第82話 前日、戻って来た日常
クライマックスの展開も決定し、文化祭を翌日に控えた俺たちは部室で最後の練習に取り掛かっていた。
「蒼乃と付き合っていたこともありました。でもやっぱり、僕は最初から最後までずっと緑彩先輩のことが好きだったんです」
「……ありがとう」
あー演技だって理解しててもダメだ。何回やっても慣れない。緑彩先輩が。
俺は演技だと割り切っている部分があるし、緑彩先輩に面と向かって好きだと伝える事に対して羞恥心は殆ど無いが、緑彩先輩は何度繰り返しても顔を紅潮させ照れ臭そうにしている。
そんな幸せムードを漂わせている俺と緑彩先輩の横で、紅梨は腕を組み頬を膨らましていた。
普通ならそんな紅梨を見て困惑する俺だが、今は紅梨が不機嫌になることよりもその横でずっと優しく笑っている蒼乃の方が気になっていた。
「緑彩先輩、本当に恥じらうのもリアリティがあって良いですけどこれ演技ですからね? その後もちゃんと演じて下さいよ?」
このストーリーの創作者で現場監督の玄人は緑彩先輩の反応を見て当日の演技が不安になったらしい。
そして玄人の言葉に加えて蒼乃が釘を刺した。
「黒瀬先輩の言う通りです。緑川先輩はこの物語のヒロインなんですから、ちゃんと演じてもらわないと困ります。これはあくまでも演・技・なんですから」
優しく笑っていて落ち込んでいるのかと思いきや、演技という言葉を強調し緑彩先輩に食ってかかる蒼乃の姿はまさしく俺たちが喧嘩をする前の蒼乃だった。
心配ではあったがアウトレットモールでのデートで元気を取り戻せたようだ。
「あら、青木さんも言うようになったわね。まぁそれくらい強気でいてもらわないと困るわ。これなら私が今すぐ卒業しても問題なさそうね」
いや、流石に今すぐは困りますと相槌を打つ。
「問題なんてこれっぽっちもありません。寧ろ今日卒業していただいて明日からは学校に来なくても構わないですけど」
コラっと紫倉に宥められて蒼乃はふんっとそっぽを向いた。
確かに蒼乃は吹っ切れた様子で俺の事を、「諦めない」とは言っていたが緑彩先輩と蒼乃、バチバチですやん。2人の後ろに竜と虎が見えるもん。これって本当に見えるんだ。
まあ2人の関係性を以前は面倒くさいと感じていた俺だが、こんな2人の会話も今はどこか微笑ましく、日常が戻って来たような気がした。
「それじゃあ今日はこれで終わりにします。明日は練習の成果を出し切って最高の舞台にしましょう‼︎」
最後は玄人が締め、その言葉に対して皆んなが拳を突き上げて「オー‼︎」という声を出してから解散することになった。
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