第10話 挨拶、美人で知的な彼女

 学校に到着した俺と玄人はすぐに体育館に向かい、入学式の開始を待っていた。


 体育館の中には生徒以外に先生と新入生の親が列席している。

 普段とは違う光景に、新たな1年の始まりを実感する。


 しばらくするとテンポの速い明るい曲に合わせて新入生の入場が始まり、それを座って見ている俺は自然と青木の姿を探していた。


 ……いや、青木とはとりあえず付き合ってるだけだから。まだ好きとかではないから。形式上付き合っているんだから自然と姿を探すのも仕方がないだろ?


 青木を見つけた俺は思わず青木を目で追ってしまう。


「おい白太、あの先頭歩いてる子、今朝の子じゃないか?」

「あ、本当だな」


 玄人も青木の姿を見つけたようで、俺が青木を目で追っていたことが気付かれないように、あたかも玄人に言われて青木を見つけたようなフリをした。


「やっぱめちゃくちゃ可愛いな」

「確かにな。でも玄人の好みはどっちかと言えばあの子と一緒に歩いていた清楚な女の子の方じゃないのか?」

「うん、それも一理あるな」


 玄人は元気で明るい可愛い系の女の子よりも、静かで清楚な女の子がタイプだ。

 容姿だけで言えば緑彩先輩はストライクゾーンど真ん中なのだが、玄人は目も当てられないほどのロリコンだ。

 そのため緑彩先輩のことは眼中にも無い。俺としてはありがたいことだけどな。


 それにしても長いなぁ。入学式。


 入学式とか卒業式とか、時間がかかるから嫌いなんだよなぁ。

 トイレ行きたくなって我慢しないといけなくなったら地獄だし。


 教頭先生の眠たくなるような声での司会進行もやめてほしい。寝るといびきかくタイプなんだよね。


「新入生代表挨拶。新入生代表、青木蒼乃」


 ――は、新入生代表挨拶が青木だって?


 あいつ、あんまり賢いようには見えないんだけど。


 うちの学校は新入生の中で成績トップの生徒が挨拶をすると決まっている。


 賢いってのは本当だったのか。じゃあ俺がこの高校に受かるために青木に会わない期間を設けたのも無意味だったりして……。


「誰だよあの子?」

「めっちゃ可愛くない?」

「あれは緑川先輩と比べても劣らないぞ」

「可愛い後輩と付き合うの、夢だなあ」


 周囲から小声で青木の容姿を褒める言葉が聞こえてくる。


 そうなるよな。青木、めちゃくちゃ可愛いもん。


 そんな子が、偶然助けられただけの俺のことを好きになって付き合うなんてことがあって良いのだろうか……。


 俺は緑彩先輩に告白して振られ、身の程知らずだのなんだのと罵声を浴びた人間だ。青木と付き合うのは考え直した方が良いのかもしれない。




 ◆◆◆




「いやーあの青木蒼乃って子、めっちゃ可愛かったよなぁ」

「そうだな」

「成績優秀、容姿端麗なんて最高の物件じゃないか」

「いや、でも性格は最悪かもしれないぞ?」

「白太はえらく蒼乃ちゃんに批判的だな」 

「批判的なんじゃない。身の程を弁えてるんだ」

「……あんまり気にすんなよ。周りの声なんか気にしてたら社会に出てから生きていけないぞ?」

「生粋の高校生が社会の何を知ってるんだ」


 玄人の言う通り、俺は周囲が言った事を気にしている。


 しかし、周りの言うことなど気にせず自分の好きなように生きなければ人生損するんだろうな。

 俺と違って自分の気持ちに正直に生きている青木が羨ましい。


 青木の気持ちは尊重してやりたいが、青木と俺が付き合うのは完全に不釣り合いで、今の関係を考え直す必要があると思う。

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