君と出会った 2
私はふしぎに思って携帯を開くとメールが5件、弟から入っていた。メールを開くとお腹すいたやら早く帰ってきてくれない? だのそんなたわいのないことが書かれていた。そういえば今日私、食事当番だっけ? と思い返して見たが、今日は弟が食事当番だったはず。けれど、弟は料理が苦手なため私に頼ってくる。
「仕方ないな」
そう小さく呟き、メールを返すと夕食の材料を買うためにスーパーに向かう。
そして材料を買い家に帰ると弟の第一声がこれだ。
「姉ちゃん、遅いよ……母さん帰ってくるのもう少し後なんだから早く帰ってきてくれないと」
「ごめんごめん。でも今日の食事当番は颯でしょう?」
と言うとどこか気まずそうに視線をそらした。その弟の言い訳がこれ。
「でも風呂掃除はしといたから! 材料は買ってこなくちゃいけないけど……」
こんな弟を可愛らしく思ってしまう私は弟のことを甘やかしているのかもしれない……そう思って私はこんな提案をする。
「じゃあ一緒に作ろう? 今日はハンバーグだから材料も買ってきたし」
そう言って私は買ってきた材料を出していく。合い挽き肉、玉ねぎ、卵、パン粉などなど。それを見た弟はあきらめて手伝うことを決めたようだ。
「何すればいいの?」
と聞いてくる。なので私はこう答える。
「じゃあ玉ねぎのみじん切りをお願い。それから、玉ねぎを炒めて」
そう言うと弟は文句をいいつつ、つたない手つきで玉ねぎのみじん切りを始める。
それを横目で見ながら私は合い挽き肉をボールに入れ塩、胡椒をし、牛乳、パン粉を準備する。その間にみじん切りが終わったようでフライパンを引き出しから取り出し、玉ねぎを炒め始める。炒め終わったようで少し冷ましてからボールに入れ、そこに卵、パン粉、ソースなどを入れて混ぜる。そしてそれを弟と一緒にこねていると母が帰ってきた。
「おかえりなさい」
私と弟の声がそろう。母はそんな私たちを見て疲れた笑顔を向ける。
「ただいま……いつもごめんね食欲無いからご飯いらないや」
それだけ言うと母は寝室へと向かう。最近の母は元気がない……何とか元気づけてあげたいのだけどその方法がわからない。このまま倒れてしまうんじゃないかという不安だけがいつも付きまとう。私は無力だ。いつも家ではそう思う。そんな私の気持ちをさっしたのか颯が私をはげましてくれた。
「姉ちゃんはよくやってるよ。大丈夫だから俺、そんな姉ちゃんのこと大好きだし尊敬してる。さっさと焼いて食っちゃおうぜ」
そう言われたので私はハンバーグを焼くことにした。そうして30分後ハンバーグが焼けたためハンバーグを食べていると颯がこんなことを言ってきた。
「姉ちゃん、今日何かいい事あった?」
「え?! 別に……ねえ颯、ゆうれいって信じる?」
こんな突拍子もないこと急に言われてもこまるよなと思っているが颯の答えはあっさりとしていた。
「ゆうれい? 俺は信じるよ。声なら聞こえる気がするんだ。見えないけどな……もしかして姉ちゃんゆうれい見えるの?」
「そうみたいなんだよね……屋上にいたら男の子のゆうれいがいてさ。なんか話せるみたいなんだよね私」
「まじで?! いいなー。俺も見えて話せたら良かったのに……いつか父ちゃんにも会えるのかな?」
その言葉を私は否定する。
「お父さんか……どうだろう……お父さん、あんま未練とか無さそうだしな……」
颯は少しガッカリした様子だ。
「確かに! そうだよな……父さん俺たちに会えて良かった。今本当に幸せだとか死ぬ前に言ってたもんな」
「言ってた。言ってた。まさか事故で死ぬだなんて思わなかったけど……」
その言葉に沈黙が訪れる。それを振り切るように颯は言う。
「どんなゆうれいなの?」
「髪が真っ黒で焦げ茶色で颯が着てる制服と同じなの。未練を晴らすのを手伝って欲しいって頼まれた」
「いいなー。卒業生なのかな? 俺も見てみたいよってやばい。もうこんな時間。早く寝よーぜ! 俺先風呂入るから」
そううらやましそうに言ったあと慌てた様子でお風呂へと急ぐ。時間を見ると時計は21時をさしていた。私は母のためにハンバーグを2~3個お皿に盛り付けると冷蔵庫に入れ、冷蔵庫に貼り紙をすると自室に行き、宿題を始める。そしてその30分後宿題を全て終わらせた私はベットに横になる。疲れていたのだろう私は颯の声で目を覚ます。
「姉ちゃん、姉ちゃん。起きろよ! お風呂入んないと明日も学校だろう?」
「……ん今何時?」
そう問いかけると颯はどこか心配そうな声で言う。
「22時半だ。風呂入って寝てるかと思ったら部屋にいんだもんびっくりしたし、心配した。俺はもう寝るからなおやすみ」
それから扉を閉める前に一言。
「あんま無理すんなよ」
どこか照れくさそうにそれだけ言うと颯は自分の部屋へと戻って行った。わざわざ声をかけてくれるなんて優しいところあるなと思いつつ私は寝巻きを持ってお風呂へと向かう。お風呂には入浴剤が入れてあった。颯は入浴剤嫌いなはずなのに私のためにわざわざ入れてくれたのだろう。彼なりに心配してくれているのかもしれない。そう思って私は身体と頭を洗い、湯船に20分ほど浸かり、湯船から出て寝巻きへと着替えると自室へ戻り明日の準備をしっかりすると眠りについた。
その日は夢を見た。屋上であったあの男の子が出てくる夢だ。それはとても悲しい夢だった。男の子がどんなに泣き叫んでもその猫は目を覚まさない。それに何の反応も示さない男と女。両親だろうか。猫を引き剥がし、男の子を引きづるようにして家へと連れ帰る。そこで目が覚めた。気づくと私は泣いていた。しかし、その夢の内容は思い出せない。思い出せるのは昨日会ったゆうれいの男の子が出てきたというだけ。ふしぎな気持ちになりつつ私はキッチンへと移動し、颯と自分のお弁当を作る。母はすでに出ていったのだろう。空のお皿が流しに置いてあった。
そこに颯が起きてくる。
「おはよう……」
どこか眠そうな声で颯は言う。
「おはよう颯よく眠れた?」
「うん……寝れたって姉ちゃん泣いた? 悲しいことあったの?」
そう言われてどきっとしてしまった。
「ううん。なんか悲しい夢を見たのかも……内容は覚えてないんだけどね」
「なんだ……夢か。めずらしいね。夢見て泣くなんて……そんなことより早く行かないと俺、今日朝練あるんだ遅刻する」
そう言うと私が作った弁当を鞄の中に突っ込み玄関へとかけて行き靴を急いで履くと家を飛び出した。颯が行ったあと、ふと机に目をやると昨日頑張ってやったであろう宿題が置きっ放しにされていた。仕方ないなそう思い私は自分の部屋へ行き、自分の宿題はしっかりと入れ制服に着替えて颯の宿題も持つと家を出て鍵をしめる。そしてエレベーターを使い、下に降りてから私は歩き出した。桜橋高校はこのマンションから歩いて10分ほど歩いたところにある。まず、郵便局近くまで歩いていき、そこを右に曲がると見えてくる。時刻は8時10分。ちょうどいい時間だ。普段ならそのまま教室へと向かうのだが……今日は颯に忘れ物を届けるために中学校の校舎へと向かう。ここは少し特殊で中学校と高校の校舎が分かれている。私の校舎には音楽室、保健室などがあり颯の校舎には理科室、美術室などがある。渡り廊下のところに建物がありそこに職員室と図書室、運動場の隣に体育館がある。颯の教室どこだっけなと思いつつ中学校の校舎に入り3階へと向かうと颯の声が聞こえる。
「やべ! 宿題忘れた。ちょっと姉ちゃんとこ行ってくるわ」
そう言い飛び出してきた颯と鉢合わせる。
「颯! 宿題持ってきたよ」
「姉ちゃん! ナイスタイミング!」
そう言い颯はだきついてくる。それを私はひきはがす。
「ちょっといきなりだきついてこないでよ」
「ごめん、ごめん。つい嬉しくてさ次から気をつけるよ」
反省した様子は一切ない弟にクラスの女子が甘い声で話しかける。
「颯くーん! 宿題やってきたの? 見せてほしいな。あれ? お姉さんきてるの?」
最後のその声はどこかねたみを含んでいるように聞こえた。そんな声を颯は気にすることなく断る。
「嫌だね。これは俺が昨日必死にやった努力のあかしなんだ! それを他人に見せるつもりはない! 姉ちゃん、ありがとう。そろそろ戻れよ」
そうそっけなく言うと颯は私の背中を押す。小声で私にささやきながら
「あいつ、俺の事好きなんだ。1回告白されて俺はことわってるのに全くめげない。あいつに目を付けられると面倒だから早く戻ってほしい」
そう言われたので私は頷くと颯に手を振り、自分の教室へと向かう。 教室へと行くと美紅が話しかけてきた。
「汐音! 遅いよー待ちくたびれちゃった……昨日夜更かしでもしちゃった?」
「弟の所に行ってたの」
「なんだ。そうなの? 休みかと思って心配しちゃったよ。ねえ昨日は一緒に帰れなかったし今日は一緒に帰ろう?」
そう言われたが私は断る。
「ごめん! 少し屋上によってから帰りたくて……」
「ええ! 屋上行くの? 最近行ってなかった反動がここで来るの? じゃあ待ってる! 今日は絶対一緒に帰るからね」
そう美紅は宣言すると席に戻っていく。今日は早めに帰ると伝えないとなそんなことを考えながら授業を聞いてノートをしっかりと書く。テストのためにね。ここの国語の先生は予告なしにとつぜん小テストをやる。今やっている授業が理解出来ているかどうかそのテストが近々あるんじゃないかと私は予想している。この予感は当たることが多い。けど美紅にもまだ言えていない。こわがられたら困るから。そして今日もなんてことない平穏な一日だった。授業が全て終わり私は屋上へ行くとあの男の子が待っていた。
「おかえり! 待ってた! 来てくれるか不安だったんだけど来てくれてよかった」
彼は嬉しそうな表情を浮かべる。
「ただいま? 嬉しそうだね! 成仏のために私は何をすればいいの?」
「それがな……全く分からないんだ。困ったことにでも俺は誰かを助けたいんだと思う」
「助けたい?」
「ああ、俺はゆうれいだからな。ひょういすることができる。もちろん同意の上だ。その力を使って誰かを助ければ俺は成仏できると思うんだ」
何を言っているのか全くわからなかったけど彼は彼なりになっとくする部分があるのだろう。私がなんとも言えないそんな表情をしているとそれがわかったのだろう。
「わかんなくても大丈夫。俺は絶対に助けるからな!」
誰に言うでもなく宣言するその姿はどこか輝いて見えた。私にはないものを持っていてうらやましい。私は早く帰るということを言い忘れていたのを思い出し、伝える。
「今日、早めに帰らなきゃ行けないの美紅がどうしても一緒に帰るって聞かなくて……」
「美紅ってこの間来てたやつのことか?」
「そう。あの子」
「あいつか! ゆうずう聞かなさそうだもんな。いいよ。今日は早く帰れ……本当は話したいことあったんだけどそれはまた今度友達待たせてるんだろう?」
そう名残惜しそうに言う彼に頷くと私は屋上の扉へと近づく。
「また来るから今度は沢山話そう?」
彼は嬉しそうに頷く。その姿を見ると私は後ろを振り返らずに扉を開け、その場を後にした。
彼が後ろでこんなことを呟いてるなんて知らずに……
「絶対におまえを助けてみせるから……俺はおまえを助けるためにここにいるんだ。絶対に死なせたりしないだから安心しろ」
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