第46話 意表、認められたような感覚
俺は夜景を見て現実から目を逸らすことしか出来なかった。
綺麗な夜景に目を奪われてしまったからなどというロマンチックな理由なら良かったのだが。
「なんですか? 俺、なにか先輩の気に触るようなことしましたか?」
緑彩先輩が俺に言いたい事とは何なのか、想像しても全く見当がつかない。
想像出来るとすれば、俺が緑彩に嫌われるような何かをやらかしてしまったこと。
「もう、なんであなたはそんなにネガティブなのよ」
「それが俺の長所でもあるんで」
自分で言っていて悲しくなる。ネガティブなのが長所の人間が告白に成功するわけがない。
「これ、あなたにあげるわ」
「……?」
「受け取って」
緑彩先輩が差し出した手には、手のひらよりもやや大き目の袋が乗せられている。
その袋を受け取るが、質量は無いと言っても過言ではないほどに軽い。
暗くてよく見えないが、この袋の中に何かが入っているのか?
「なんですか? これ」
「まあとにかく開けてちょうだい」
緑彩先輩に言われたとり、俺は袋の封を開ける。
中身を取り出したは良いが、暗くてなにも見えない。
俺はスマホのライトをつけ、袋の中に入っていたもの照らした。
「え、これって……」
「誕生日おめでとう。白太くん」
スマホのライトに照らされて姿を現したのは革製のしおり。
「……先輩、俺の誕生日、知ってたんですか?」
「当たり前じゃない。部員の誕生日を覚えていない部長なんて部長じゃないわ」
「いや、部員の誕生日を覚えていない部長なんて五万といると思いますけど……」
緑彩先輩は俺の指摘を、「あらそう?」と笑い飛ばす。
緑彩先輩からプレゼントを貰ったことが嬉しくて堪らない俺は次に発する言葉を失った。
このしおりはしおりとして使うのはやめよう。家で額縁に入れて大切に保管しよう。家宝にしよう。
緑彩先輩、今日は俺に誕生日プレゼントを渡すために俺を誘ったのか。
緑彩先輩に俺の存在を認められたような気がして思わず口角がふっと上がる。
「気に入らなかったら売るなり誰かにあげるなり自由にしてもらっていいわ」
「いえ、大切に使います」
「それじゃあそろそろ帰りましょうか。もう時間も遅い事だし」
「そうですね。帰りましょうか」
そう言って夜景の見える公園から立ち去ろうとした矢先、俺たちの後方にある草むらでガサガサっと言う物音が聞こえた。
「キャア‼︎」
え、ちょっと先輩、まさか怖いの苦手なんですかそうなんですか。
鳥か猫か知らないがナイス。
俺は最後の最後に神様からの贈り物を受け取り、意気揚々と帰宅するのだった。
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