第45話 邪魔、自然の猛威

「……え?」


 そう疑問符を浮かべた緑彩先輩は、なにが起こったか分からないと言った様子でこちらを見つめている。


 ああ先輩可愛い……。


 いや、今は先輩に見とれている場合ではない。


 俺は緑彩先輩に2度目の告白をした。なにが起こったか分からないと先輩が驚くのも無理はない。

 同じ相手から、1度ならず2度も告白されると誰が予想出来るだろうか。


 まあなんにせよ、俺は振られる。


 白太くんと付き合えるわけがない、そう酷い言葉をかけられて逃げ出したあの時と同じように。

 それだけ酷い言葉をかけられたにも関わらず、俺の中から緑彩先輩という存在はそう簡単に消えてくれなかった 。


 ただ、今回は如何なる結果になろうと、どれほど酷い振られ方をしようと、俺はこの場を逃げ出さない。


 自分の気持ちを整理するために。


「あの……」

「……はい」




「今何か言ったかしら?」


 ……え?


「風の音でよく聞こえなかったのだけれど」


 緑彩先輩はキョトンとした顔で首を傾げる。  


 ……ん? 


 要するに、俺の告白が風の音で聞こえなかったと……。


 ――ま、まじすかああぁぁ⁉︎ 聞こえていなかっただって⁉︎ 風の音で⁉︎ その状況は全く予想していなかったぞ⁉︎


 は、恥ずかし過ぎる。1人で盛り上がって勝手に決心して……。


 もう一度同じ事を言えばいいじゃないか、と思うかもしれないが、そんな事恥ずかしすぎて出来るわけないじゃないかよ風の馬鹿野郎。空気は空気らしく空気読めよ……。


「な、なんでもありませんよ⁉︎ 俺、今何か言いました⁉︎ 空耳ですね空耳‼︎ そ、それより先輩、寒くないですか? これ、良かったら‼︎」


 一世一代の大勝負、いや、もう緑彩先輩に告白するのは2回目だけどさ。


 まさか風の音に邪魔されて告白の声が緑彩先輩に届かないなどとは想像もしておらず、焦って震えた声で話の流れを変える。


「あら、ありがとう。優しいのね」


 普段であれば先輩から「優しい」と褒められるだけで1日、いや、1週間は笑って過ごせるというのに、今はその褒め言葉になんも感情も抱けない。


 いや、むしろ告白が聞こえていなかったのはラッキーと捉えるべきなのだろうか……。


 仮に俺が緑彩先輩に告白した事が蒼乃の耳に入ればただでは済まないだろう。

 それに、2度も緑彩先輩に振られたら学校に復帰する事が出来なくなるかもしれない。


 とはいえ、今回の告白は振られる覚悟で、自分の気持ちを整理するために行ったものでもある。


 こんな状態で気持ちの整理など出来るはずもない。


 まあ、とりあえずは今の関係を続けられる状況なわけだし、今の居場所をなくさずに済む。


「こんなところまで付き合ってくれてありがとう。いい思い出になったわ」

「僕の方こそ、素敵な場所を教えていただいてありがとうございます」

「あと、もうひとつ、あなたに話したいことがあるの」


 今度はなんだ?


 神はまだ俺に試練を与えると言うのか……。


 乗り越えられる試練しか与えないとかよく言うけどあれ嘘じゃん。乗り越えようとしても急に壁が高くなるんですけど。


 ただでさえ、告白が緑彩先輩に届かなかった事でメンタル相当きちゃってるのに。


 緑彩先輩が話そうとしている次の話に、戦々恐々とするしかなかった。

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