第74話 自覚、最低な自分
部活からの帰り道、部室で感じた疑問を玄人にぶつけてみた。
「まさか玄人があんな話を作ってくるなんて思わなかったよ。急
にどうしてあんなことしようと思ったんだ?」
俺が疑問に思ったのは、今まで部活動に積極的ではなかった玄人がなぜ急に積極的になったのかという事だ。
「そうだなー。黙ってるつもりだったけど、あれは白太と蒼乃ちゃんのためだよ」
「俺と蒼乃のため?」
「合宿が終わってからの2人ときたら、見てられなかったよ。俺も心配してたけどさ、一番心配してたのは紫音だよ」
「紫倉が?」
「そりゃあれだけ白太のことが好き好きだった親友の蒼乃ちゃんがあんな風にあからさまに落ち込んでれば嫌でも気になるさ」
俺には気を遣って誰も俺と蒼乃の関係性について尋ねてくる人はいなかったが、気になって心配するのも無理は無い。
「まぁそりゃそうだよな」
「俺もあえて聞かないようにしてたけどさ、なんで急に蒼乃ちゃんと喋らなくなったんだよ」
蒼乃と喋らなくなった理由を問われた俺は、玄人に正直に合宿での出来事を話すか悩んだが、親友である玄人には正直に全てを話す事にした。
「合宿で肝試しのとき、緑彩先輩に告白してるところを見られたんだよ」
「……は⁉︎ お前また緑彩先輩に告ったのか?」
「ああ。告った。で、成功した」
「は⁉︎ 成功した⁉︎ 緑彩先輩に好きだって言われたのか⁉︎」
「そう言われた。俺も最初は自分の耳を疑ったけどな。今は蒼乃との仮の関係もあるし、付き合うって話にはなってないけど。
玄人は目を見開き、顎が外れたのかと思うほど口を大きく開けている。
「いや、てか告白して成功してることにも驚いたけどそれを蒼乃ちゃんに見られたって方に驚いてるんだけど」
「ああ。それで落ち込んで自暴自棄になった蒼乃が肝試しのときに山奥で迷ったんだ」
そういうことかと玄人は大きなため息をついた。
「俺はさ、白太がずっと緑彩先輩のことを好きだったのを知ってるからとやかくいうつもりはないよ。むしろおめでとうって言ってやりたいくらいだ。でも、白太は本当にそれでいいのか?」
「それでいいのかとは?」
「このままだと間違いなく蒼乃ちゃんと白太の関係は終わる。そして白太の話が本当なら白太は緑彩先輩と付き合うことになるだろ? それでいいのかって。仮の関係とはいえ、蒼乃ちゃんと一緒に過ごした毎日は楽しくなかったのか? よく考えたのか?」
考えたのか、と言われても合宿から帰ってきてから俺は蒼乃との関係について考えたことはない。というよりも考えないようにしている。
だから今は、蒼乃との関係がこれからどうなるのか分からない。
最低だと分かっていても、緑彩先輩と付き合える、そう考えると自分の気持ちが楽になった。
「合宿が終わってからは蒼乃とは関わらないようにしてるし、蒼乃のことは考えないようにしてる」
「……はぁ。まあ今とやかく言わないって言ったばっかりだからさ、もうこれ以上何も言わないけど。本当に大切なものを見失わないためには、苦しんででもそのことについて真剣に向き合って考えるべきだと思うぞ」
自分が最低だと自覚しているからこそ、玄人の言葉は心に刺さるものばかりだった。
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