第18話 電話、気持ちの整理


 気疲れする出来事が多い体験入部を終え、帰宅してもう寝ようかという時間になって青木から電話がかかってきた。


 あまりの眠さに一瞬無視しようかという悪い考えが思い浮かんだが、恐らく一度出なくてもまた何度もかかって来るだけだろうと電話をとる。


「なんか用か?」

「なんか用か? じゃ無いですよ‼︎ 白太先輩が告白して振られたのって緑川先輩ですよね⁉︎」

「チ、チガウヨ。ナニヲイッテルノ?」

「カタコトになっても逃げられないんですからね‼︎」


 まぁそうだよな。青木はもう気づいてるわけだし、今更隠しても仕方がない。


「あぁそうだよ。俺が告白したのは緑彩先輩だ」

「やっぱり……。でも確かに緑川先輩めっちゃ美人さんですね。白太先輩が好きになるのも無理はないです」


 青木から見たら緑彩先輩はライバルのはずなのにえらく素直だな。


 緑彩先輩の可愛さの前では青木さえも屈服させられるということか。


「私も頑張ります」

「それはいいけど本当に良かったのか? 俺がいるからって理由で文芸部にしたんだろ?」

「私運動とかはあまり得意ではないので。運動部よりも文芸部のようなインドアな部活の方が私には合っています。もちろん、先輩がいるからって理由が一番ですけどね」


 電話の向こうで嬉しそうに微笑む青木の姿が目に浮かぶ。そこまで素直に言われると恥ずかしいな……。


「それならいいんだけどさ」

「それに文芸部に入部すれば部活の後輩として気兼ねなく白太先輩と関われますしね。私の方から白太先輩に会いに行ったり話に行くことだって出来ます」


 た、確かに……。今までは俺と青木が知り合いであることがバレないよう学校ではあまり関わらないようにしていたが、部活の後輩となれば話は別。


 青木が俺目的で文芸部に入ったとは誰も思わないだろうし、学校でも普通に会話が出来る。


「それもそうだな。また明日から、よろしく頼むよ」


 はい‼︎ と元気に返事をした青木は、もう寝ますと言って電話を切った。


 しかし、いくら緑彩先輩が美人で可愛いとはいえ、青木が恋のライバルである緑彩先輩のことを素直に褒めたのには驚かされた。


 青木は本当に根が良い子なのだろう。


 顔は小さく、煌めく瞳で見つめられると一目惚れしない男子はいないと言っても過言ではない。

 それほど可愛くて性格も完璧な青木と付き合っているというのに、それが仮の付き合いで俺は緑彩先輩に未練たらたらだなんて……。


 いや、未練は無い……はず。


 緑彩先輩には冷たく接するようにしているし未練は無いはずだ。


 緑彩先輩に振られてぐちゃぐちゃになっている自分の気持ちを青木のためにも早く整理させなければ、と思っている俺だが、1年間好きだった緑彩先輩に対する思いが水性ペンの様に直ぐに消え去るはずもなく、簡単に忘れられるわけもない。


 俺はこの先もしばらく、この悩みに悩まされるのだろう。

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