第67話 結末、2人の距離
協力して下さい、と言って急に唇を重ねて来た蒼乃を俺は反射的に引き剥がした。
「え、ちょっ、何やってんの⁉︎」
「私なりのケジメです。こうでもしないと白太先輩のことが大好きで、手を繋ぎたい、抱きつきたい、キスしたいって欲求がいつまでたっても消えてくれなさそうだったので」
キスをしてきた蒼乃を引き剥がしたとはいえ、俺の唇には蒼乃の唇の感触が残っている。
「だからって急にこんなことされたらびっくりするだろ……ってちょっと⁉︎」
蒼乃は俺が動揺している隙を見計らって飛びついて来た。俺は蒼乃の勢いを受け止めきれず、蒼乃を抱えながら地面に尻餅をついた。
抱きついて来た蒼乃は俺の服に顔をうずくめる。
「……蒼乃さん?」
しばらくして、蒼乃は大声で泣き始めた。
無責任だと分かっていながら、俺はそんな蒼乃の体をそっと抱きしめた。
急に蒼乃にキスをされ、俺は自分の気持ちを整理出来ずにいた。緑彩先輩が好きだという気持ちに変わりはないが、蒼乃の痛々しい姿を見ているとそれが正しい選択なのかどうか分からなくなってしまっている。
気持ちを整理出来ていないのは蒼乃と同じだろう。
「よし、それじゃあみんなのところへ帰りましょう‼︎ 私はもう新しい私になったんですから‼︎ きっと大丈夫です」
蒼乃は無理をしているように見える。もう少しゆっくり蒼乃と2人で話をしたいと思ったが、早くみんなの元に戻らなければ心配をさせてしまうし、蒼乃を捜索している間に別の誰かが迷ったり怪我をしたりするかもしれない。
俺は急いで蒼乃を連れてみんなの元へと帰ることにした。
「本当に大丈夫か? って俺が聞くのもおかしいけど」
「大丈夫って言ったら嘘になります。でも、大丈夫にならないといけないんです」
心の中はぐしゃぐしゃなはずなのに、それでも強くあろうとする蒼乃の姿に俺の心はさらに押し潰される。
スタート地点に帰ると、俺たち以外のメンバーが俺たちの帰りを待っていた。
「蒼乃‼︎」
1番に飛び出して来たのは蒼乃の親友の紫倉で、ぬかるんだ土でドロドロになった蒼乃の服を全く気にせずに蒼乃に抱きついた。
蒼乃がいなくなったことに1番動揺をしていたのは紫倉だったし、今こうして泣きながら抱き合っている2人を見ていると、蒼乃を見つけられた事は本当に良かったと思う。
「ちょっと、あんまり強く抱きしめられると痛いんだけど‼︎ それに私ドロドロだから抱きつくと紫音も汚れる……って、紫音もドロドロになってる⁉︎」
「あぁ、蒼乃を探すのに必死になってたから服が汚れてることに気がついてなかったみたい」
「紫音〜……。本当ごめんね」
俺の軽はずみな行動が蒼乃を危険に晒したのみならず、こうして多くの人に迷惑をかけてしまい誰よりも責任を感じ、深く反省をした。
そして肝試し後は特に大きな問題もなく合宿は終了した。
しかし、合宿が終わってから俺と蒼乃の会話が激減した事は言うまでもないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます