神様と牧場

山吹弓美

神様と牧場

 四年に一度、この国には神様がやってこられるという。

 やってこられるとは言うけれど、そのお姿を見ることは私たちにはかなわない。だって神様は、神様にしか乗ることができない乗り物を使って空から私たちを見ているのだから。

 まるで雲のような白い乗り物は、空をまっすぐに通り過ぎる。たまたまその乗り物を見ることができた者は、ああ神様はあそこからご覧になっているのだなあと感動するのだ。


「だから、いつもそうだけど、今年はいつもにも増してきちんとした生活をしなければならないのよ」

「はーい」


 お母さんは、そう私に言い聞かせる。きちんとした生活って、いつもと同じ生活だと思うんだけどね。


 朝起きて、家畜に餌をやって、外に出してやって、それから朝ご飯。

 その後は家畜小屋の掃除をして、餌の草を刈り取って、そしてお昼ご飯。

 家畜を小屋に戻して、手入れをしてやって、晩ご飯。

 お湯で身体を拭いて、おやすみなさい。


 家の掃除とかお洗濯とかは、基本お母さんがやってくれる。私は家畜のお世話がお仕事だから、ちゃんとやらなくちゃ。

 神様がやってくるのは、私がお世話している家畜を買いに来るため。だから私は、神様に買っていただけるような家畜に育てなくっちゃ。代わりに神様がもたらしてくださる新しい家畜を、そうやって育てて行くの。


「出荷する家畜を、選んでおけよ。今年はな、いっぱい買ってくださるそうだから」

「ほんと!? やった!」


 お父さんからそう言われて、とっても嬉しくなった。お父さんだけは、神様と会うことを許されているんだそうだ。いいなあ、私も一度神様に会ってみたいなあ。


「お前が俺の牧場を継ぐことになったら、神様に会えるぞ」


 そう、お父さんは言ってくれた。それなら私は、家畜のお世話をもっとうまくなってそうして、お父さんの後を継いでこの牧場をしっかり支えていくんだ。




「ようこそ、いらっしゃいました。良いものが育っておりますよ」


 四年に一度、神様という名の顧客がこのコロニーを訪れる。目的は我が娘が牧場で育てている家畜の購入、そして新しく育てるための幼生の譲渡だ。


『それは良かった。新しい幼生も持ってきてある、しっかり育ててほしい』

「ありがとうございます。さて、今年はどれがよろしいでしょうかね?」


 娘が選んだ家畜たちが、檻の中に一頭ずつ入っている。顧客がコロニーを離れるまでに買い手が付けば良し、そうでなければ我々の食料となる運命だ。

 幸い、娘が育てた家畜たちはほとんど買い手が付き、無事に新天地へと旅立っている。その先がどうなるかまでは、私は知らない。


『十五番と、二十三番などは良さそうだな。肌の張りといい、全体的に程よい肉付きといい』

「十五番、二十三番ですね。では即刻」


 この顧客は、毎回雄と雌の二頭を選んで購入していく。繁殖させて、その子である幼生を再び育てさせてもらえるのはありがたい。


『頼むぞ。ヒト牧場の中では、ここがいつも最高品質だからな』

「重ね重ね、ありがとうございます。これからもご贔屓に」


 いや本当に、ご贔屓に。

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神様と牧場 山吹弓美 @mayferia

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