第1話 君と出会った 1

 ある雨上がりの日、その日の空は青く澄み渡っていて、何か新しいことがはじまりそうなそんな予感がしていた。

私は、屋上へと上がる。嫌なことがあった時、私はいつも屋上に行く。深く息を吸い込み空を仰ぐと嫌なことを全部忘れられた。これが私の日課だが、何故かその日はそんな気にはなれなかった。ゆううつな気持ちを吹き飛ばそうと俯いていると不意に声が聞こえる。

「きみ、大丈夫? 顔色悪いよ?」

まわりを見渡しても声の主は見つからない。

「こっちだって! こっち! こっち! って見えてるわけないのにな……」

そんな諦めたような声のする方向を見てみると真っ黒な髪に焦げ茶色の瞳の男の子が浮いていた。彼と目があったそんな気がした。彼は驚きに目を見張る。けれど私も驚いて言葉を発することが出来ない。そんな様子に気づいた彼が優しく声を掛けてくる。

「ごめんね?  驚かせて……僕はゆうれいなんだ。もう死んでる……だから君にはふれられないから心配することしか出来ない……この瞬間がもどかしい」

そう口惜しげに言う男の子の姿を私はただ、だまって見ていることしかできない。

「きみには、僕が見えているみたいだね。珍しい。言葉も通じるみたいだ。僕のこと見えて言葉も交わせるならさ協力してよ! 僕の未練を晴らすのにさ」

どこか物珍しいものを見たというようなそんな反応の彼に気を取られていると友達の呼ぶ声が聞こえる。その友達は扉をあけて屋上へと入ってきた。

汐音 しおん? またここにいたの?  好きだねこの場所。一人・・でこんなとこにいるなんて変わってるよね」

そう私の親友の美紅 みくは呆れたように言う。

私は疑問に思った。一人・・じゃないのに……ここにはもうひとり男の子がいるのに……美紅には男の子は見えていないようだ。というかゆうれいって言った? 私が男の子に質問しようとするとそれを男の子が遮る。

「今はやめた方がいいよ? 不審がられるからね。またここに来なよ。待ってるから」

それだけ言うとその男の子は消える。まるでそこに誰もいなかったかのように……

残された私は呆然と立ち竦むしかない。

「ねえ、聞いてる? 大丈夫?」

美紅の心配そうな声にふと我に返る。

「大丈夫。ぼーっとしてただけだから」

心配を掛けないためにはそう言うしかない。それが君と私の初めての出会い。

 ここで私自身と家族について少しご紹介。

私の名前は月城汐音 つきしろしおん桜橋 さくらばし高校の1年生になりました。中高一貫でここに中学3年になったばかりの弟、はやて も通っている。颯はサッカー部に所属している。私は幼い頃、事故で父親を亡くし、母と3人暮らしなんだ。よく父親がいないと可哀想って思われるけど私たち家族は3人でも幸せに暮らしている。

 君と初めてあったあの日から二週間が経過した。その事があってから、私は屋上へ行くのをためらうようになってしまった。でも待ってると言われたからには行かない訳にはいかない。私は覚悟を決めて屋上へ向かおうとしたとき、美紅が話しかけきた。

「汐音!  今日一緒にパンケーキ食べに行こうよ?」

「ごめん……美紅私、今日は屋上に行くって決めてるの」

「えぇ! でも最近行ってなかったもんね……いいもん! 他の子誘うから。ねえ誰か私とパンケーキ食べに行かない?」

そう少し不満そうにしていた美紅の切り替えは早く別の誰かを誘いに行ってしまった。私はため息を付くと屋上へ向かうために移動した。ここは1階の隅にある教室で屋上は3階だから階段へと向かう。その途中、先生から頼まれ事をされたが、断った。そしてついに屋上へと向かう階段へと辿り着く。屋上に向かうのにこんなに緊張するのは、はじめてだなと思いながら私は扉をあける。

すると頭上から男の子の不満そうな声が聞こえてきた。

「やっと来た……待ちくたびれちゃったよ……お前しか俺のこと見えないんだからさ来てもらわないと困る……それにまだ名前も聞いてないのにさ。来ないなんて酷いじゃん?」

「ごめんなさい……気持ちを整理する時間が必要で……え? ああ! 私まだ名乗ってなかったか! 自分のことでいっぱいいっぱいになっちゃって……改めまして月城汐音です。よろしくね」

「え? ああよろしくな」

そうどこか歯切れの悪い声で彼は言った。私のこと知らないはずなのにおかしいそう疑問に思っていると彼は続ける。

「まあ気持ちを整理する時間は必要だよな……悪いそういえば自己紹介がまだだったな俺の名前はいや今は内緒にしておく。ときがくればおしえてやるよ」

最初はどこか申し訳なさそうにしていたのにもう楽し気な表情へと彼の表情は変化していた。表情豊かだななんてそんなことを考えている私に彼は頼みごとをしてくる。

「俺が成仏するために協力してよ」

「いきなりそんな事言われても困る」

「だよなー。でもお前しか頼る奴がいないんだ! だから頼むよ」

必死に懇願してくる姿を放っておくことも出来ず気づいたら頷いていた。

男の子の顔が輝き、抱きついてくるがその体温を感じることはできない。

「悪ぃ、つい嬉しくてなって言っても俺空気みたいなもんだしな」

彼の表情がくもる。きっと今まで相手にされてこなかったのだろう。そんなのって悲しいそれが彼にも伝わってしまったのだろう。

「そんな顔すんな……俺はお前にそんな悲しい顔させたくないんだ。それに、俺はこの場所から動けないって思ってたんだけどな……お前と一緒なら動けるみたいなんだ」

私は首を傾げる。その様子をみて彼は吹き出す。

「くっ! ははは。なんて顔してんだよおまえ。まぁ、今日はそろそろ帰んな。もう時期夜がくる。夜は危険だ。ここは俺らみたいなゆうれいのたまり場なんだ……おまえにはきっと耐えられない」

そう言われて気がつくと太陽は沈み、辺りは暗くなりはじめていた。授業が終わった時は16時頃で時計を見るとその針は18時を回っていた。私は頷くと屋上の扉を開けて、出る直前で彼に声をかける。

「また明日」

そう言うと彼は嬉しそうな顔で笑ったそんな気がした。よく見ずに出て来てしまったからよく分からない。教室に急いで鞄を取りに行くと見回りの先生に見つかった。

「月城……まだ残ってたのか……どこにいたんだ?」

「屋上で空をながめてました」

「2時間もか?! すごいなおまえ……俺なら絶対飽きるわ……もう遅いからな早く帰れ鍵締めないと行けないんだからなもうすぐしめるぞ」

それだけ言うと先生は見回りへと戻って行った。私はほっと息を吐き、帰り支度を始める。そして時間を見ると18時20分。確かいつも30分には校舎と校門の鍵が閉まる。私は急いで鞄を開け、そこに教科書と出された宿題、マフラーをいれると鞄を閉め、ハンガーラックから上着を取ると昇降口へとかけ出す。ものの数分で昇降口へとたどり着き、靴に履き替えるとまた校門へと走った。そして私が出た瞬間、校門の扉がガシャンという音を立てて閉まる。私が息を整えていると扉を閉めた先生がこんなことを言ってきた。

「月城……そんなあせらなくてもいいんだよ?  多少過ぎても生徒が残ってれば閉めることはないから。気を付けておかえり」

その言葉を聞いて私はなんだあせらなくても良かったんだと思っていると上着のポケットに入っている携帯が光っていることに気づく。

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