第3話 救出、泣きじゃくる美少女

 『たすけて』とはどういう意味なのだろうか。


 青木蒼乃という人物は何かトラブルに巻き込まれているのか? 


 仮にこの青木蒼乃と言う人物がトラブルに巻き込まれていたとして、俺にそいつを助ける義理はない。

 もしかしたら『たすけて』という文も俺をおちょくるための悪戯かもしれないし。


 だが俺は、『たすけて』という言葉が漢字に変換されていない部分に妙なリアリティーを感じた。

 漢字に変換出来ないほど追い詰められているのかもしれない。


 青木蒼乃が助けを求める理由が気になり返信を続けた。


『なにかあったんですか?』

『今から東駅の多目的トイレに来てください。到着したらドアを5回ノックしてください。そしたら私が3回ノックをして返事をするのでもう一度5回ノックしてください』


 トイレ……? 


 何故トイレに行かなければならないんだ? 紙でもなくなったか? 

 まあそれは無いとしても、トイレに男女で2人なんていかがわしいことしてるみたいじゃ……。


 いや、そんなことを言っている場合ではないな。


 トイレに来て欲しいとお願いしたり、ノックの回数を指定してきたり、何か理由があるのは間違いない。


 先輩に振られたばかりの俺はヤケクソ状態。


 見ず知らずの人物に助けを求められるというわけの分からない状況だが、青木蒼乃から指定された駅の目の前に居たこともあり、とりあえず多目的トイレに向かうことにした。 


 指定された場所に行くと、そのトイレの前には1人の男性が立っていた。


 俺は不審に思い話しかける。


「あのー、なにやってるんですか?」

「……トイレを待ってるに決まってるじゃないか」


 トイレを待っている? いや、このおじさんは明らかに変だ。トイレを待つなら多目的トイレの前ではなく、男子トイレに入れば良いはず。


「それなら普通のトイレに行けば良いんじゃ?」

「広々とした個室でトイレをしたいんだ。なんか文句あるか?」

「……じゃあ僕もここで待ちます。同じ理由で」

「なんだお前はしつこいな‼︎」


 そう叫びながら俺の方におじさんが近づいてきて腕を振り上げる。


 殴りかかられそうになった俺はやばいと目を閉じ歯を食いしばる。


「コラッ! そこで何やってるんだ!」


 その瞬間、警察官がやって来てその男を取り押さえ

 た。

 おじさんを取り押さえた後の警察の会話を聞いていると、どうやらそのおじさんは痴漢の常習犯だったらしく警察官に連れ去られていった。


 おじさんが連れ去られた後で、指令通りトイレの扉を5回ノックする。


 コンコンコンコンコンッ。


 ……コン、コン、コンッ。


 3回のノックが返って来た。


 それを聞いてもう一度5回ノックする。


 コンコンコンコンコンッ。


 するとトイレの扉がゆっくりと開き、顔を見せたのは学生服姿の女の子。


 俺の目線くらいの身長で、その女の子からは甘いフルーティな香りが漂ってくる。


 制服から察するに地元の中学生の女の子だ。


 その子は俺を見てから辺りを見渡し、誰もいないことを確認してから俺に抱きつくようにして飛びついて来た。


「ちょ、なんだ急に⁉︎」


 急な出来事に俺の思考は追いついていない。何故女の子が俺に飛びついて⁉︎


 ……いや、違う。この子、震えてる。


「怖かったよぉ〜」


 女の子はその後、俺の服に染み込むほどの涙を流し、しばらく俺から離れようとしなかった。

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