第9話 入学、新たなる気持ち
入学式の朝、俺は学校に向かって歩みを進めている。
今日から高校2年生としての新たな学校生活が始まる。普通なら期待に胸を膨らませているところかもしれないがそうはいかない。
去年緑彩先輩に告白をして振られたことが同級生に気付かれてから、俺は不遇の扱いを受け続けていた。
「芸能人以上の美少女に告白をして振られたブサイク芸人以下の男」というレッテルが邪魔をして何もかも上手くいかなかった。
下駄箱の中にはボロボロになったティッシュが詰め込まれていたり、持ってきた傘は100%の確率で盗まれた。
軽いいじめのようなもんだ。
とはいえ、俺は特にブサイクというわけでもない。自分の顔に得点をつけるとしたら、10点満点中5点という一般的な顔だと思う。
だが、中の中が、特上の特上である緑彩先輩に告白をして振られば俺のことをブサイクと馬鹿にする奴らが現れるのも無理はない。
緑彩先輩は俺がそう呼ばれている事を知らないし、振られた後の緑彩先輩との会話にはぎこちなさが残っている。
告白をすると良好な関係性が崩れてしまうのではないか、と不安に思い告白しないという経験をした事がある人は多いだろう。
俺はまさに、告白をして先輩との関係を崩してしまった人間だ。
以前のように、緑彩先輩と話したりする事を心の底から楽しめる日はやってこないと思う。
「よっ。白太」
「玄人か。おはよ」
「今日から新入生も入ってくるし、楽しくなりそうだな」
「ああ。そうだな」
俺は青木が入学してくることに不安を抱いている。
青木と付き合っていることがバレたらどうしようとか、青木に迷惑をかけないだろうかとか。
まあ最悪俺と青木が付き合っていることが知られたとしても、俺の事を盛大に振った緑彩先輩には良い当てつけになるかもしれないがな。
「……太。おい白太、聞いてんのか?」
「あ、ごめん。ちょっと他ごと考えてた」
「あの前を歩いてる2人の女の子、レベル高く無いか?見たことないし、新入生だよな」
そう言われて前を見るとそこには見覚えのある茶色い髪に小柄で華奢な女の子と、その隣には紫がかった長い髪を揺らす女子2人が歩いた。
間違いない、左を歩いているのは青木だ。
「た、確かに後ろ姿は可愛く見えるな。でもまあ意外と正面から見たらそんなにってこともありえるし……」
そう言った瞬間、友達と会話をしていた青木が横目で俺を見つけたようで、こちらを向き小さく手を振ってくる。
そしてすぐにまた前を向いて歩き出した。
「ん? 今あの子、こっち向いて手を振らなかったか?」
「き、気のせいだろ⁉︎ か、可愛い女の子がちょっとこっち向いたからってもう玄人ったらー」
「どうした? 口調おかしくなってないか?」
「いや、おかしくなってない」
「そうか。てかやっぱりめちゃくちゃ可愛かったな今の子。アタックしちゃおっかな」
「それはやめとけ」
「え、なんで?」
「なんでもだ」
玄人に勘づかれることなく、なんとかその場はごまかすことが出来た。
青木も少し手を振る程度で我慢してくれたようだが、俺たちが付き合っていることが気づかれるのは時間の問題だな。
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