第3章

第31話 悪口、新たな噂

 朝、あくびをしながら登校して教室に入ると、何故かクラスメイト全員の視線が俺へと集められる。


 ん? 俺寝癖でもついてる?


 いや、寝癖が付いていたくらいでクラスメイトの視線を集められるほどのカリスマ性をこの俺が持ち合わせているわけがない。


 なぜ皆が俺を見つめるのか。疑問に思いつつも、俺より先に教室に到着していた玄人の元へ行く。


「おはよ」

「おい白太、お前の変な噂が流れてるぞ」

「変な噂?」

「お前、いつかの休みに青木とどこか出かけたりしてなかったか?」

「そ、そんなわけないだろ。俺と青木に接点なんかないって」

「そうだよな……」


 そうだよなってのも失礼な気がするが、それは気にしないでおこう。

 それよりも、青木とデートに行った記憶なんてめちゃくちゃある。入学してから毎週、必ずデートをしているのだから誰かに見られたとて不思議ではない。


「おい、あいつ、身の程知らずで緑川先輩に告白したくせに今度は1年生にいる超絶美少女の青木を狙ってるらしいぜ」

「あんな平凡な顔でそんな可愛い女の子と付き合えるわけねぇだろ」


 明らかにわざと俺に聞こえるように俺の悪口を話している連中の言葉には耳も貸さずひたすら無視をしていた。

 ここで反論したって俺が得することは何一つとしてありゃしない。


 お前らが俺のことを陰でなんと言おうが自由だが、今回は緑彩先輩に振られたときとはわけが違う。


 なにしろ俺は本当に青木と付き合っているのだから。


 緑彩先輩のことが好きだったときは、自分でも自分のことを身の程知らずだと思っていた。

 しかし、今は青木の方から俺のことを好きだと言ってくれている。俺の心には余裕があるのだ。


 だが、俺が無視しているのを良いことに俺の悪口はクラス全体に伝播していく。この調子だと、クラスどころか学校中にこの噂が広まるのも時間の問題だろう。


「おい、白太。このままでいいのか?」

「気にしてないよ。身の程知らずだって言ってることは間違いじゃないしさ」


 そう言って冷静を装うが、内心少しずつ怒りの感情が芽生え始めていた。

 緑彩先輩のときと言い、俺のことをコケにして笑って何がそんなに楽しいのだろうか。


 今はまだ自分のことを馬鹿にされているだけだから我慢できるが、その矛先が緑彩先輩や青木に向こうものなら俺の怒りの沸点は100度を余裕で上回るだろう。


「ま、白石が青木と付き合えるわけないけど、仮にあんな奴と付き合うとしたら青木蒼乃も大したことないやつだよな」


 はいプッチーン。それ今俺が心の中で言ったばっかだかんな?怒ったかんな? はし……。


 とにかく、俺はその一言にはらわたを煮えくりかえらせ席を立つ。

 しかし、普段俺が俺の為に怒ってくれる玄人を止めているのとは逆で、今は怒った俺を玄人が止めようとしてくる。


「やめろって白太っ。いつものお前なら冷静に受け流してるじゃないか」

「いや、こればっかりは我慢ならん」


 自分のことをどれだけ悪く言われようが構わないが、青木のことを悪く言われることには無性に腹が立った。


 そのとき、ガラガラッという巨大な音と共に教室の扉が開いた。

 扉の向こうに立っていた人物を目にした瞬間血の気が引いていくのが分かり一気に不安になった。

 ここ、2年の教室だぞ? なんでお前が……。


「私、白太先輩と付き合ってます」


 ……え?


 急な発言にクラス中が教室の入り口の方を向く。


 そこには青木がいて、俺と自分が付き合っていることを声高らかに宣言した。



 ……だめだこりゃ。

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