第2話 回想、突然やってきた悲しみ

「「「「メリークリスマース‼︎」」」」


 俺たち文芸部は今日、地元のファミレスでクリスマスパーティーを開催していた。


 クリスマスパーティーとは言っても豪勢なものではなく、ファミレスに行き話をしながらデザートにケーキを食べ、最後にプレゼント交換をする。


 ただそれだけの質素なパーティーだ。


「いやークリスマスって響きを聞くだけでテンション上がりますなぁ」

「そうだな。カップルで過ごしてるわけでもなんでもないけど」


 親友の玄人には彼女もいないし、もちろん俺にも彼女はいない。

 この場には文芸部員の俺と玄人、同級生の《あかまつあかり》と部長の緑彩先輩がいるが、誰にも彼氏、彼女はいない。


「玄人はともかく、白太には彼女なんて出来なさそう」


 紅梨からの鋭い指摘にグサっと心に矢が刺さったような素振りをして見せる。


「ちょ、自分でも気付いてるから。これ以上俺のライフ削るのやめて?」


 こんな会話をしながら何気なく楽しんでいた。そう、楽しんでいたのだ。ここまでは。


「緑彩先輩は好きな人いるんですよね」

「ちょ、紅梨。何言ってるのよ」

「――⁉︎」


 緑彩先輩に好きな人が……?


 そ、そんなわけない。緑彩先輩は男子には興味が無いはずだ。


「でもいますよね?」

「……まあいないというと嘘になるわね」


 まじか。緑彩先輩に好きな人が?


 そんな訳がないと信じたいが、緑彩先輩本人がそう言っているのだから嘘ではないのだろう。


 緑彩先輩に好きな人がいるってことは、仮に先輩とその人が両思いだとしたら付き合うことになるのか?

 いや、芸能人級の美少女で容姿端麗な緑彩先輩の告白を断る男子がいるはずもない。


 ということは、先輩に好きな人がいる時点でカップル成立は決定事項で、避けることのできない未来ということになる。


 …そんなのダメだ。俺以外の男子と緑彩先輩が付き合うなんて耐えがたいし考えられない。

 緑彩先輩が俺のことを好きじゃないのは分かってる。


 それでも……。


「――緑彩先輩、好きです。付き合ってください」


 ……ちょ、俺何言ってんの? 流石に熱くなり過ぎだろ。


「ちょ、白太、まじ?」


 玄人と紅梨は俺の告白に驚き硬直している。


「え、そ、そんな、急に言われても……。わ、私と白太くんが付き合えるわけないじゃない」


 ……。


 その言葉理解するには若干の時間が必要だった。俺の頭の中は真っ白になり、目の前は真っ暗になる。


 どれだけ厚かましく考えようが緑彩先輩と付き合えるとは思っていない。

 しかし、付き合えるという言葉を俺は信じられなかった。


 仲の良い先輩後輩として良い関係を築いていたと思っていたが、緑彩先輩はそれ以上の関係になることを一度も考えたことが無かったのだろう。

 それどころか、緑彩先輩は俺と自分が全く釣り合わないと思っていたのだ。

 自分ではそう思っていたが、緑彩先輩も俺とは逆の意味でそう思っていたと考えると涙が出そうになる。


 突然押し寄せた悲しみに押しつぶされそうになった俺はその場から逃げるように飛び出した。


「え、白太くん⁉︎ ちょっと待って‼︎」


 そう俺を呼び止める先輩の声は聞こえない、いや、聞きたくもない。

 呼び止める声に反応して振り返ったら、涙でぐしゃぐしゃになった顔を見られてしまうから。

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