第80話 結末、最後に結ばれるのは

「大丈夫か‼︎」

「怖かったよ〜」

「もう大丈夫だ」


 蒼乃と仲直りした次の日の演劇練習、今までの演劇とは比べ物にならないほど熱が入った練習となり順調に進んでいる。


 問題があるとすれば、実際の俺たちの話より相当美化されているので演じるのが恥ずかしい事くらいだ。


「はいカット‼︎ すごいわ2人とも、先週の演技と全く違うじゃない。何かあったの?」


 緑彩先輩は手をパチパチと叩き、称賛するように俺たちの演技に食い入っていた。

 あまりに目を輝かしているので思わず顔を逸らしてしまう。


「何がってわけじゃないんですけどね」

「そうですね。特に何がってわけじゃないです」


 そう言って俺と蒼乃は目を合わせ、アイコンタクトを取る。


 俺が好きなのは緑彩先輩とはいえ、やはり蒼乃がそばにいないのは寂しい。


 こんな風にアイコンタクトを取りお互いの気持ちを確認する辺りは長年付き合ったカップルの様だ。


 男女の間には下心無しの本物の友情は芽生えないというが、そんなことは無いなとしみじみ思う。


「本当、人騒がせだわ」


 両手を広げて呆れた表情でそう言う紫倉。


 自分でも人騒がせだと思うし、俺と蒼乃の仲を取り持ってくれた紫倉には何か礼をしないとな。


「まぁこれで白太と蒼乃ちゃんの演技もようやく様になってきたし、後はこの物語の最終ストーリーだけだな」


 玄人が言うように、この物語のクライマックスは未だに決められていないし、誰にそれを決定する権利があるのかもわからない。


 だが、俺はこのストーリーの結末を決めるのは1人しかいないと思っている。


「玄人が決めれば良いんじゃ無いか。このストーリーを創ったのは玄人なんだし、文句を言う奴は誰もいないだろ」


 このストーリーを創った張本人、玄人がストーリーの結末を決めるのは必然的な事だ。

 俺の発言に対してみんなが頷き、ストーリーの結末は玄人に託されることとなった。




 次の日、玄人は台本を仕上げて来たらしく俺たちに手渡してきた。


「普通に考えたらこのストーリーの最後に結ばれるのは最初に劇的な出会い方をした白太と蒼乃ちゃんだと思う。でもそれだと予想通りすぎて面白味がないだろ?」


 そう言う玄人が手渡してきた台本の結末は、俺と緑彩先輩が結ばれるストーリーだった。


「まぁ玄人が考えたなら仕方ないかな……」


 どうも腑におちない落ちない表情を見せる紅梨。


 紅梨は以前から俺に気があるようなそぶりを見せているが、まさか本当に……なんて事あるわけないか。


 そして俺の右隣にいる蒼乃はというと。


「緑彩先輩はこの学校でも1番の美人さんだって評判ですし、これが一番みんなのウケが良さそうですよね‼︎」


 玄人が考えてきたストーリーに反発する事なく受け入れている様子だったが、それが蒼乃の本当の気持ちなのかどうか。


 笑っている表情もいつもより引きつっているように見え、蒼乃の心情を察するのに時間はかからなかった。

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