第73話 軍配、友人のために


 文化祭で披露する演劇の内容は玄人の考えたストーリーで行くことになった。


 次の問題は誰がどの役を演じるかである。


「玄人くん、配役は考えてあるのかしら?」

「この話はフィクションでもなんでもなくて、実在する話を作ってきただけなので配役はそのままその人がやるって感じでいいんじゃないかなとは思ってます」

「いやもう実在する話って言っちゃったよ。寄せたとかじゃなじゃん、そのまんまじゃん」

「ん? 何も言ってないけど?」


 すっとぼける玄人に呆れながらため息をついた。


 俺は自分が演劇に登場するつもりはなかったし、大道具や照明、道具の買い出し等ひたすら裏方の仕事をしていればいいと思っていた。

 それは、演劇に出演したくないとか恥ずかしいとかではなく、蒼乃と関わることを避けたいからだ。


 だが、配役はそのままという今の玄人の発言がこの場ですんなり通るような事があれば、俺は蒼乃と関わることを避けられない。


 そうなることを阻止するため、俺は前のめりに発言した。


「玄人が創った話が俺たちの話だったからって、そのままの配役ってのも面白味がないんじゃないか? 自分の行動を自分で演じるってのは味気ないし、お客さんに面白いって思ってもらえなさそうな気がする」

「そうですね。その意見には同意です」


 俺の意見に同意してきたのは蒼乃だ。恐らく、自分が自分を演じるのが面白くないからという俺の意見に賛同したのではなく、俺が蒼乃と関わりたくないように蒼乃も俺とあまり関わりたくないからだろう。


 俺自身が蒼乃と同じ気持ちなのだから、蒼乃も同じことを考えていておかしくはないのだが、蒼乃が俺と関わりたくないと思っていると考えると胸が締め付けられた。


 だが、胸を締め付けられるこの感覚を、俺は知らぬ間に蒼乃にも感じさせてしまっているのではないだろうか。


「そ、そのままのキャストだと確かに面白味が無い気がする。私も別の人が別の人を演じる事には同意」

「私は同じで構わないと思うわ。自分を演じるからこそ、リアリティが出るとおもうし」


 紅梨も俺と蒼乃の意見に同意をしたが、緑彩先輩は反対意見を示した。

 玄人は自分が自分を演じるという配役で良いと考えており、紫倉もそのような考えを持っている。


 配役問題は3対3に二等分となり、話し合いの結果最後はジャンケンで決めることにした。


 俺は玄人とのジャンケンに勝利し、次の紅梨が緑彩先輩に勝てば俺は蒼乃と関わることを免れる。


 しかし、紅梨はジャンケンに敗れ、残るは蒼乃対紫倉のカード。


「絶対勝つよ。蒼乃のためにも」

「……私はどっちでも良いけど」


 そしてそのジャンケンは紫倉がグーで勝利し、そのまま拳を天高く突き上げた。

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