第11話 勧誘、部活存続のために
『白太先輩と学校で話せないのは辛いです……』
『我慢してくれ。青木みたいな可愛い子と学校では話しづらいからな』
『そうですか。我慢は辛いものです』
『土曜日には会えるから。それまで我慢してくれ』
そんなLINEのやりとりを俺は文芸部の部室で行なっている。
部室にはもちろん……。
「白太くん、私的にはやっぱりこのキャラクターが受けの方が良いと思うのだけれど」
そう話しかけて来たのは俺を盛大に振った緑彩先輩だ。
そうですね、と素っ気なく相槌を打ちその話を受け流す。
俺は緑彩先輩に振られてから、緑彩先輩に対する態度をある程度冷たくしている。
それは俺をこっ酷く振った先輩に対する仕返しでもあり、青木を好きになるためでもあった。
俺たちが所属している文芸部は小説を書いたり詩を書いたりしているわけではない。
「
「はい。私もそう思います」
緑彩先輩の意見に賛同したのは俺たちと同い年の
紅梨はザ、文芸少女といった雰囲気で、ショートカットで目は前髪で隠れており、シャツの上からブレザーを羽織っている物静かな女の子だ。
文芸部のメンバーは緑彩先輩、俺、玄人、そして紅梨の4人。
このメンバーでなんとか部活動を続けている。
「よし、それじゃあみんな、新入生の勧誘に行くわよ‼︎」
この学校では、入学式の後で新入生をターゲットにした部活勧誘が行われる。
1つの部には部員が4人いないと成立しないという規則があるため、今年なんとしても新入生を勧誘する必要があるのだ。
そして俺たちは校舎から校門に続くまでの道で新入生を勧誘するべく、他の部活の生徒が立ち並ぶ道をかき分けて進んでいく。
「よし、良いポジションに来たわ」
「ここなら新入生を勧誘しやすそうです。それより緑彩先輩、その背中に背負っている大きな鞄は?」
緑彩先輩に対していくら冷たく当たっているとは言え、緑彩先輩が背負っていた大きな荷物が気になった。
「よくぞ聞いてくれたわ。それじゃあ白太くん、今からこれを着なさい」
そう言って緑彩先輩が鞄から取り出したのは猫の着ぐるみだ。
「な、なんで俺がそんな着ぐるみを⁉︎」
「ちょっとでも目立たないと、ただでさえ文芸部なんて幸が薄いんだから」
そして半ば無理矢理、猫の着ぐるみを着せられた。
「私の見立て通りね。よく似合ってるわ」
「いや、見立て通りも何も着ぐるみなんて誰が着ても一緒じゃないですか」
「白太くんだから似合ってるのよ」
「これ来て勧誘する必要あります?」
「もちろんよ‼︎ これが無いと誰もやってこないわ」
いや、恐らく俺が着ぐるみなんて着なくても俺たちの周りには大勢の新入生が集まってくるだろう。
文芸部目当てではなく、緑彩先輩を一目みようとする新入生達が。
まあ俺としては散々貶された容姿を隠せる着ぐるみを着れるのは嫌なことでは無い。
そして入学式を終えた新入生がゾロゾロと校舎から校門までの道を歩いていく。しばらく勧誘を続けるが、やはり俺たちの周りに集まってくるのは緑彩先輩を目当てにした男たちばかり。
その上、その男たちは少し緑彩先輩と会話をするとすぐ別の部活の勧誘へ行ってしまう。
どうしたもんか……。
「えーなにこの着ぐるみめっちゃ可愛いよ紫音‼︎」
こ、この声は。
俺は声が聞こえた方向を振り向く。
そこには俺の彼女、青木蒼乃がいた。
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