第17話 部活、緑彩先輩の存在
放課後、俺たち文芸部員は体験入部に来る新入生を迎える準備をしていた。
何故か紅梨の姿が見当たらないが、何か用事があって遅れて来るのだろう。
「今日は新入生が2人体験入部に来てくれるわ。私たちが普段からしているような活動をしていればきっと大丈夫よ」
何も大丈夫じゃないよむしろやばいよ不安しかないよ。
緑彩先輩のその自信はなに? ただ本を読んでその感想を言い合っあり、ぺちゃくちゃ喋りながらお菓子を食べてお茶を飲むだけの文芸部に魅力を感じる生徒とか殆どいないから。
と言ってもまぁ、今日部活体験に来るのは青木とその友達だからどんな姿を見せようが入部することになりそうだが。
緑彩先輩は言動が突飛すぎるし考え方も少し変わっているが、文芸部が今も活動を出来ているのは緑彩先輩のおかげだ。
緑彩先輩は文芸部部長でもあり生徒会長でもある。
生徒会長である緑彩先輩が、人数の足らない文芸部を廃部にしないようにしているのだ。悪く言えば職権乱用なんだけどね。
そうこうしているうちに体験入部の時間になり、ついに部室には青木とその友達の紫倉がやってきた。
「失礼しまーす‼︎」
青木は相変わらずの様子で、元気に挨拶をして部室に入ってくるが、俺と知り合いではない程はなんとか貫いてくれている。
「……あれ? もしかしてこの男の人」
そう言って青木の親友である紫倉は目を細めて俺を見始めた。
やばいっ。俺は急いで紫倉の口を手で押さえ、部室の端へと連れて行き小声で会話する。
「ちょ、ちょっと待て。分かっててもその事は口にするな」
「な、何で……」
「なんでもだ‼︎ 良いからとにかく口にするなよ‼︎」
「あれ、紫音その人と知り合いなの?」
「いや、知らない」
危なかったがなんとか青木に俺が猫のぬいぐるみの中身の人だと気づかれる事はなかった。
部活勧誘のメンバーを覚えていれば、あの勧誘の場にいなかったのが俺だけということに気づき、俺が猫の着ぐるみの中の人だと分かる。
紫倉は察しがいいな全く。
「文芸部って言っても、私たちは何かを作ったりはしていないわ。本を読んだ感想とか、その他好きなことを話してお菓子を食べお茶を飲みながら楽しむ、気楽な部活動よ」
後輩の前で凛として話す緑彩先輩の姿はやはり可憐だ。何度生まれ変わったとしても俺はこの人に一目惚れするだろう。
「紫音、この人ってもしかして」
「うん。生徒会長で、この学校で1番美人って言われてる緑川先輩だよ」
流石の青木も学校1の美人と名高い緑彩先輩のことは知っているようだ。
文芸部の部長が学校1の美人である緑彩先輩だと分かると、何かを察した青木は俺の方を見た。
見たと言うよりも、睨んだ、という方が正しいかもしれない。
俺は思わず目を逸らす。
その瞬間、青木は二つ返事でこう言った。
「私、文芸部に入部します」
まぁそうなるよね。うんほんとごめん。
そして何故かこのタイミングでガタンと音を立て、掃除用具入れの中から猫の着ぐるみが飛び出してきた。
「あれ、この猫……」
最悪だ……。
そんなサプライズ演出要らないてもぉ。
「白太先輩、この部活動のメンバーって」
「……ここにいる4人で全員だ」
「……‼︎」
その瞬間、青木はすべてを悟ったようで、顔を紅潮させる。
結局青木には緑彩先輩の存在も、猫の着ぐるみの中身が俺だったってことも全部気づかれてしまった。
いや、もうこの状況どうしよ。むしろ何も考えず楽しんだ方がいいのかもしれない。
あははっ。楽しいなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます