第75話 指令、蛇に睨まれたカエル
演劇の内容も最終結末以外は決定し、俺たちは手分けして作業を進めていた。
劇中に使用する衣装は学生服や自分たちが普段着用している私服なので衣装を作る必要が無い。
となるとやはり一番熱が入るのは演劇の練習なのだが……。
「あー、誰か助けてー」
「大丈夫ですかー」
「……あなたたち、真面目に演技してる?」
配役は紫倉が蒼乃にジャンケンで勝利し自分の役をそのまま演じる事になったため、俺と蒼乃がこの物語の主役になってしまっている。
しかし、これまでの人生で演技なんて一度もした事が無い上に、今の俺と蒼乃の関係ではまともな演技など出来るはずもなかった。
「一応真面目にやってるつもりではあるんですけど……」
「私も真面目にやってるつもりです」
「まぁ確かに小説を読むのが好きでも実際に演技なんてやったこと 無いしね。今のところ見ているだけの私もあまり強くはいえないけれど。とりあえずもう一度やってみましょう」
こうして俺と蒼乃は何度も何度も2人が出会うシーンを演じたが、一向に改善せず時間だけが流れていった。
「今日はここまでね……。とりあえず引き上げましょう」
流石の緑彩先輩も、指導しても中々向上しない俺と蒼乃の演技力に疲労の色を見せた。
棒読みの演技を繰り返し見せられていれば仕方のない事だろう。
すると、ずっと黙り込んでいた紫倉が口を開いた。
「ちょっと、白太先輩と蒼乃、こっち来て」
唐突に紫倉に呼ばれた俺と蒼乃は部室を出て廊下にやってきた。
何かを言いたげな紫倉は大きく息を吸い込む。
「あなたたち、一回2人で遊んで来なさい‼︎」
え、遊んで来なさい? 演技が下手な事に何か言いたかったんじゃないのか?
「遊んで来なさいってどういうことだ?」
「別に私は遊びに行きたく無いんだけど」
紫倉の遊んで来なさいと言う言葉に驚いたのも束の間、今度は蒼乃の遊びに行きたく無いと言う言葉にショックを受けた。
「ええいめんどくさいわね‼︎ いくら何でも仲が悪すぎる‼︎ 何があったか知らないけどあなたたちの事情を部活にまで持ち込まれたらみんなが迷惑するのよ‼︎」
紫倉が大きな声を上げて激しくいうので、俺と蒼乃は思わず背筋をピンっと伸ばした。
「あ、あの紫音、落ち着いて、ね?」
「そ、そうだぞ。落ち着け。短気は損気って言うだろ?怒ったても良い事無いぞ?」
すると、紫倉は黙り込み雰囲気が一気に変わる。そしてさらにスイッチが入ったような音が聞こえた気がした。
「あんたたちが落ち着きなさいよ‼︎ ちゃんと話し合いなさいよ‼︎ いつまでもいつまでも引きずってるんじゃない‼︎ いいから遊びに行って来なさいっ‼︎」
「「は、はいっ‼︎」」
俺と蒼乃は紫倉の前で萎縮し、蛇に睨まれたカエル状態となった。
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