LINEのIDを拾ったので興味本位でLINEしました

穂村大樹(ほむら だいじゅ)

第1章

第1話 自暴、ヤケクソになった俺

 冷たい雪がパラパラとチラつく寒空の下、俺はベンチに座り空を見上げてため息をつく。

 吐く息は雲のように白く、曇りきった俺の心の中を表しているようだ。


 俺、白石白太しらいしはくたはつい先程、同じ高校に通う緑川緑彩みどりかわつかさ先輩に告白し、見事に振られてしまった。


 振られてからまだ1時間も経過しておらず、俺の心はズタボロになっていた。


 あれは全く予定に無い、半ばヤケクソでの告白だった。


 俺は高校の入学式の日、緑彩先輩に一目惚れをした。

 スタイルが良く手を触れれば今にも壊れそうなほどに可憐な先輩の姿に目を奪われ、その瞬間、先輩のことが好きになっていた。


 緑彩先輩と親しくなるため、俺は親友の黒瀬玄人くろせくろとと一緒に緑彩先輩が所属している文芸部に入部した。


 高校に入学してから半年以上の間緑彩先輩に恋をしているが、告白する予定は無く先輩の側に居られるのならそれで良いと思っていた。


 しかし、今日のクリスマスパーティーで俺はとんでもない事実を耳にした。

 先輩に好きな人がいると言うのだ。それを聞いた俺は、そんなの信じられるかと頭に血が上り勢いで緑彩先輩に告白をしてしまった。


 分かりきってはいたが答えはノー。


 緑彩先輩に振られた俺は飛び出すようにパーティー会場を後にした。


 あまりのショックで涙が止まらず悲しみに押しつぶされそうだった俺は、悲しさを紛らわせるためにイルミネーションを見に来た人々で賑わう街にやって来た。


 誰も座っていないベンチに1人でポツンと座る。


「はぁ。明日から学校行きたくないなぁ」


 自然と口からこぼれる言葉はどれもネガティブなものばかり。そんな自分が嫌になる。


 こんなところで寂しさを紛らわせても意味は無い。

 イルミネーションで浮つくカップルを見て余計に虚しくなった俺は逃げるように歩き出した。


 大通りを歩く大勢の人たちの動きがスローモーションに見える。

 緑彩先輩に振られ、生きる活力を失った俺は世界に取り残されていた。


 そんなとき、俯いて歩いていた俺は地面に落ちている1枚の小さな紙に気が付いた。

 その紙は大勢の人に踏みつけられ、ボロボロになっていた。

 普段なら気にも止めずスルーするところだが、その紙がやたらと気になり俺はその紙を拾った。


「ブルー……ブルー?」


 その紙にはアルファベットで「Blueblue」と書かれている。


 それだけ見れば、なんのことだ? と疑問に思うかもしれないが、その上には大きな字で「ID」と書かれている。


 IDと書かれているからにはここに書かれている「Blueblue」というアルファベットは何かのIDなのだろう。


 もしかして、とスマホを取り出しトークアプリ、LINEのID検索覧にそのIDを打ち込み検索してみる。


 すると、青木蒼乃あおきあおのという名前の人物がヒットした。


 自暴自棄になっていた俺は興味本位でその人にLINEを送った。


『こんばんわ。高校1年生の男子です』


 恐らく誰かに渡そうとしてIDを書いた紙を落としたってところだろう。

 見知らぬ人からLINEが来たらすぐにブロックされて返信なんか……。


 うわ、既読がついた。早すぎる。


 ま、まあ既読が付いたからって返信がくるわけ……


『たすけて』


 ……は? たすけて?


 俺の予想に反して一瞬で帰ってきたLINEの内容は、見ず知らずの俺に救助を求める内容だった。

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