ち込むな、放蕩息子の父よ。
納期は、遅らせてはならぬ」
放蕩息子の兄が父に金を借りに来た頃。Aの妹の学校の教師が、Aの妹を校舎のかげに呼び出して言った。
「わたしはあなたと寝たい」
Aの妹は、金をとってその教師と寝た。
やがて、そのことが教師の同僚の知るところとなり、生徒にも噂が拡散すると、Aの妹は学校にいられなくなった。
Aの父親は、娘を叱って言った。
「なぜおまえは、金をとって、学校の教師などと寝たのか。それは、罪なことである。わたしは、おまえをこれ以上、この家に置いておくことはできない。おまえは、おまえの母と共に、おまえの母の実家に行って、ほとぼりが冷めるまでそこにいなさい」
娘は父に言った。
「わかりました。ところで、お母さんの実家には、上の兄もわたしたちと一緒に行くのでしょうか?」
父は娘に言った。
「おまえはなぜそんなことを聞くのか?」
娘は父に言った。
「わたしは、お母さんとお父さんが、近々離婚すると耳にしました。わたしはお母さんに引き取られることになるでしょう。しかし、兄の親権がどちらに帰属するのか、わたしは知りません。わたしが、お母さんとお父さんが、近々離婚すると聞いた時には、兄の親権がどちらに帰属するのか、決まっていなかったからです」
父は娘に言った。
「聞け、娘よ。おまえは、金をとって、学校の教師と寝た。おまえは、ふしだらな娘である。おまえの母さんが、いかに気丈な人でも、放蕩息子とふしだらな娘の両方を抱えて、実家で暮らしていくことなどできまい。だから、放蕩息子の面倒は、わたしが見よう。おまえは、おまえの母と共に、おまえの母の実家に行って、ほとぼりが冷めるまでそこにいなさい。そのときまで、おまえがこの家の敷居をまたぐことは、わたしが許さないだろう」
ふしだらな娘は言った。
「わかりました。わたしは、お母さんと一緒に、お母さんの実家で暮らして、そこでほとぼりが冷めるのを待ちます」
そう言って、娘は父のもとを離れた。
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