第60話 学習、同じミスは1度まで

 2人で話をしましょう、と言っている緑彩先輩だが、俺からすると緑彩先輩と2人で会話をするのはリスクが高い。

 夜景を見ていた時の様に勢いで告白してしまう可能性があるからだ。


 去年の12月に緑彩先輩に告白して振られているのだから、再度告白したところで振られる未来は目に見えている。

 振られてしまえば俺と緑彩先輩の関係はさらに悪化し後戻りは出来なくなる。


 今でこそ普通に会話を出来ているが、振られてからしばらくの間はまともに会話する事すら出来なかった。


 だから緑彩先輩とはあまり2人きりになりたくない……。


 なんとか自制を効かせろ俺っ。


「ここ、星空がすごく綺麗に見えるんですね」

「そうでしょ? こんなに綺麗な星空なら毎日でも見ていられるわ」


 海風になびく艶やかな髪を緑彩先輩は手で優しく耳の後ろにかける。


 その姿を見た瞬間、俺の自制は容易く崩れ去った。


「……本当に綺麗です」


 星空に対する感想を言っているかの様に思わせて、俺は緑彩先輩に対しての感想を言っている。

 パティシエが作るお菓子の様に完成されたその容姿を見るためにお金を払ってもいいと思うくらいだ。


「でもこんなに綺麗な星空も毎日見られるわけじゃないのよね。雲に隠れて見られない日だってあるわ」

「星空も人間みたいに落ち込んだり泣きたくなったりするんですかね」

「流石白太くん。文芸部員として小説を読んでいるだけあって感性が成長してるわ」


 文芸部員として成長している俺に親の様な暖かい目を向ける緑彩先輩。

 そんな表情も愛おしいが、俺が向けられたい表情はその表情ではない。


 普通の友達や家族には見せない、特別な人にだけ見せるしおらしい表情だったり、気を許した表情を俺はもっと見てみたい。


 俺は数メートル離れて会話している緑彩先輩との距離を詰め、1メートルほどの距離まで近づいた。


「緑彩先輩」

「何かしら」

「聞き逃さない様に耳を澄ましてください。俺は、俺は……。緑彩先輩の事が好きです‼︎」


 夜景を見た時の様にムードのある雰囲気ではなく、誰が聞いても聞こえないとは言えないほどの大きな声で緑彩先輩に告白をした。


 何故かは分からないが、もうこのまま降られてしまってもいいのではないかと思うほど心が整理出来ている。

 純粋に緑彩先輩の事が好きなのもあるが、やはり自分の気持ちにケリを付けたかったのだろう。


「……え?」

「好きです。緑彩先輩。もう2回目の……いや、正確には3回目の告白ですけど、本当に好きです。大好きです」


 よし、後退りするな俺。当たって砕けろ。


 ここで引いてしまっては俺が攻めた意味がなくなってしまう。


「……私も白太くんが好き」

「……⁉︎」


 緑彩先輩も、俺のことが……⁉︎


 いや、危ない危ない。


 さっき紅梨とのやり取りで学んだばかりではないか。


 好きとは言っても、緑彩先輩の言う好きとは、友達としての好きなのだろう。


 もう俺は騙されないぜ。

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