第32話 円満、掌を返す同級生
突然の蒼乃の一言に俺を馬鹿にしていた奴らは静まり返り、教室は静寂に包まれた。
誰もが話しにくい空気の中、最初に話し始めたのは俺を馬鹿にしていたクラスメイトの陽キャ。
「え、白石と付き合ってる?」
そう反応するのも無理はない。蒼乃と付き合っている俺自身が蒼乃みたいな美少女と付き合っていることが信じられないのだから。
女の子を下の名前で呼んでるのも、昔の俺からしたら考えられないことだし。まぁ紅梨のことは名前で呼んでるけど。
「はい。付き合ってます」
蒼乃は顔色を変えていないが、内心では鬼の形相をしているのだろう。
いや、もうここまで来たら俺がなんと言われようと構わない。
バカとかアホとか意気地なしとか腰抜けとか身の程知らずとか短足とか顔でかいとか口臭いとか……。
自分で言ってて悲しくなってきた。特に口臭いはダメージすげぇ。
だが、蒼乃がのイメージが悪くなってしまうのだけは避けなければならない。
俺と心中して高校生活の貴重な3年間を無駄にする必要は無い。
「え、嘘だろ?」
「嘘じゃありません。ね、白太先輩?」
ね? じゃねえよ。あれほど俺と付き合ってることは内緒だって言い聞かせたのに……。
仮にここで俺が嘘をついて、青木とは付き合っていない、と言ってもそれは逆効果だ。
青木には虚言癖があると言って結果的にいじめの対象にされる可能性が高い。
もう逃げ道は無いな。それならもう本当のことを言うしかないだろう。
「……あぁ。嘘じゃない。事実だ」
そして再び教室は静寂に包まれる。
あー、もうこれ終わったわ。せめて上手く嘘をついて蒼乃だけは助けてやれるほどの実力が俺にあれば……。
「すごいな‼︎ どうやって付き合ったんだよ⁉︎」
――は?
「やばい、急に白石がイケメンに見えてきた」
――俺がイケメン?
バカは休み休み言え、俺は身の程知らずのブサイクなんだぞ?
「顔面交換してくれ」
「付き合ってどれくらい経つの?」
お、おい、男子だけじゃなくて女子まで俺の方に……。
「どっちから告白したの⁉︎ やっぱり男の子の白太くんから?」
「どこまでやったの⁉︎ もうキスはした⁉︎ もうキスはした⁉︎ もうキスはした?」
ば、お前ら一気に別々内容を何個も離すな。そんなに一度に聞き分けられるわけがないじゃないか。
うん、でも確実に1人同じこと3回続けてた奴いたわ。
「それじゃあ白太先輩、また放課後部室で‼︎」
は⁉︎ かき回すだけかき回しといて自分はもう教室に戻るの⁉︎そんな無責任なことある⁉︎
「え、ちょ、まっ⁉︎」
そしてそのまま青木は俺の教室から自分の教室へ帰っていった。
そもそも青木が何故このクラスに来ていたのか知らないが結果だけ見れば、俺も青木も悪いイメージをもたれることは無く円満にその場を解決することが出来た。
◆◆◆
放課後、俺は玄人と2人で部室に向かっている。
「あいつらの掌の返し方半端じゃなかったな」
「本当にな。でもまぁ俺と蒼乃が付き合ってるってことがバレても悪い方向にいかなくて良かったよ。最悪蒼乃がいじめの対象にされた可能性だってあるんだからな」
「確かにな。それより白太、蒼乃ちゃんと付き合ってたこと俺に隠してたな?」
あ、確かに……。
色々ありすぎて俺と蒼乃が付き合っているのを玄人に隠していたことをすっかり忘れていた。
「……すまん」
俺は玄人に隠しごとをしていたことを引目を感じ、謝罪の言葉を口にすることしかできない。
なんと罵られるか……。
「白太なりに理由があって俺に言わなかったんだろ? それくらい分かるよ。だから別になんとも思ってない」
……くぅ、こいつぅ。
頭は悪いくせになんでこんなときは頭が働くんだよぉ。その頭、勉強に活かせよぉ……。
「……大好き」
「ごめん、俺そっちの趣味はない」
「ごめん、でも本当に好き」
「いやーでも驚いたよ。まさか白太と蒼乃ちゃんがねぇ」
「聞いて驚け、俺も驚いてる」
そんな会話をしながら部室に到着すると緑彩先輩の姿が見えず、俺が入部して以来初めて緑彩先輩は部活動を欠席した。
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