第56話 度胸、本物の肝試し


 カレーを食べ終えた俺たちは食後の食卓にお菓子を広げ、会話に花を咲かせていたのだが、その会話を遮って緑彩先輩が唐突な発言をした。


「肝試しをするわよ!」


 食後は皆で夏の定番である花火を楽しんで合宿1日目は終了する予定だったのだが、これまた予定に無い提案に俺たちは顔を見合わせる。


「肝試しって言ってもこの人数でやるんですか? お化け役も最低1人か2人必要だと考えると人数が足らない気がするのですが」

「それなら大丈夫よ。この近くに心霊スポットがあってね。お化け役なんていなくても本物がいるはずだわ‼︎」


 むしろ本当のお化けがいる方が大問題な気がするが、お化けや超能力といった類のものを信じてはいない俺にとっては大した問題では無い。


「へ、へぇ。肝試しですか。の、臨むところです」


 蒼強がって見せる蒼乃だが、体を震わせ明らかに動揺している。


「もしかして怖いのか?」

「そ、そんなわけないじゃないですか‼︎ 高校生にもなってお化けが怖いだなんてそんなお子ちゃまじゃありませんよ」


 ……怖いんだな。高校生でも大人でもお化けが苦手な人はたくさんいるから。見栄を張る必要は無いよ、蒼乃さん。


「それじゃあこのくじを引いて貰えるかしら」


 緑彩先輩がどこからともなく取り出したのは番号の書かれた割り箸。相変わらず入念に準備をされている。


「そのくじ、白太先輩が引いた後に私が引きます‼︎ せっかくなら白太先輩と一緒になりたいので」

「ええ。構わないわよ」


 残り物には福があるとも言うが、狙った番号がすでに入っていないかもしれないくじを引くのはやる気が削がれる。

 とはいえ、どれだけ願っても最後は運。自分で勝ち取るよりも神頼みする方が重要だ。


 そして俺は誰よりも先に、何も考えずにくじを引いた。


「俺は1番だ」


 俺が1番を引いたのを見た蒼乃はくじを持っている緑彩先輩の前で手を合わせ、神頼みをしている。しばらくしてから合わせていた手を離し、「行きます‼︎」と意気込んで勢いよくくじを引いた。


 そのくじを見た蒼乃は膝から崩れ落ちる。


「……残念だったな。まぁこればっかりは仕方ない」

「そうですよね……。運ですもんね……」


 そして俺は紅梨と、蒼乃は紫倉と、緑彩先輩は玄人と組むことが決定した。


「ぐぬぬぬ……。まぁ緑川先輩が白太先輩と組まなかっただけよしとしますか……」

「あんた、正直な声が表に出過ぎよ」


 俺としてはそう正直に口にされるのは悪い気はしない。


「ごめんね。青木さん」

「いえ、わがまま言って最初にくじを引かせてもらっただけでもありがたいですので」


 今回の肝試しは心霊スポットだと呼ばれる山中を一周歩き帰ってくるというもの。


 1周10分程度の道のりらしいが、何が起こるか分からない夜の山道。気をつけるに越したことは無いだろう。

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