第72話 創作、意欲的な友人

 俺たちが文化祭で披露する演劇の内容は自分たちで創作する事に決定した。


 新たなストーリーを創作するには各自で考えるよりも全員が集まって考えた方が良い話が出来ると言う事で、部室に集まり演劇の内容について意見を出し合っている。


「こんな案はどうかしら」


 緑彩先輩は多くの本を読み漁っているかだけあり、話を考えるスピードは異常に早い。次から次へと新しい案が出てくる。


 しかし、緑彩先輩には大きな欠点があった。


「んーでもなんかやっぱりありきたりですよね」


 紫倉が言うように、緑彩先輩の頭の中には色々なストーリーがインプットされており、新しいストーリーと言うよりも、元々ある話をバラバラにして繋ぎ合わせたような内容が多いのだ。


 なので、緑彩先輩の提案を聞いて、面白いと思う話はあっても、どれもありきたりだなぁと思ってしまう。


 すると、ありきたりと言われ落ち込んでから緑彩の横からスッと手を伸ばす者がいた。


「あの、軽くストーリー考えてみたんでちょっと見てくれませんか?」


 そう言って1冊の台本を取り出した玄人。


 玄人が台本を? なぜ玄人は今回の文化祭にここまで前のめりなのだろうか。

 確かに紫倉と付き合ってからは文芸部の活動にも前のめりだったが、玄人には俺が緑彩先輩と関わりたいからと言う理由で無理やり文芸部に入部してもらっているので、文芸部の活動には精力的に参加していなかった。


「ちょっと読ませてくれ」


 友人である玄人が作ったストーリーがどのようなものなのか、気になった俺は誰よりも先にその台本を読んだ。


「へぇー。ふむふむ。なるほどなるほど。あー。こうゆう展開ね。はいはい。分かる分かる。……ってこれ俺たちの話まんまじゃないか⁉︎」


 玄人が作ってきた台本に書かれていたあらすじはこうだ。


 先輩に振られた男子高校生が、悪漢に追われトイレに逃げ込んだ女の子を助け出し、その女の子が助けてもらった高校生に恋をする。

 それからその女の子の押しに負けた男子高校生は、仮の関係としてお試しでその女の子と付き合うことになり話が進んでいくというものだ。


「んーまぁちょっと寄せた」

「いやちょっとじゃ済まないよ⁉︎ 確信犯なんだけど⁉︎」

「肝心のラストは決めてないんだけどな」


 最終的な展開は決めていないと言うが、そこにたどり着くまでの経過が完全に俺と蒼乃が付き合った状況なんですけど?


「いや、こんな話見て誰が面白いと思うんだよ……」

「いや、意外といけるかもしれないわ」


 緑彩先輩は玄人の考えたストーリーを読んで好感触を示している。


「いや、流石に無理があるような気が……」

「私はこの話がいいと思う。結末は今からみんなで決めていけば良いのだから」

「私も面白い思います。既存の話をやるよりも、自分たちで考えた話の方が面白そうだし」


 緑彩先輩の意見に紅梨も紫倉も賛同し、玄人の考えた内容で演劇をする事になったが、この話し合いの中で蒼乃が口を開く事は一度も無かった。

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