第83話 前夜、知らない事は罪
明日は文化祭という状況のせいか、俺は自室で布団に入った後も中々眠りに付けずにいた。
寝坊するわけにもいかないので早く寝なければという焦りはあったが、俺は思い切って一度布団から出て気分を入れ替えるために窓の外を眺めた。
夜空には雲一つ無く、スーッとした光を発しながら綺麗に輝く月を見て気持ちを落ち着かせていた。
その時、スマホのバイブ音が鳴り響き思わず体をビクッとさせて驚く。
なんだ電話か、と画面を見ると蒼乃からの着信だった。電話が切れる前に急いで画面をタップする。
「あ、白太先輩ですか?」
「そりゃそうだろ。俺にかけて来てるんだから」
そうですよね、と言い、へへへと笑う蒼乃。
蒼乃も俺と同じ様に明日の演劇の事を考え緊張して眠れないのだろうか。
「明日のことを考えたら緊張で中々眠れなくて……。白太先輩も同じですか?」
「まぁそうだな。中々眠れなかったから今は窓の外見てた」
「へぇ。先輩もそんなことするんですね」
「今俺のこと馬鹿にしたな? 俺って結構ロマンチストだから。ほら、見てみろよ。月が綺麗だぞ」
そう言ってから蒼乃の返しを待っているのだが、蒼乃は急に黙り込み数秒の沈黙が生まれる。中々話はじめようとしない蒼乃に俺は声をかけた。
「おーい、大丈夫かー?」
「……もう。白太先輩のバカ」
「え、何で急に罵られたの俺」
「知らない事は罪ではない、なんてよく聞きますけどやっぱり罪深いです。もっと見聞を広げて下さい。よくそれで自分はロマンチストだーなんて言い張りましたね。いっぱい小説読んでるはずなのにそんなことも知らないんですか」
「え、ごめん本当に何のことか全くわからん」
「いいですよ別に。また分かった時に1人で悶え苦しんでください」
蒼乃が言っていることは何一つとして分からなかったが、その後も和やかな雰囲気で電話は続き、気づけば1時間が経過していた。
「もう流石に遅いですし切りましょうか。寝坊するわけにもいかないですし」
「お、そうだな。俺が寝坊してそうだったらモーニングコール頼むわ」
「自分でしっかり起きてください。まぁもしもの時は家まで押しかけてやりますよ」
「そうしてくれ。それくらいしてくれないと起きないかもしれないからな」
「先輩なら起きれますよ。それじゃあまた明日です‼︎ おやすみなさい」
「おう。おやすみ」
こうして蒼乃との文化祭前夜の電話は終わったのだが、電話の終わり方が今までの蒼乃にしては妙にあっさりとしていた様な気がする。
諦めないってはっきり公言してたし、もっと蒼乃の方から引き止めるくらいでもいいんじゃないかと思うが……。
まぁ今は俺が緑彩先輩を好きって知ってるわけだし遠慮してるのかもしれないな。
緊張で眠れなかった俺は強烈な睡魔に襲われ、いつのまにかコテンッと眠りについていた。
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