第47話 謝罪、スタート地点
心地よい風が吹き抜け木々が騒ぐ。瞬間、騒がしい音の中に唐突な言葉が聞こえた。
「ーー俺、緑彩先輩のことが好きです」
一度は聞き間違いではないかと自分の耳を疑ったが、白太君の真剣な表情を見て今の言葉が聞き間違いでは無い事を理解した。
その言葉に対して、二つ返事をしようとした私の体は思わず前のめりになる。直ぐにでも言いたい。私の気持ちを。
しかし、その言葉を口にするのをグッと堪え、深く吸い込んだ息をゆっくりと吐きだす。
私が口にしようとした言葉を予想するのは容易な事だろう。
私は白太君が好きなのだから、その気持ちをそのまま伝えるのみ。伝えるべき言葉は多くない。
それなのに、返事を堪えたのは冷静な判断や償いの思いがあったからだ。
そもそも、白太くんは青木さんと付き合っているはずなのに、なぜ私は告白されたのか。
告白自体は宇宙の果てまで飛んでいってしまいそうになるほど嬉しい。目の前に投げられた罠に飛びついてしまいたい気分。
今日は青木さんから白太くんを奪うくらいのつもりでデートに来ているわけだし、白太くんの告白を断る理由は無い。
しかし、私は白太くんが暴言を浴びせられ続けていた事を何かの形で謝罪しなければならない。
白太くんが教室でクラスメイトから暴言をかけられている場面に遭遇するまで、その事実を知らなかった。
自分勝手な理由で白太くんを振って、そのせいで白太くんがあんな目に遭っていたと言うのに、私はそれを知らずに生活していた。最低な女だ。
そんな私に比べて、青木さんは白太くんと付き合い、一途に白太くんを想い続けている。
私にはそれを償う義務がある。
それに、恐らく今日白太くんが私とデートしている事は青木さんも知っていて、容認してくれているのだろう。
白太くんにも、青木さんにも償いをしなければならない。
そうでないと、この先正々堂々と青木さんや紅梨と勝負出来ない。
それなら私がこの告白にするべき返答は……。
「今何か言ったかしら?」
これが罪滅ぼしにらなるのかどうか、私には分からない。
けれど、今は青木さんと付き合っている白太くんからの告白を受けるべきではない。
白太くんは青木さんと付き合っている事が他の生徒に知られてから暴言を浴びせられる事もなくなったようだし、私がこの告白を無かったことにしてももう問題は無い。
白太くんが最終的に誰を選ぶかは私たちの頑張り次第。
白太くんの気持ちが聞けただけで満足した。真意は分からない。でも、去年のクリスマスから白太君の気持ちは変わっていない。
今の私には、その事実だけで十分だった。
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