第85話 秋晴、素直な気持ち

 とりあえず紅梨と2人で登校する事にした俺だが、紅梨が俺の家の前まで来ていた理由を考えても思い当たる節がない。


 見当もつかない俺は通学路を歩きながらもう一度紅梨に直接聞いてみることにした。


「気分以外に俺の家まで来てた理由があるんじゃないのか?」


 俺が質問すると紅梨は息をしていないのではないかと心配になる程黙り込む。


 そうされるとこちらはなす術が無い。


「あるに決まってるじゃん」

「……え、なんて?」

「私が白太の家の前に来た理由があるかないか、それが気になってるんでしょ? そんなのあるに決まってるよ。意味もなく朝から白太の家に来るなんてストーカーだよそれ」

「まあそりゃそうだけど」


 それならなんでさっきはそう言わなかったんだ、と心の中でツッコミを入れる。


 何か言いたげな紅梨は踏ん切りがつかない様子で次の言葉に悩んでいる。


「私、これからもずっと白太と仲良くしていたいから。私がなんて言ってもこれからもずっと友達でいてね」

「……? 何言ってるんだよ。別に今までもこれからもずっと友達じゃないか」


 紅梨の意味不明な言葉に首を傾げる。


「白太が好き」

「……え?」


 紅梨の発言の意味を理解しようとしている内に、紅梨からとんでもない言葉が飛び出した。


 いや、これは合宿の時と同じで俺にイタズラを仕掛けてるだけなのかも……。


「あー、あれか。合宿の時と同じやつか。イタズラ的な?」

「違うよ。今回は本当の告白」

「……マジデスカ?」

「なんでカタコトになってるの。そんなに焦らなくてもいいでしょ」

「焦るって。てか本気の告白したにしては落ち着いてない? 好きな相手に告白するときってもっと緊張するもんだろ?」


 俺は緑彩先輩に2度告白をした。3度目の告白は恐らくそれほど緊張しないだろうが、1度目、2度目の告白はもっと緊張するはずだ。


 それなのに、紅梨のこの落ち着き用はなんなのだろうか。


「多分本気の告白だったらもっと緊張するんだろうね」

「え、なにそれ。やっぱイタズラってことか?」

「いたずらではないし、告白自体は本気も本気」

「え、じゃあ本気の告白じゃないってのは?」

「私、この告白が絶対に成功しないって分かってるから」


 紅梨の心情を察するには俺の恋愛経験は少なすぎるようだ。


 何を言っているのか理解ができない。


「いや、じゃあなんで告白を?」

「自分の気持ちが治らないから、かな。このままだと私、いつまでもこの恋愛を引っ張りそうだったから」


 そういえば俺も緑彩先輩に告白をしたのは緑彩先輩を好きだという気持ちを忘れて蒼乃のこと好きになるためだったな。


「なるほどな……」

「私ね、分かってるの。白太と緑彩先輩が両思いで、白太が今日ケジメを付けようとしてること」

「え、なんで知ってんの⁉︎ 俺誰にも言ってないはずだけど⁉︎」

「見てたらわかるよ。だってずっと白太の事見てきたんだから」


 紅梨の顔はこの間のいたずら告白とは違い、真剣で長い間その気持ちと向き合ってきた事が痛い程伝わってきた。


 紅梨がその気持ちを伝えてくれたのが今日で本当に良かったと思う。

 全てを決意した今の俺なら、紅梨のためにも、真っ直ぐに正直に正面からこう言えるから。


「ごめん。俺、好きな人がいるから紅梨とは付き合えない」


 本来ならこう伝えて暗くなるはずの心は、何故か今日の澄み切った秋晴れと同じように清々しかった。

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