第53話 水着、輝く少女たち

「なぁ玄人」

「どーした?」

「今の気温って何度だ?」

「今日は38度まで上がるってニュースで言ってた」


 気温38度の猛暑日、暑さに苛立ちを覚え自我を保てなくなりそうな気候だ。

 海風は生暖かく、暑さは余計に際立つ。


「そうか」

「おう」

「でもさ、なんかどうでもよくね?」

「……そうだな」


 俺と玄人は水着に着替え、ビーチパラソルの前に仁王立ちし遠くを眺めていた。

 俺は日焼けをするとその日の夜に異常なヒリヒリが体を襲うので、寝巻き用に持って来ていたパーカーを羽織っている。


 それにしても、文芸部が誇る美少女4人が今から水着姿で登場するわけか……。男として楽しみじゃないわけがない。


 心を踊らせながら女性陣の着替えが終わるのを待つ。


 すると突然、玄人がある質問を俺に投げかけた。


「白太は良いのか?」

「何が?」

「蒼乃ちゃんの水着姿を俺に見られるのがだよ」


 玄人は俺が蒼乃の水着姿を玄人に見られるのが嫌だと思ってるのか……? 質問の意味が理解出来ない。


「俺はちょっと嫌だけどな。白太に紫音の水着姿を見られるの。まあ仕方ないけどさ」


 え、急にどうした? じゃあ俺、目線どうしたら良いの?


 蒼乃の水着姿を楽しみにはしているが、玄人に見られて嫌だと思うわけ……。


 あれ、俺、何で今モヤっとしたんだ?


 蒼乃の水着姿を玄人に見られる場面を想像したら、なぜかモヤっとした気持ちになった。

 親友の玄人に見られるのは他人に見られるよりマシだが、見知らぬ男に見られると考えるとさらにモヤっとした気持ちが大きくなる。


 色々と考えているうちに、女性陣が着替えを終え、ビーチへとやって来た。


「お待たせ。暑いのに待たせてすまないわね」


 緑彩先輩の声が聞こえ、俺と玄人は後ろを振り返る。


 そこには水着に着替えた女性陣が並んで立っており、4人の周囲が輝いて見えた。


 緑彩先輩は緑を基調とした水着で、パレオを見にまとっており大人感を漂わせている。


 ……胸、大きいな。


 男性的に大きな胸は魅力的だが、そのせいで緑彩先輩を直視出来ない。


 これ以上は無理だと緑彩から目線を外し蒼乃に目をやると、水色のフリルがあしらわれた水着を着用していた。


 大人過ぎず、かといって子供っぽくもない、丁度良い線を攻めて来たな。

 そこはかとない胸も俺の胸を熱くする。


 ――あれ、俺ってもしかして貧乳いける?


 いや、そんなこと言ったら蒼乃に怒られるな。心の内に留めておこう。


 紅梨の水着は下がショートパンツのような形になっており、上は紅色。これまた紅梨によく似合っている。


 紫倉は……紫色の水着を着ているが、あまり直視さないでおこう。


 玄人に怒られそうだし。


「みんな似合ってますね」

「ああ、これが夏、これぞ夏だな」


 俺が皆を総じて褒めると、少し不機嫌そうな蒼乃が俺の方へ近寄ってくる。


「みんな似合ってる、ですかそうですか」


 普段着ている服のの1割ほどしかない布地には全く目が行かず、思わず蒼乃の姿を見る。


 不満そうにしている蒼乃を他所に、俺は咄嗟にある行動をとった。


「これ、羽織っとけ。日焼けするぞ」


 俺は自分が日焼け対策に着用していたパーカーを蒼乃に渡す。


「あ、ありがとうございます」


 パーカーを着ると、裸にパーカーを羽織っているようで余計にエロさが際立つな。


 だがまぁ、蒼乃の素肌を誰かに見られるよりは……。


 いや、だからなんだこの考え方は‼︎ 俺らしくないぞ‼︎


 細かい事は気にするな、水着ってことを変に意識するんじゃない。


 そして俺たちはビーチパラソルの下に座り、小説を読み始めた。


 心地よい風が吹き抜け、ザァザァと押し寄せる波の音が耳を優しく撫でる。

 太陽の日差しはビーチパラソルで遮られ、思いのほか、快適な空間で読書に没頭出来る。


「緑彩先輩、流石ですね。こんなに気持ちよく読書ができるなんて思ってませんでした」


 俺は学校や家以外で読書をした事がない。


 近所のカフェで本を読んでいるやからを見かけると、なぜ家で読まないのかと疑問に思っていた。


 知りもしないで偏見を持つのは良くないな。今度カフェで読んでみるか。

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