第55話 料理、意外な一面
太陽も沈みかけ、俺たちは夕食の準備に取り掛かった。調理場では俺と蒼乃、それに玄人と紫倉が作業をしている。
「そこのお皿、取ってもらってもいい?」
「はいよっ」
「飲み物の準備もお願い」
「任せろ」
相変わらず夫婦並みの連携を発揮している玄人と紫倉のカップルを見て、蒼乃も目を丸くしている。
「……凄いですね。あの2人」
「あぁ。それは俺も前から思ってる」
玄人と紫倉の夫婦のような関係に驚かされたのは1度や2度ではない。
その度にこのまま夫婦になるのではと思わされる。
「まさか紫音がこんなふうになるなんて思ってませんでした」
「1人で何でも出来そうなタイプだしな」
「そうなんですよ‼︎ 紫音って大人っぽくて世話焼きで頼りになる感じだったんです。だから、まさか紫音が男の人と付き合って、こんなに仲良くなるなんて思ってませんでした。人生何が起こるか分かりませんね」
「何が起こるか分からない度合いで言えば俺と蒼乃も相当だけどな」
蒼乃は、ハッとした顔をして「そうでしたね」と言いながら笑う。
この笑顔、守りたい。
玄人と紫倉が抜群の連携で調理を進めていく横で、俺たちもせっせと作業をしている。
緑彩先輩と紅梨は飲み物が足りないから買い物に行ってくるがと言って出て行ってしまったので、2人抜きで調理を進めている。
「それじゃあ始めますか」
「はい‼︎ 白太先輩はにんじんとジャガイモの皮むいてもらえます? 私は玉ねぎ切るんで‼︎」
蒼乃は玄人と紫倉に負けないぞと意気込み、よしっ、と気合を入れた。
俺はピーラーを使ってにんじんの皮を剥き、剥き終わった人参を蒼乃に渡す。
すると、蒼乃が目にも止まらぬ速さで人参を切り始めた。
よく考えてみると蒼乃が料理を得意としているか、苦手としているかを知らなかった。
この包丁さばき、蒼乃が料理を始めたのは最近ではなさそうだ。
高校生とはいえ、まだまだあどけなさの残る蒼乃が料理が得意だとは意外すぎるな。
「すげぇな」
「そんなことないですよ。まぁ料理は人並み以上には得意ですかね」
謙遜する蒼乃が料理をしている姿に見とれてしまい思わず腕が止まる。
玄人達だけじゃなく、俺たちも夫婦みたいだな。
こんなふうに、蒼乃と一緒に家で料理したりテレビ見たりして……。
そんな幸せな光景を思い浮かべてしまう。
俺が緑彩先輩のことを諦めて蒼乃のことを好きになればどれだけ幸せな未来が待ち受けているだろうか。
「なんかあれですね」
「ん? なんだ?」
「黒瀬さんと紫音もそうでしたけど、白太先輩と一緒にご飯作ってると、本当に夫婦みたいな感じですね」
……蒼乃も全く同じことを考えていたのか。俺も同じ事を考えていたとは口が裂けても言えない。
そうこうしているうちにカレーが完成し、完成とほぼ同じタイミングで緑彩先輩と紅梨が帰ってきた。
買い物に行くと言って出て行っただけの割に、帰宅が遅い様な気もするが道に迷いでもしたのだろう。
とにかく、これでようやく晩飯にありつける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます