第76話 深層、表面では気付かない
紫倉に2人で遊びに行ってこいと指令を受けた俺と蒼乃は仕方がなく休日に2人で遊びに行く事にした。
俺は合宿の日から蒼乃を避け、向き合う事から逃げている部分があったので、こうして無理やりにでも蒼乃と2人で話す機会を
与えてくれた事に感謝するべきなのかもしれない。
そして、今日は地元のアウトレットモールで蒼乃と遊ぶ予定なのたが、時間を過ぎても蒼乃は姿を見せない。
実は、集合時間の30分以上前に到着して蒼乃が来るのを待っている。
何故か目覚ましをかけた時間よりも早く目が覚めてしまい、家にいてもソワソワするので早めに集合場所にやって来たのだ。
だが、俺が紫倉の発言を間に合うけバカ正直に来てしまっただけで、蒼乃はこの場に来ないのでは無いだろうか。
そんな不安が頭をよぎり、スマホを弄っているフリをしながら横目でチラチラと蒼乃が来ていないかを確認していた。
集合時間は過ぎているのでそれでも蒼乃がやってこないという事は、きっとそういう事なのだろう。
緊張の糸がぷつんと切れた俺は、ふぅーっと息を吐き出し空を見上げる。
緑彩先輩と両想いになって幸せなはずなのに、心から喜べない。
恐らくは蒼乃との関係に蟠りがあるからなのだが、それ以外に原因があるのだろうか。
合宿の後は蒼乃を避けて関わらないようにしていたはずなのに、蒼乃と遊ぶことになって少し喜んでいる自分がいる。
俺にとって蒼乃は……。
「どうしたんですか?」
「おおっ⁉︎」
不意を突かれた俺は驚き、思わず大きな声を上げてしまう。
「そんなお化けでも出たかのように驚かないでください」
「す、すまん。ちょっと気を抜いてたから」
「よく分かりませんけど」
以前の蒼乃の様にベダベタしてくる事は無いが、蒼乃が来てくれた事は素直に嬉しかった。
「来てくれたのか」
「……まぁこれは一応親友の紫音からのお願いなので、断るわけにはいかないかと思って」
「そうか。時間になっても来ないからもう来ないのかと思ったぞ」
「そ、それは……。3分ルールです。3分までなら遅刻じゃありません」
え、何その横暴なルール、床に落ちた食べ物に適用される3秒ルール的なやつ? と思いながらも、蒼乃が来てくれた喜びと、いつも以上に可愛く輝いて見える蒼乃の姿に3分ルールという訳の分からないルールは飲み込んだ。
「まぁ3分だしな。俺もとやかくいうつもりは無い。それじゃあ行くか」
俺たちはアウトレットモールを見て回る事にしたが、今までのデートあれば俺の腕にしがみ付きながら歩いていた蒼乃が、若干の距離を置いて歩いており寂しさを感じている。
いや、俺は緑彩先輩に告白して両思いになって、しかも蒼乃はそれを見ていたのだからこうなるのが当たり前なんだけど。そうなんだけど……。
どれだけ自分に言い聞かせても、蒼乃が自分から離れていく姿を受け入れる事が出来なかった。
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