第6話 別れ

 城に帰宅するとアートとエナンとアナンがいた。

「トウ!ブータ!」

「お母さん‼」

 二人は返事をし、エナンは二人を強く抱き締めた。

「お疲れ、みんな」

 アナンは帰宅したみんなに言った。

「だいぶ苦労したよ」

 シャクシャクはアートとアナンに言った。

「かなり心配だぜ」

 アートはシャクシャクに言った。

「……すまなかったな」

「いいってことよ」

「お前にはいつも迷惑をかけているな」

「……そう思うならこれからは俺の仕事も手伝ってくれよ」

「それは無理じゃな。サンタクロースはクリスマスにしか働かないからのぉ」

「なんだよそれ」

「ホッホッホッホッ!」

 アート達が話しているとルドルフとコンが近付いてきた。

「ルドルフとコンもお疲れ」

「あぁ」

  アナンが二匹に言うと二匹で返事をした。

「いやぁそれにしても……何度見てもあのコンだなんて信じられないよ」

 アートはコンに言った。

「最初にあったときにかなり驚いていたからな」

「それはもう言うなよ」

  アート達は笑いだした。その時、アナンは少し離れた所で照れ臭くしているブータ(未来人)を見つけた。

「おい、そこの未来のブータ」

 アナンはブータ(未来人)に近付きながら言った。

「やっ、やぁ……」

「なんだいあんた。しばらく見ないうちに人見知りになったんじゃないかい」

「ふっ、普段から人とあまり話さないで仕事しているからな」

「そうかしら?あんたは自分の都合のいい時だけテンションがあがっているわよ。そういう性格よ、あんたは」

「うーん……まぁ、言われてみるとそうかもな……」

 ブータ(未来人)は少しばかり思い当たるものがあった。

「ねぇみんな、これから夕食にするから準備を手伝ってくれる?」 

 エナンは全員に聞こえるように言った。

「やったー!」

 ブータは大いに喜んだ。

「そう言えば、ろくなものを口にしてなかったな……」

 トウはカルデラ屈斜路湖までの道のことを思い出して言った。

「コンとルドルフも中に一緒においでよ」

「いいのか⁉」

 コンはブータに言った。

「あぁ、二人とも中に入って一緒に食事を食べようじゃないか」

 シャクシャクはコンとルドルフに言った。

「そうだな。何て言ったって今日こうして全員が無事に再会出来たんだからな」

 アートがそう言うと、トウ達は全員で食事の準備をした。そして全員が食堂で勝利の意味を込めたカツ丼を囲った。

「ルドルフってカツ丼を食べれるの?」

「大丈夫だ」

「ルドルフは少しばかり他のトナカイとは違うからな」

 シャクシャクはブータに言った。

「よし食べようか」

「うん‼」

 アナンの発言にブータが返事をした。

「ヘイナス‼」

 全員で挨拶をした後、カツ丼を食べながら楽しい食事をした。その日の夜はトウとブータはぐっすり寝ていた。

 次の日、二人は旅の疲れもあって庭で遊ぶことをしなかった。二人がトウの部屋にいるとコンがやって来た。三人はUNOをして楽しんだ。

「……こうして見ると不思議だね」

「あぁ、三人で遊んでいたコンが急にこんなにでかくなったんだからな」

 トウはブータに言った。

「私はこの大きさにすっかりなれてしまったよ」

「はい、僕が一番にあがりー!」

「なっ⁉」

「私もあがれた」

「ちぇっ、また俺がビリかよ」

「トウは弱いな」

 コンはトウに言った。

「花札だったら負けないぞ」

「お兄ちゃん強かったっけ?」

「……そうだよ。花札だ。花札だよ」

「えっ、急にどうしたの?」

「……花札の役に猪鹿蝶ってあるだろう」

「うん」

「俺達は猪鹿蝶のような関係かな」

「えっ、どういうこと⁉よくわからないよ」

「狐がいないじゃないか、ただ同じ三組の関係を言っただけだろう」

「そっ、そうだな。てへへ」

「関係か……そういえば僕達ってどういう関係なんだろう?」

「前にお父さんが言ってたよ。汝自身を知れって」

「えーなにそれ?」

「俺も上手くは説明できないけど、自分自身を知ることは他者を知るとかそういう意味だったと思う」

「ふーん……」

「汝自身を知れ……っか……」

 コンは窓を眺めながら思い悩んだ。

「どうしたのコン?」

 ブータはコンに言った。

「……いや、なんでもない……よし花札をやろう」

「うん!」

「負けないから!」

 トウがそう言うと、再び三人は花札をして楽しんだ。


 トウ達が城に帰還して三日が経った。冒険の疲れもすっかり取れて再び元の日常へと戻った。

 ブラックサンタクロースのその後の行方は誰もわかっていなかった。捕まったという情報も未だになかった。

 トウは部屋の窓から景色を見ているとブータが部屋に来て、ある手紙を持って入ってきた。

「お兄ちゃん、はいこれ‼」

「何だこの手紙は?」

「お爺ちゃんがね、お兄ちゃんにも見せなさいって言うから持ってきたよ」

「手紙?」

「これはね、トップスターと一緒に入っていた手紙だよ」

「トップスターと⁉」

「うん、ケースにはトップスターだけでなく、小さな手紙も入っていたいたんだよ」

「……そうだったのか」

 トウはブータから手紙を受け取り、中身を読み出した。


手紙

 この手紙を読んでいるということは、トップスターを手に入れることが出来たのですね。

 トップスターは使われるべき人に使われるためにここに残します。

 なお不本意に家族の誰かに手紙を捨てられないために、この島に置いたことをご了承ください。

      ネイルスタースミス・アーロヌ


 手紙の一部は破れているため、全てを読むことは出来なかった。

「アーロヌって……」

「僕らの先祖だね。トップスターをカルデラ屈斜路湖に隠したのはアーロヌだったんだ」

 トウが手紙を読み終えた後、シャクシャクはトウとブータを自分の部屋まで呼んだ。シャクシャクの部屋には、今はもう動いていない大きなのっぽの古時計が置いてあった。

「なーに、お爺ちゃん?」

「手紙は返すよ。いったい何のよう?」 

 トウはシャクシャクに手紙を返した。

「これを見てもらいたくてな」

 シャクシャクは二人にノイルッシュサンタ学校に通っている時のアルバム写真を見せた。

「……これはな、ワシと弟がお前らの曽祖父さんにソリで学校まで行く姿じゃ」

「お爺ちゃん若いね」

 ブータは写真を見て言った。

「ホッホッホッホッ、それと、こっちは友人と給食を食べている写真じゃ」

「いいなぁ、美味しそう」

「やっぱり通ってみたいなノイルッシュ」

「僕も!」

 トウとブータはアルバムに夢中になっていた。

「……お前たちも通ってみるがいい」

「えっ⁉」

 トウとブータは驚いた。

「いいの⁉」

 ブータはシャクシャクに言った。

「あぁ」

「どうして、前まで断っていたのに?」

 トウはシャクシャクに言った。

「お前達ならきちんと学んでくれると思ったのじゃよ」

「やったー‼」

 ブータは大いに喜んだ。

「はっ、はは、やった……やったー‼」

 トウはサンタの学校に通えるという事実に少しずつ実感が沸いて喜んだ。

「ホッホッホッホッ、来年までにたくさん予習しないとな」

「入学はいつになるの?」

 トウはシャクシャクに言った。

「来年度はたしか……クリスマスシーズンじゃったかのぉ」

「えー、クリスマスまで待てないよ」

「ホッホッホッホッ、焦りは禁物じゃ。これはな、人生と一緒じゃよ。一度しかない出来事だからこそ、慎重にならなければならん」

 シャクシャクはブータに言った。

 その後トウとブータは喜んでシャクシャクの部屋から出ていった。そしてシャクシャクは部屋に一人残され、アルバムを懐かしく見ていた。すると再び部屋に誰かが入ってきた。


 シャクシャクの部屋に来たのはコンである。部屋には机と椅子があり、シャクシャクは椅子に座っていた。

「……おや、コンではないか」

「お爺ちゃん、少し話してもいいか?」

「いいぞ、ワシも色々と聞きたいことがあった。

「えっ⁉」

「お前の姿を初めて見たときは驚いたからな」

「あぁ、実はな……」

 コンは姿が大きくなったこれまでの経緯を話した。シャクシャクはコンのために真剣になって話を聞き、真剣になって考えた。

「……なるほど、じゃがすまん、ワシもお前のことは詳しくはわからんのじゃよ」

「そうか……」

 コンは部屋から出ようとした。

「これからどうするのじゃ?」

コン 「……」

 コンは立ち止まり、部屋から出るのを止めた。

「……お前の好きにすればいい」

「あぁ、そうしようと思う」

「なにか予定でもあるのか?」

「私は私を知るために、これからたくさんの情報を集めなければならない。そのために多くの町を訪れて行こうと思う」

「……ほう」

「しばし旅に出る。それまではみんなとはお別れだ」

「旅か……いいな、楽しいじゃろうな!」

「……そんなんじゃない」

「ホッホッホッホッ、何を言うとるか、人生は一度きりじゃぞ。楽しく生きるべきじゃないのかね」

 コンは聞き覚えのあるフレーズに驚いた。シャクシャクがオシャマクラと同じ内容を言っていることに気付いた。

「……お爺ちゃんもすっかりお爺ちゃんになったな」

「たしか……お前と出会ったのはいつじゃったかな……お前はワシが生まれてから既にいたからのぉ」

「あまり昔のことを思い出せないが、いま思うと普通の狐よりは長生きし過ぎていている気がする」

「謎は深まるばかりじゃな」

「……行ってくる」

「あぁ」

 コンはシャクシャクの部屋から出た。コンが廊下を歩いているとトウとブータがいた。

「やぁコン」

 ブータはコンに言った。

「どうしたんだ?そんな思い詰めた顔をして」

 トウはコンに言った。

「……二人とも、少しいいか?」

 コンは二人に別れを告げようと考えていた。すると、割り込むようにブータ(未来人)がトウとブータが通って来た道からやって来た。

「よお、ちょっと言いか?」

 ブータ(未来人)はブータに言った。ブータ(未来人)は療養のため城に住まわしてもらっていた。

「あっ……うっ、うんいいよ」

 ブータとブータ(未来人)はブータの部屋まで行ってしまった。トウとコンは二人が移動するのをじっと見ていた。

「……何か俺とブータに話でもあったんだろ?後でブータが来てからでもいいぞ」

「……いや、トウだけで大丈夫だ!こっちに来てくれ!」

 コンはトウを城の外に連れ出した。

「……何だよ、話ぐらいなら俺の部屋でもいいじゃないんか?」

「ここがいい。長くなるに連れ離れられなくなってしまう」

「どういうこと?」

「……しばしみんなとはお別れだ」

「えっ⁉」

「私は自分のルーツを探すために旅に出ようと思う」

「……ルーツって、前に言ってた自分が何者なのかっていうこと?」

「そうだ」

「それなら俺の側にいた方がいいんじゃないか?俺はコンの特別な存在なんだろ?」

「……いや、たしかにその通りではある」

「だが、私は知らないことが多すぎる。もっと色んな所に行って色んな情報を集めたいんだ」

「……そうか、わかったよ」

「……」

 コンはそのまま何も言わずに立ち去ろうとした。

「またコンと暮らせたらいいな」

 するとコンは立ち止まり後ろを振り返った。

「……あぁ、旅が終わったら戻ってくるよ」

「待ってるよ」

「ブータにもよろしく言っておいてくれ」

「うん」

 トウはそう言うといきなり突風が発生した。すると雪で前が見えなくなってしまった。突風が収まるとコンの姿はどこにも見えなかった。コンは突風とともに姿を眩ませた。トウは一人残されしばらくは立ち止まって感傷に浸っていた。


 ブータとブータ(未来人)はブータの部屋に入った。

「……色々と世話になったな。三日間もお前の部屋で寝かせてもらってよ」

「おじさんは僕なんだから僕の部屋を使うのは当然だよ」

「そうか……今日でこの部屋もお別れか」

「えっ、住んでた部屋に戻るの?」

「……いや、住んでた所は片付けたよ」

「仕事先から近いのに?」

「仕事は辞めることにしたんだ」

「えっ?」

「……いいか、よーく聞いてくれ。俺の指名は君を守ることだった。だから君がピンチの時にやって来るようにしていた」

「……うん、知ってる」

「でも……もうその必要はない……」

「どうして?」

「……君は強くなったよ。だから俺はもう必要ないんだ」

「どうしてそんなことわかるの?」

「ルドルフから後で聞いたんだよ。君がマクートに勇敢に立ち向かって行ったこととかをね」

「でも僕……途中でお兄ちゃんと喧嘩したりしたんだ……」

「そうだな……でも、今までの君だったら違っていたよね?君はいつも兄にくっついて自分の考えなんて持っていなかった」

「……そうかもしれない」

 ブータ(未来人)はブータの手を握って目を見つめた。

「君は十分強いよ。そして、これからもっと強くなれる」

「それって……おじさんが未来人だからわかるの?」

「いや、俺にはそんな能力ないよ。君の強さを信じているから言っているんだ」

「……不安だよ。自分が将来どうなっているなんて考えられないよ」

「将来が知りたいのか?そんなもの君の努力次第で何とでも変わるだろう」

「……やれるかな?」

「やれるさ!俺が保証する。俺は君なのだから」

 ブータは照れて微笑んだ。

「俺は君に戻るよ」

 そう言うとブータ(未来人)はブータの胸を右手で触った。すると胸の辺りが光だした。

「なっ、何をするの?」

「さよなら……俺」

 ブータ(未来人)の体はブータの胸の光に吸い込まれるように入っていった。ブータは眩しい光によって目を閉じていたが、目を開いてみると、ブータ(未来人)の姿はなかった。

 ブータは胸に手を当てると温かった。しかし心なしか寂しい気持ちであった。ブータは

気持ちを切り替えて部屋から出ることにした。ブータが部屋から出て廊下を歩いているとコンと別れをしたトウと遭遇した。

「お兄ちゃん……」

「……ブータ」

 トウとブータはそれぞれ別れをして、互いに起きたことを話した。


 次の日、コンとブータ(未来人)との別れをしたトウとブータはトナカイの引くソリで繁華街まで来ていた。二人が繁華街に来たのは久しぶりだった。二人はある目的で来ていた。今日の二人はサンタの衣装を着ていた。

「お兄ちゃん、ソリを止めてくれる?」

「ん?あぁ」

 トウは手に持っている紐を引っぱるとソリが止まった。ブータはソリから降りた。

「ちょっとここで待ってて」

「どうした?」

「お母さんにおつかい頼まれていたんだ。えっと……小麦粉と醤油だったけ?」

「そんなの後でよくないか?」

「後だと忘れそうなんだもん。すぐに終わるからさ、ちょっとだけ待ってて!」

「仕方ないな……」

 ブータはそのまま目の前にあるスーパーマーケットに入っていった。トウもソリから降りてソリに寄りかかって待った。トウはコンの普段やっている行為を真似しだした。

 空は晴れているのに風によって粉雪が舞っていた。トウは空の天候を確認したあと、遠くを見た。すると、黒い巨大な老人が歩いてこちらに近付いているのがわかった。老人は

ブラックサンタクロースのボスのトントン・マクートであった。

「お前は……」

 マクートはトウの存在に気付いた。

「マッ、マクート⁉」

 トウは驚きと同時にそのまま戦闘態勢に入った。トウはマクートを睨み付けた。マクートはその姿をただじーっと眺めていた。

「……ふっ、既にお前と戦う理由なんてない」

 トウはマクートの言葉を聞いて肩の力を落とした。

「……何でここにいるんだ?」

「ふっ、お前に言う義務はないが……まぁいい教えてやろう。ちょうどある用事を済ませたところだ」

「用事?」

「ついさっきブラックサンタクロースを解散させたところだ」

「えっ⁉」

「部下達もそれぞれ自分のやりたいことをやるだろう……本当に利口な部下達だった」

「なっ、なぜだ⁉なぜ解散させたんだ⁉」

「問題ばかりの組織では信頼など得られない。事業を良くしていくには信頼が何より大切なのだ。しかし、私は私のやりたいことのために組織を支配しなければならなかった。だが……もう、これっきりだった」

「えっ?」

「トップスターは私の夢でもあった。それを失ったいま、ブラックサンタクロースとしている必要もない」

「……」

「……なりたいものになれなかった」

「……」

トウは悲しい表情をした。返す言葉が思いつかなかった。トウの頭の中では、自分がやった行動は本当に正しかったのか、それとも間違っていたのかわからなくなってしまった。

「ここに来たのはな、もう一つ理由があるんだ」

「えっ?」

「……この素晴らしい景色を見たかったからだ」

「景色……」

「冬になると美幌には他の町にはない優雅な氷の大地が出来るそうだ」

「……」

 トウはシャクシャクが言っていたことを思い出した。シャクシャクがマクートに伝えたことがわかった。

「これから私は北海道の景色を一つ一つ見て行こうと思う。私の寿命が尽きるまでな」

 そう言うとマクートは、トウに背中を向けてどこかに行ってしまった。トウはその姿をただ眺めるだけだった。

 やがてマクートの姿が目視できなくなった頃、ブータが買い物袋に小麦粉と醤油を入れてソリに戻って来た。

「お待たせお兄ちゃん……どうしたの?」

「……いや、何でもない……行こうか」

「うん」

 二人はミイの住んでいる児童養護施設に向かうため再びソリが動き出した。


 児童養護施設まで辿り着いた二人は、施設の中に入るためにベルを鳴らした。すると出てきたのは、アナゴンダや他の職員ではなくミイであった。

「あら、あなた達……入って」

 ミイは二人をアナゴンダのいる所まで案内した。そして、二人はアナコンダと対面した。

「……なんだクソガキ、二度と来ないのかと思っていたよ」

「すみませんでした」

「……すみませんでした」

 トウがお辞儀をした後にブータもお辞儀をした。二人は誠心誠意込めて謝った。前にサンタの仕事をした時にトウが壺を割ってしまったことや、コンとブータがふざけて暴れてしまったことについてである。

「……ふんっ、あの件のことはもういい。トウと言ったか?」

「はっ、はい」

 トウは頭を上げた。その後にブータも頭を上げた。

「俺もすまないと思っている」

「えっ⁉」

「大事な壺だというのにあの棚に置いといたのがそもそもいけないんだ。あそこで子ども達が遊んでいる時に誤って割ってしまうことも考えられたはずだ。なのに……そんなことも考えずにお前達を怒鳴って追い出してしまった……本当にすまない」

 アナゴンダはトウに謝罪した。

「あっ、そうだ。アナゴンダさん僕、わかりました」

「……なにをだ?」

「僕がサンタクロースになったのはこの仕事が好きだからです。僕は僕のやり方で人に笑顔を与えて人を救いたいです!」

「……ふんっ、やはり気楽すぎる。そしてくだらない……まぁ、いいだろう。その根性だけは認めてやる」

「ありがとうございます!」

「さあ、飯だ飯だ‼」

 アナゴンダはトウとブータも含めて施設のみんなと食事にすることにした。アナコンダや他の職員が食事の準備をしている間に、二人は施設の子ども達と話していた。

「ねぇ、今日は喋る狐さんはいないの?」

 女の子がトウに言った。

「狐さんは旅に出掛けちゃったよ」

「そうなんだ」

 そのあとトウとブータは、城であらかじめ作って置いたミニパンケーキを子ども達に見せた。

「じゃーん‼」

 トウはたくさんのミニパンケーキが乗っている大きな皿を持ちながら言った。

「食事が終わったらみんなで食べようよ」

「やったー‼」

  ブータが子ども達に言うと、子ども達は一斉になって喜んだ。すると一人の男の子がトウとブータにあることを投げ掛けた。

「サンタさん、クリスマスシーズンはもう終わったよ。それに食べ物で僕らを釣ろうだなんて、まだまだサンタクロース失格だね」

「あんたも可愛くないわね」

 ミイは男の子に突っ込んだ。周りは笑い始め和やかな雰囲気となった。そしてそのあと全員で座って食事をした。食事はカレーライスであった。

「やったー、カレーライスだ!好物なんだよね」

「しっ……静かにして」

 ミイはトウに言った。周りは静まり返った。

「……みんな準備は出来たか?では……ヘイナス!」

「ヘイナス‼」

 アナゴンダが挨拶をすると施設の子ども達と職員が一斉になってサンタクロース特有の挨拶をした。トウとブータは、オシャマクラからヘイナスはサンタが食事をする時に言う挨拶と聞いていたので、施設の人達が使用していることに驚いた。

「あれ、今の挨拶って……」

男の子 「サンタクロースが使用する挨拶だろ、みんな知ってるよ」

 男の子はトウに言った。そしてトウとブータは食事を頂いたあと帰宅することした。ミイは入口まで二人のことを見送った。

「……ここでいいよ」

 トウはミイに言った。

「そう」

「じゃあな、色々と世話になったな」

「本当よ……でも、楽しかったからいいわ」

「……そっか」

「また来てね……」

「あぁ」

「バイバイお姉ちゃん」

 ブータはミイに言った。

「うん、バイバイ」

 トウとブータはソリに乗って城に戻ることした。


 二人は城に戻ると玄関のドアを開けて中へと入って挨拶をした。

「ただいま!」

「おかえり、やっと帰ってきたか」

 珍しく玄関に来たのはシャクシャクであった。

「なに?」

 トウはシャクシャクに言った。

「実はな、城の倉庫に古い気球があったんじゃよ」

「気球⁉」

 トウとブータは同時に言った。

「いまアートが準備をしてくれている。後で気球に乗って出掛けてみないか?」

「本当に⁉」

 トウは驚いた。

「やったー!」

 ブータは喜んだ。

「……でもお爺ちゃんはわざわざ気球に乗らなくてもソリで飛べるじゃん。気球に乗る必要なんて無いんじゃない?」

 トウはシャクシャクに言った。

「ソリで飛んでいると言うよりはじゃな……ワシが空を飛べるから追加でソリを浮かしているだけなんじゃよ」

「そうなの?」

「……まぁ、そのことは別に今はいい。たまにはのんびりと気球に乗って空の旅をするのも悪くないと思ったんじゃよ」

「ぼく気球に乗りたい!」

「おっ、俺も……」

「ホッホッホッホッ、ではさっそく中庭に行ってみるか!」

 そう言うと三人は、城の中庭に向かった。中庭ではアートとルドルフが気球を飛ばす準備に取り掛かっていた。

「どうじゃ?アートよ」

「……いつでも飛ばせるよ」

「すごいなぁ!お父さんって何でも出来るんだね」

 ブータはアートに言った。

「おうよ、俺はどんな仕事もこなすプロフェッショナルだからな」

「本当に家の家計はすごい人ばかりだ……」

 トウはふとそう思った。さっそくトウとブータとシャクシャクは気球に乗り込んだ。シャクシャクは気球の中にあるバーナーを弄ると、火が着いて気球が少しだけ浮き出した。気球はロープに繋がっている。飛び立つ前にエナンとアナンが迎えに来てくれた。

「よーし、ロープを切るぞ‼」

 アートは気球に乗り込んでいる三人に言った。

「いってらっしゃい‼」

「楽しんでこい‼」

 アートがロープをオノで切ると気球が上昇し出した。

「じゃーね、みんな行ってくるね‼」

 ブータは下にいる者に言った。下からはアートとエナンとアナンが手を振っていた。トウとブータも手を降った。気球はどんどんと上昇していくと、やがて下から手を振る姿も見えなくなった。その後トウとブータは景色を見るようなった。

「あっ、アイスマンがいるよ。おーい‼」

 ブータはアイスマンがいるのを確認した。しかしアイスマンには聞こえてなかった。気球はさらに城から離れていった。

「……そうじゃ、お前達にサンタの学校を見せてやろう」

「本当に‼」

「ホッホッホッホッ、さっそく行くとするか!」

 気球はノイルッシュサンタ学校まで移動した。トウとブータは学校に着くまで繁華街の景色を見て楽しんだ。そしてすぐに学校が見えてきた。

「……あれがノイルッシュサンタ学校じゃ!」

「でかいね‼」

「そうだな!」

 トウはブータに言った。ノイルッシュサンタ学校はシャクシャクの城より大きかった。

「……どれ、もう少し近くによってみよう」

 シャクシャクは気球を学校に近付けようとした。

「ねぇねぇそれよりさ、あの山を越えてみない⁉」

 ブータは目の前に見えている山を指した。

「……行ってみたいのか?」

「うん‼」

「ホッホッホッホッ、いいぞもう少し先まで行ってみよう」

 気球は学校ではなく、行き先を変更して目の前に見える山に向かって飛んでいった。

「あの山を越えるとその先に何があるのかな?僕ねもっと色んな所に行って見たいな」

「……そうか、俺も行きたいな。ねぇお爺ちゃん、今度は俺達も遠くまで仕事に付いて行ってもいい?」 

「僕も行きたい‼」

「おういいぞ、大変だろうけどな。ホッホッホッホッ‼ホッホッホッホッ‼」

 シャクシャクはとても嬉しくていつもより長く高笑いをした。

 気球はやがて山を越えると見たことない森林が広がっていた。やがて夕日が沈み始めて辺りはオレンジ色になっていった。三人はその綺麗な夕日の景色に魅了された。

「……ねぇ、お爺ちゃん、夢に未来の自分が出てきたんだ」

「ほう……」

「そしたらね、俺のことを助けてくれたんだよ」

「……それは奇跡かもしれんのぅ」

「うん!」

 気球はどこまでも飛んでいった。三人は有意義な時間を過ごすことが出来た。辺りが暗くなる前に城に着陸することにした。気球はそのまま城まで夕日のように沈んでいくのであった。


 

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