第59話 交代、置き去りにされた俺

 星空に奪われていた俺の目は紅梨の放った一言により一瞬で紅梨の方へと向けられた。 


 俺は完全に紅梨の行動と発言に振り回されている。


 急に夜空が綺麗に見渡せる場所にに連れてこられたうえに、好きな人と見る景色はどんな景色でも最高だって?


 それはつまり、そう言う事だよな……? 俺のことが好きって事で間違いないよな……?


「え、紅梨、それって……俺のことが好きってことか?」

「うん。好きだよ」

「あ、ま、マジか……」

「――友達として」


 うん、やっぱり俺のこと好きなのか。友達として。


 ‥…え、友達として?


 あああぁぁぁぁァァァァ‼︎ そうか、そのパターンがあったか‼︎


 くそっ、いつもその類の勘違いには気を付けているはずなのに雰囲気にのまれて完全に騙されたっ。

 いや、紅梨は別に俺を騙すつもりはなかったのかもしれないが、俺としては騙された気分になってしまう。


「お、俺も紅梨の事好きだからなと、友達として」

「ありがと。白太、もしかしてなにか勘違いしてた?」

「ば、ばかいえ。そんな勘違いするわけないだろ」


 く、くそぉぉぉぉ‼︎ したり顔でこちらを見つめる紅梨。


 こいつ、さては図ったな‼︎


「よし、景色も堪能した事だしそろそろ行くね」

「え、行くってどこに? もう景色が見終わったなら肝試しのスタート地点に帰ればいいんじゃないか?」


 紅梨の発言はさらに謎を深める。今からまた別の場所に向かうのか? 


「色々あるの。白太はここにいて」

「は、ここにいろだって? ま、待て‼︎ なんで俺はここにいなきゃいけないんだぁ⁉︎」


 俺の言葉を聞こえていないかのごとく紅梨はそのまま闇の中へと消えていった。紅梨は暗闇が怖いはずなのに1人でどこへ行くって言うんだ?

 こ、これは追いかけたほうがいいのだろうか。ここにいろって言われたが追いかけないと心配だ。


 そう思って1歩を踏み出した瞬間、後方から声が聞こえた。


「白太くん」

「……緑彩先輩?」


 紅梨がどこかへ行ってしまい、その次は緑彩先輩?


 いや、でも緑彩先輩は玄人と2人で肝試しをしているはずだが……。


「ここ、本当に綺麗な場所でしょ。子供の頃は私もよく来たのよ」

「そうですか……じゃなくて、なんで緑彩先輩がここに?」

「玄人くんとはぐれてしまってね。私はここの地形をよく知っているから、玄人を探していたらここにたどり着いたってわけ」

「え、じゃあ玄人を探さないと」

「それなら大丈夫よ」

「……え?」


 大丈夫と言って緑彩先輩が見せてきたのはスマホの画面。


 そこには玄人とのLINEのトーク画面が開かれている。


『玄人くん、大丈夫?』

『俺は無事戻れましたんで、緑彩先輩も気をつけて帰ってきてくださいね』


「ね? 大丈夫でしょ?」

「な、なるほど。確かにこれなら大丈夫ですね」

「だから、2人でゆっくり話をしましょう」


 紅梨の次は緑彩先輩と2人で話をしないといけないのか……。


 俺の心は肝試しよりも断然落ち着かないのだった。

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