第25話 背信、悪気の無い友人

 修学旅行に来ている俺の行動を、ましてや俺が紅梨をおんぶしていたという詳細をなぜ青木が知っているのか。


 その理由は、落ち着いてLINEの通知を見返せば容易に理解できる話だった。


 玄人が面白半分で文芸部のグループLINEに、俺が紅梨をおんぶしている写真を送信していたのだ。しかも4枚。


「あいつ、やってくれたな……」

「やっぱり緑彩先輩に見られたらまずかった?」


 俺が緑彩先輩を好きだったことを知っている紅梨はそう尋ねて来たが、問題はそこではない。


「それは問題ない。もう緑彩先輩のことが好きなわけじゃないから」


 青木からは落ち込んだ猫のスタンプが送られて来て、若干の罪悪感に駆られる。


 とりあえず青木に事情を説明しよう。


『紅梨が足をくじいたから俺がおんぶして医務室まで連れて行っただけだ』


 自分が悪いことや、何か疑われるようなことをしたとき、嘘をつくのは最悪の行為だと俺は思っている。

 結果的に、その嘘が自分を苦しめることになった人間を何度か見て来た。まぁ俺はまだ高校生で人生経験は少ないけど。


『白太先輩は優しすぎるんですよ……。まあそこが魅力ですし、だからこそ他の女の子に捕られないか心配なんですけどね』


 ……あれ、意外と怒ってないな。


 もっと頭ごなしに、白太先輩のバカ‼︎ とか、白太先輩の人でなし‼︎ とかって怒られると思っていたが。


『あれ、意外と怒ってないんだな』

『前から言ってるじゃないですか。白太先輩を困らせたいわけじゃないですし、何より信用しているんで‼︎』


 そして最後に、猫がグーポーズをしているスタンプを送って来た。


 そうだった。青木は本当に良い奴なんだ。そこらのメンヘラ女とは訳が違う。

 美少女の青木が凡人の俺と付き合なてくれているだけでなく、俺が青木に学校ではあまり関わるなと言えば、自分の気持ちを抑えて俺の気持ちを優先してくれる。

 青木の行動はいつも、自分本位ではなく俺のことを第一に考えての行動なのだ。


 いくら俺のことが好きだとは言え、自分以外の人間を優先して考えるのは容易なことではない。


 一瞬でも青木に怒られると考えた自分が馬鹿らしい。


「どうしたの? なんかニヤニヤしてるけど」

「なんでもないよ」

「そうかなぁ。でも、スッキリした顔してる」


 紅梨に言われた通り、俺は青木に対する気持ちを整理することが出来たようだ。


 俺はまだ青木のことをが好きだとは言えないし、偽りの関係かもしれないけれど、早く地元に帰って青木に会いたいという思いが芽生えてきたのは偽りではない。

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