24

 日が経つにつれ、ぼくらも淡々と過ごす日常になじんできた。


 文化祭が終わってもぼくと高科さんが一緒に帰っていることから、噂が噂を呼び、とうとうぼくたちが付き合っていることがクラスにばれてしまった。公認カップルというヤツだろうか。

 隆司も喜んでくれた。どうも、彼は高科さんの気持ちもぼくの気持ちもとっくに気づいていたらしい。この二人がくっつけばいいのに、とずっと思っていたんだそうだ。それで、文化祭にかこつけて、キューピッド役を買って出た、と。


 全く……泣かせてくれるなあ……


 だけど、ぼくと彼女が会う機会は、実はどんどん少なくなっていた。


 彼女は今年もコンクールに出場するため、放課後にピアノのレッスンに通うようになった。特に今年は文化祭に時間が取られたこともあって、レッスンの時間が足りないらしい。だけど毎日レッスンがあるわけじゃない。水曜と木曜はレッスンが休みなのだ。彼女はそれらの日は音楽室でひたすら一人でピアノを弾いていた。自分の家の小さいピアノより、フルコンサートサイズに近い学校のピアノで練習する方がいいらしい。


 本来、生徒個人が学校のピアノを自由に使う、なんてことは許されないのだが、全国大会に出場するような生徒となれば話は別だ。音楽室はいつもは吹奏楽部のメンバーが練習に使っているが、吹奏楽の大会はとっくに終わっているので、その曜日だけは彼女にピアノを自由に演奏できるようにしているようだった。


 そして、その曜日だけは、ぼくと彼女は一緒に帰れる……はずだった。でも、そうはならなかった。


 練習時間が足りないらしく、彼女はいつも学校が閉まるギリギリまでピアノを弾いていた。そしてお母さんが車で迎えに来るようになった。そうなると、ぼくの出番はない。


 こうして彼女と会えない日々が続いた。


 それでも、少なくとも学校にいる間は、彼女の顔が見られるし、話もできる。ぼくはそう思っていた。だけど……


 だんだん、彼女の態度が素っ気なくなっていることに、ぼくは気づいた。


 ぼくと付き合い始めたころは彼女も表情が豊かだったのに、最近はまた昔みたいに無表情でいることが多くなった。


 どうしたんだろう。


 嫌な予感が、ぼくの心の中を渦巻いていた。


 もしかして、彼女が心変わりした? ぼくのことが、好きじゃなくなった?


 そんなことはない。ぼくは自分に言い聞かす。彼女はちゃんと、ぼくのことを好きだと言ってくれたんだ。それは間違いないはずだ。


 しかし。


 ついに、決定的なことが起こってしまった。


---


 その日は朝から曇っていた。


 放課後。久々に高科さんからの呼び出し。話があるから来てほしい、と。ぼくは待ち合わせ場所の体育館裏に向かう。


 彼女はすでにそこにいた。他には誰の姿も見えない。


 ぼくに気付いても、彼女は相変わらず無表情のままだった。


「やあ。それで……話って、何?」


 ぼくは笑顔を作ってみせる。


「翔太君」彼女はぼくを、まっすぐに見つめる。そして、躊躇ちゅうちょなく、言った。


「わたしと、別れてほしいの」


---

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る