第3話 繁華街

 一週間後、クリスマスシーズンも終わりトウとブータとコンもすっかりいつも通りの生活に戻っていた。トウとブータはサンタの衣装を普段から欠かさず着るようになっていた。

「トウ、ブータ、買い物に行かない?」

 エナンはブータの部屋にいるトウとブータに言った。部屋にはオモチャがたくさん置いてあった。

「行く行くー‼」

「何を買うの?」

「城の食料を調達するのよ」

「食料?それならお母さんと叔母さんだけでいいんじゃないの?」

 トウはエナンに言った。

「買うものが多いから手伝ってほしいのよ」

「そんなにたくさん買うものがあるの?」

「台風の影響で畑の野菜も取れなくなったからな。だからスーパーマーケットに行って野菜をたくさん仕入れて来るんだ」

 突然アナンは部屋に入ってきて話に入ってきた。

「……そういうことか」

「手伝ってくれる?」

 エナンはトウに言った。

「うん」

「なになに買い物?おいらも行く!」

 トウ達の話を廊下で聞いていたコンが部屋に入ってきた。

「今日は繁華街にあるスーパーマーケットに買い物に行くだけだよ。スーパーには動物は入れないよ」

 ブータはコンに言った。

「ガーン!」

 そのあとトウとブータとエナンとアナンは

ソリが置いてあるトナカイの小屋まで向かった。

「なんだ二人とも、その格好で行くのか?」

 アナンは一匹のトナカイを連れながら言った。アナンはトナカイとソリを紐で結んだ。

「うん、そうだよ」

 ブータはアナンに言った。

「クリスマスシーズンは終わったじゃないか……」

「なんでもいいじゃない。ほら、行きましょう」

 トウとブータとエナンとアナンは繁華街にスーパーマーケットに向かった。住人は馬車のように何かの動物を使って移動する。ネイルスタースミス家の場合、移動手段はソリでトナカイが引いている。夏場になるとソリに車輪が着く。

 スーパーマーケットに着くとトウ達は買い物を楽しんでいた。トウとブータは普段から城にいることが多いため、何の変哲もない売場でも大興奮をしていた。

「あんまりはしゃがないでよ」

 エナンはトウとブータに言った。

「うん、ちょっと行ってくる」

 ブータはそう言うと、トウと一緒に別の売り場を見に行った。

 野菜売り場をぐるっと回った後、魚売り場、肉売り場、惣菜売り場、食品売り場の順に見ていった。それぞれにある試食コーナーで二人は試食を食べまくっていた。

「見てみて、なんかいるよ!」

 ブータがそう言うとトウはブータの示す方向を見た。するとトナカイの着ぐるみが子ども達と写真撮影をしていた。

「僕達も撮ろうよ」

「あっ、あぁ」

「ようこそ、二人とも兄弟かな?」

「はっ、はい」

 スーパーの職員は二人に声を掛けてトウが答えた。トウは少しばかり緊張していた。

 二人は職員に誘導されて着ぐるみの隣に付いた。

「笑って笑ってー!はい、チーズ‼」

 職員はそう言いながら写真撮影をした。二人は着ぐるみと一緒に写真撮影をした。二人が写真撮影をしているのをエナンとアナンは見つけた。

「おーい!トウ、ブータ」

 二人はアナンに呼ばれるとエナンとアナンに合流した。そのあとブータは、他の三人に向かって自分のやったサンタの仕事のことについて話した。

「……それでね、そこの家に入ったらたくさんの犬がいて、僕のことをみんなでいきなり吠えてきたんだよ」

ブータの発言に他の三人は笑った。笑い話が絶えない買い物の時間はあっという間に終わってしまった。

「それじゃ帰りましょうか。トナカイも待たせていることだしね」

「そうね。これだけあればしばらくは城から出なくても生活できそうね」

 アナンがエナンに言うと、四人はスーパーマーケットから出た。


 トウ達は乗ってきたソリが見える所まで来た。

「ねぇ、あのトナカイって名前は何て言うの?」

 トウは乗ってきたソリを引いているトナカイが気になった。

「知らないわ。テキトーにトナカイを一匹連れ出したからね。小屋の配置に書かれている名前を見ればすぐにわかるんだけど……アナン知ってる?」

「知らないよ。そもそも区別が付かないね。そんなに気になるなら自分でトナカイに聞いてみたら?」

「そうだね」

 トウはトナカイに名前は何なのか聞いてみた。トナカイは吠えて返事をした。

「ドナーって言うらしいよ」

「……やっぱりすごいな。その能力……」

「トウもブータもお爺ちゃんと同じで動物と話せるから羨ましいわ」

「でも何で俺とブータとお爺ちゃんは話せるのに、他の人は話せないんだろう?」

トウは話をしている時に奥にいる子ども達が気になって見てしまった。エナンとアナン

とブータも釣られて見てしまった。

 トウは子ども達の中からミイを見つけ出した。ミイは壁に寄りかかっているため見つけやすかった。ミイもトウを見つけることが出来た。ミイはトウを見つけた時に、思わず「あっ」と声が出た。

「ちょっと行ってくる」

「えっ、どうしたの?」

 エナンがトウに言った。

「すぐ終わるよ」

そう言うとトウはミイの所まで走った。

「……何も要件を言わずに言っちまったよ」

「仕方ないから私達は待ちましょう。あそこのフライドチキンでも買って待ちましょうか」

「わーい!」

 エナンが言うとブータは喜んだ。三人はフライドチキンを買いに向かっていった。その頃トウはミイの所まで辿り着き、話しかけた。

「やぁ久し振りだね」

「元気そうね」

「こんな所で何やってるの?」

「買い物よ。いまアナゴンダさんや子ども達が買いに行ってるわ」

 トウはアナゴンダという語句を聞いて施設での出来事を思い出した。

「……ミイは行かないのかい?」

「途中で面倒くさくなっちゃってね。みんなの帰りを待つことにしたわ」

「ねぇ、ちょっと変なこと聞いてもいいかな?君はどうしてあの施設に住んでるの?」

「あらその質問は絶対に他の子にはいっちゃ駄目よ。みんなそれなりに訳があってあそこに住んでいるのだから」

「そう……。わかった」

「……私はね、捨てられていたみたいなの。だから両親の顔も名前も知らないの」

「そうなんだ……。ひどい話だね」

「そうでしょう、だから施設に住んでいるみんなが私の家族みたいなものよ。施設に住まわしてくれるアナゴンダさんには本当に感謝しているわ」

「……そうなんだ。あの……この間は本当に色々とごめん」

「色々って何?」

「その……ブータやコンが迷惑かけたのと、壺を割ってしまったこと……」

「別にの弟や狐さんは悪くないでしょ。アナゴンダさんも別にそのことで怒ってはいなかったわよ。違うでしょ!あなたがアナゴンダさんの大切にしている壺を割ったからでしょう。原因はそれよ」

「うん、そうだね……」

「……ちゃんと謝りに行きなさいよ」

「うん、わかった……」

 トウはミイに強く言われて落ち込んでしまった。二人が話をしていると、ブータが近付いて来た。

「こんにちは!お姉ちゃん」

「あら、こんにちは」

「この間は楽しかったよ。また行ってもいいかな?」

「もちろんよ!」

 ブータは笑顔になった。ミイも釣られて笑顔になった。

「あっ、お兄ちゃん。そろそろお母さんが帰るって言ってたよ」

「あぁ、わかった」

 ブータはミイに手を振って別れた。トウは

ミイに恥ずかめに別れの挨拶をした。そして二人はソリの所に戻った。

 ソリには既にエナンとアナンが乗って待っていた。

「やっと来たわね。トウの分は取って置いたわよ。はいこれ」

エナンはトウにフライドチキンを渡した。「ありがとう、ヘイナス」

 トウとブータもソリに乗り四人は城に戻ることにした。


 スーパーマーケットでの買い物も終わって城に戻ってきた。

 ブータが資料室にあった懐かしい絵本を持ってきてエナンに話している。

「わぁ、懐かしい絵本ばかり、これって『モッチーとミッチー』だよね?」

「そうよ。よくあなたに読ませてあげていたわね」

「うん!」

「すっかりあなたももうサンタさんね。城の中でも帽子をずっと被っちゃって」

「えへへ」

 サンタの仕事の時に資料室を見てからトウとブータは資料室をよく出入りするようになった。

 一方のトウは資料室で調べものをしている。資料室には父親のアートもいる。

「トウ、何か調べものか?」

 アートは机で作業をしながら棚の本を探っているトウに話しかけた。

「お爺ちゃんがサンタの学校に通うの反対だって言うんだ。だから自分でなる方法を探しているんだ」

「俺もそもそもサンタクロースってどうやってなるのかよくわからないなぁ。この資料室にあるのは俺が買った農業に関する本ばかりだから、参考にならないかもよ」

「そうだね」

「ネイルスタースミス家は代々と伝わるサンタ一家だ。俺も実は小さい頃にトウからみて曽祖父さんのネットルーとサンタの仕事をしたことがある」

「そうなんだ。どうだった?」

「たしかにサンタの仕事はやりがいがあると思う。でも、俺は自分でやりたいことは自分で探したいと本気で思った。だからおれは家族の反対を押しきってサンタクロースになるのを辞めたのよ」

「……そうだったんだ」

「トウに足りないのは自己分析かもしれないな。汝自身を知れ、だぞ?」

「……うん」

 二人が話している頃、シャクシャクはトナカイに餌をあげていた。餌をあげ終えて小屋から出ると、城の方に近付いて来る者が見えた。前に城に訪れたトントン・マクートである。

「やっと会えた」

「……お前はマクートではないか。久しぶりじゃな!」

 シャクシャクは瞳孔を大きく開いて驚きながらマクートを見た。

「実は前に城を訪れたんだ。だからここに来るのは二回目だ。お前の孫と話した。少し予定が出来て来るのが遅れてしまった」

「そうじゃったか、そうじゃったか。さぁ中に入れ!」

 シャクシャクはマクートを歓迎し、城の中に入れようとした。

「……いや、大丈夫だ。あそこに移動しよう」

 マクートは城の隅を指で指しながら言った。二人はマクートが指定した場所まで移動した。そしてマクートは再びシャクシャクに話し掛けた。

「……トップスターのことは知ってるな?」

「あぁ、知ってるぞ。よく神話に登場する道具じゃろ」

「トップスターが実在していたのは知ってるか?」

「……知っておるわ」

 先程までの対面の空気とは裏腹に、二人の会話は重たい空気が流れていた。

「……なら話は早い。私は昔からトップスターのありかを探している。色んな文献を調べたところ、ネイルスタースミス・アーロヌという人物がトップスターに関係しているそうだ。これはお前の先祖ではないか?」

「……そうじゃ。だがワシも詳しいことはわからん」

「城の中に何か手掛かりになりそうなものはないのか?」

「そんなものはない」

「本当か⁉」

「本当じゃ!ワシは嘘はつかん。昔からそうじゃったろう」

「ふんっ、どうだかな」

 二人が話していると、マクートはある大きな墓が目に入った。大きな墓はネイルスタースミス家の先祖が眠る墓である。

「あそこが怪しいな」

 そう言うとマクートは墓の所まで歩いていき、隅々まで調べていった。

「この棺桶の中を見てもいいか?」

「……まぁ、いいだろう」

 シャクシャクに許可をもらうとマクートは棺桶を開いた。すると中にはたくさんの遺箱が入っていた。ネイルスタースミス家は全て棺桶の中に遺箱として保存されていた。

 マクートは一つ一つ遺箱の蓋に彫られている名前を見てアーロヌのがないか探していった。そしてそこにはアーロヌの遺箱も入っていた。

 マクートはアーロヌの遺箱の蓋を取った。中を除くと遺骨が入っていた。そしてマクートは遺骨の中に手を入れた。

「おい、よさんか!」

 マクートはシャクシャクの声に耳を傾けずに探し続けた。すると下の方から折り畳まれた紙切れが入っていた。マクートは紙切れを手にして開いていった。

 中に書かれている内容を把握すると、マクートはニヤリと笑った。そしてシャクシャクに紙切れを渡して読ました。

「……なっ、なんと‼」

「ビンゴだ!」

 紙切れにはトップスターのありかが書き記されている地図であることがわかった。

「カルデラ屈斜路湖……トップスターはそこにあるそうだ。何とこの美幌にあるようだな」

「……カルデラ屈斜路湖とは美幌の峠のことじゃな。あそこまでの道のりはモンスターがたくさんいるからな。歩いて行くとすると大変かもしれんな。観光客は普通は乗り物に乗って移動するわ」

「そうか、いいことを聞いた」

「……気を付けて行けよ」

「お前も付いてこい!」

「……なんじゃと⁉ワシも行けと言うのか⁉」

「……お前は他のサンタクロースとは違う。お前ならすぐに辿り着けるはずだ。お前も付いてこい!」

「……」

 シャクシャクは黙りこみ深く考え込んでしまった。

「俺とお前の仲じゃないか、また昔みたいに仲良くしようではないか」

「……そんな物を手に入れて何じゃと言うのじゃ」

「ふんっ、お前にはわかるまい。私はトップスターを手に入れるために今まで生きてきた。トップスターこそ私の全てだ!」

「……断る。ワシはあんなものに興味がないのじゃ」

「ふっ、仮にもお前の先祖が書いた地図だと言うのによ……まぁいいや、たしかお前には家族がいるな。そう、孫が二人……将来はサンタクロースになりたいと言っていたぞ」

「……それが何じゃと言うのじゃ?」

「いいのかな、断って?」

 マクートは不快な笑みを浮かべながら言った。

「……それは脅しか?」

「あぁ、脅しだよ」

「……」

 マクートの発言にシャクシャクは再び黙りこんで考えてしまった。

「……わかった。ワシも行く。じゃから家族には手を出すな!」

「もちろん」

 マクートは再び不快な笑みを浮かべた。

シャクシャクとマクートのやり取りをトナカイの小屋からルドルフとコンは見ていた。二匹は二人の様子を怪しんでいた。

 その後コンは急いでトウとブータを呼びに行くことにした。コンに呼ばれた二人は、シャクシャクとマクートのやり取りを上から見える窓の所まで移動し、そこからこっそりと覗くことにした。

「何の話をしているのかな?」

 ブータはトウとコンに言った。

「おいらもよくわからないよ」

「全然聞こえないな」

 三人は小声で言った。

 シャクシャクは準備に取り掛るために城の中に入っていった。

 三人は一人取り残されたマクートを見ていた。すると、マクートが窓から覗いている三人に気付き怖い目で見た。三人は一瞬だけ目が合うと瞬時に隠れた。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 三人の心臓の鼓動は速まっていた。

 城の中ではシャクシャクがアートにいなくなることを伝えていた。

「すまん、またちょいと出掛けてくる。ワシが留守の間すまんがトナカイの世話を頼む」

「いちいち言わなくてもわかってるよ、いつものことだ」

「……すまんな」

 シャクシャクは城の外に出るとマクートと再度合流した。

「では行くぞ」

 シャクシャクがマクートに言った。

「……あぁ」

 トウとブータとコンが再び窓から覗くとシャクシャクとマクートが城から離れていく姿を確認した。二人はカルデラ屈斜路湖に向かって行った。


 シャクシャクとマクートがカルデラ屈斜路湖に到着した。目の前には湖があり、たくさんの人が釣りをして楽しんでいた。マクートは地図を見返した。

「……なるほど、この先に島があるというわけか……」

「たしかに島はある。じゃがあそこは人が出入り出来る場所ではないぞ」

「……だからこそ行くんだろうが、そこにトップスターがあるかもしれないんだ。地図にはちょうどそこを示している」

「その地図……ちょっと見せてくれ」

 マクートはシャクシャクに地図を渡した。シャクシャクは地図を拝見した。

「……これは示しているというよりは、ただの汚れじゃよ。やはり汚れていてわからんよ……残念じゃがここまでじゃな」

 シャクシャクはマクートに再び地図を渡した。

「何を言うか、ここまで来たら島を見るだろ」

「……まぁ、そうじゃな……じゃが地図じゃと島のどこにあるのか記されてない」

「ならば俺の子分にでも探させよう。大勢の方がすぐに見つかる」

「……それはブラックサンタクロースの仕事とは関係がないじゃろ。いくらお前がボスじゃかと言って、子分が個人的な理由で動くとは思えないのじゃが……」

「ふはははは、大丈夫だ。あいつらは俺に絶対の服従を誓わせた」

「なんじゃと⁉」

「ちょうど隣の町に集会のため子分が集まっていたところだ。ここに来させて研究所を建てよう」

 ブラックサンタクロースの基地は北海道に無数にある。美幌にはあったが閉店してしまって今はない。

「この場所に造るというのか?」

「ちょうど美幌にまた造ろうと考えていた」

「……じゃからと言って、なぜこのカルデラ屈斜路湖に……」

「あー、うるさい!とにかく造るんだよ。ここの方がトップスターを探しやすいだろ!」

「……好きにせい」

「そういえば……お前はたしかは美幌の基地で働いていたな。ちょうど俺が美幌に派遣された時にいたな」

「そうじゃ。じゃがワシは閉店と同時に組織を止めた。ちょうどその頃に美幌で行われる新しいサンタクロース事業が出来たから転職しようとも考えておったからな。ワシにとってはいい時期でもあった」

「また入る気はないのか?」

「それは考えられないな」

「……そうか、まぁ別にいい。それより、なんだこの人だかりは⁉」

「この場所は観光スポットでもある。人がいるのは当然じゃ」

「……こいつらは邪魔だな……よし、排除しよう」

「排除じゃと⁉」

「トップスターが見つかるまではこの俺がカルデラ屈斜路湖を占領する。誰にも邪魔させない」

「何を言っておるんじゃ、そんなことどうやってやると言うのじゃ⁉」

「俺の力を使えばその辺の一般人なんてすぐに逃げてくれるさ!」

「……勝手にせい‼用件は済んだな……ワシは帰る‼」

 シャクシャクはマクートから離れて城に戻ろうとした。

「……待てシャクシャク、話はまだ終わってない」

「なんじゃ⁉まだ何かあると言うのか?」

「美幌にはクローンを作り出す会社があるじゃないか」

「そうじゃな……それがなんじゃというのじゃ⁉」

「お前のDNAを採取して組織の戦力を高めたいのだ」

「……そんなことする必要ないじゃろ。お主がいる限り組織は最強のはずじゃ」

「俺はな……真面目なんだよ。仕事はなんでも完璧にこなしたいんだよ」

「……だいたいワシではなく

お主がやれば良いのでは?お主もなかなか強いじゃろ」

「俺の目の前にちょうど利用しやすい人間がいるのにか?」

「なっ⁉……ワッ、ワシは帰ると言うておろう‼」

「あっそう、帰ればいいさ。お前の城の場所はわかっている。俺が子分を全員連れてお前の家族を殺すことも出来るんだぞ!」

「くっ……」

「子分にクローンの作り方をマスターしてもらう。それまでお前はここに残ってもろうぞ!」

「……仕方ない」

 シャクシャクは城に帰ることが出来ず、島に滞在することになってしまった。


 シャクシャクがいなくなってから一週間程がたったある日のこと、アートはトウとブータを中庭に呼び出した。

「今日はな、お前達にあることを教えてやろう」

「急にどうしたの?」

 ブータはアートに言った。

「あー、なに……あれさ、ルドルフとも話し合ったのだが、そろそろお前達にも教えてもいいのかなって思ってね。サンタの仕事もやったことだしさ」

 アートは動揺しながら言った。

「いったい何を教えてくれるの?」

 トウがアートに言った。

「まぁ見てな。絶対にびっくりするからよ」

 そう言うとアートは両手を前に出した。すると両手から粉雪が出て雪が重なってトナカイの雪像になった。

「すごい‼」

トウとブータは雪像に見とれてしまった。

「いったいどうやったの?」

 ブータはアートに言った。

「これはな、ネイルスタースミス家が代々と使えることの出来る技だ」

「家の家系にそんな技が使えるなんて……」

 トウは驚きを隠さずに言った。

「たいていのやつはこの技が使えることなんて知らずに生涯を終えるらしいぞ」 

「そうなんだ」

 トウはアートに言った。

「雪の技で出す雪像……芸術作品。これは雪のアート……これはつまりアートのアートさ」

「んっ、何か言った?」

 ブータはアートに言った。

「……いや、何でもないさ」

 アートは咳払いをして二人の注意を引き寄せた。

「雪の技はな、工夫次第で氷に変化することも出来るんだぞ」

アートは右手を前に出して雪から氷になるところを見せた。

「僕もできるようになりたい」

「おっ、俺も」

「よーし教えてやろう。でもその前に二人とも上着を脱ぐんだ」

「どうして?」

 トウはアートに言った。

「サンタの衣装は神聖なものだからな。修行や戦闘中は着用しないのが礼儀だ」

「へぇー」

「そうなんだ!」

 ブータが言った後、二人は上着を脱いだ。

「それからブータ、帽子も取るんだ」

「うん」

 ブータは帽子を取った。

「よし、じゃあまずは両手を前に構えるんだ。そして、頭の中で技を出すことを考えるんだ」

 二人は言われた通りにやることにした。二人は目を閉じて集中した。しかし、何も起きなかった。

「何も起こらないよ」

「ブータはもう少し大きくなってからだな」

「えー、そんなぁ、僕もお父さんやお兄ちゃんみたいにできるようになりたいよ!」

 アートはブータのみに言っていたが、トウもブータと同様に雪の技を出すことが出来てずに苦戦していた。

 ブータはアートに言われて技を出そうとするのを辞めたが、トウはまだ続けていた。

「……トウよ、考えるんだ。集中しろ、感じるんだ!」

 トウは未だに目を閉じて集中していた。すると両手から少量の粉雪が出てきた。雪は城の壁の所に積もっていった。

「はぁ……はぁ……でっ、出た!」

「すっ、すごい!」

 ブータは驚きながら言った。

「やるじゃないか。でもこれでは雪像とは言えないな。もう一回やってみな。今度は自分の作りたい雪像をイメージするんだ」

「はぁ……はぁ……うん、でもちょっとだけ休憩させて……」

 そう言うとトウは少しだけ休むことにした。そして休憩後、先程と同じように構えた。

「はああぁ‼」

 トウは粉雪を出した。粉雪は城の壁の所に積もっていった。積もっていた雪は雪像になり、ウルトラスーパーロボだるまが出来あがった。

「はっはっはっ、やったな!やったなトウ‼」

「はぁ……はぁ……はぁ……やった!」

 トウの雪像はアートの雪像に比べると、がさつであった。しかしトウは喜んだ。ブータも自分のことのように驚いていた。

「よーし、今日の修行はここまでだ。明日はもう少し綺麗に作れるようにしようか」

 アートはトウとブータを城の中に連れていった。二人は上着と帽子を持って城の中に入って休むことにした。

 トウはアナンやエナンに修業の成果を伝えた。二人はトウの成長を喜んだ。次にトウはコンに伝えようとした。

「コン‼おーいコン‼どこだぁ⁉」

 トウはトナカイの小屋に行ったが見つからなかった。城の中もくまなく探したが、コンの姿はどこにもいなかった。


 それから一ヶ月が経ったがシャクシャクは未だに城に戻っていなかった。コンの行方もわからないままである。

トウとブータは毎日のように、部屋の窓から誰かが訪れて来ないか、ただひたすら見ていた。

「お爺ちゃんもコンもどこに行ったのかな?」

「そうだな……もしかするとコンはお爺ちゃんを探しに行ったんじゃないかな?」

「……でも、コンが僕達に何も言わずにどこかに行くなんて思わないよ」

「そうなんだよな……」

 二人は黙り込んで今後どうするか頭の中で考えていた。するとトウはすぐにアイデアが思いついた。

「俺達も探しに行くか!」

「うん!」

 ブータはトウのアイデアにすぐに賛同すると、さっそく二人は出掛ける支度をした。リュックに必需品だけを用意して入れた。その中にブータはアイスガンも入れた。

「よし、行くか!」

「うん!」

 二人は城の外に出た。

「……たしかお爺ちゃんは黒い人とあっちの方に行かなかったか?」

「うん、でも足跡が消えているから途中でどこに行ったのかわからないよ」

「とりあえずあっちの方に行ってみようぜ!何か手掛かりがあるかもしれない」

「うん」

 二人は記憶を頼りにシャクシャクとマクートが行ったと思う道のりを辿ってみた。足跡は雪が被って見えづらくなっていた。

「おかしいな。この辺は人が歩いた形跡すら残ってないな」

 二人は雪が被さって見えづらくなっている足跡を何とか確認しながら歩いていたが、途中から歩いた形跡もなくなっていた。

「おかしいね。足跡がなくなってるよ」

「一ヶ月も前の足跡だからな。この辺だけ雪がたくさん降ったりでもしたんじゃないか?」

「えっ⁉でも、それじゃあどうやって進んだんだろう?」

「……わからない」

 二人は立ち止まって悩んでしまった。

「……もしかして途中で城に戻ったのかもしれないよ」

「そうかもな。とりあえず城に戻るとするか!」

「うん」

 二人は来た道を戻ることにした。しかし突然地面がゴゴゴと揺れだした。

「地震か⁉」

「うわわわわぁ!」

 ブータはびっくりして叫んだ。その時、二人がいた地面は落下して滑落してしまった。

「うわああぁぁ‼」

 二人は叫びながら、滑り台を滑るように滑り落ちていった。

「いててて」

「大丈夫か、ブータ⁉」

「うん……僕は大丈夫だよ」

 幸いなことに二人は傷を負うことなかった。

 二人は今まで来たことのない道に落ちてしまった。そこは、普段は人が通らないため野生の小動物がたくさんいた。

「美幌にこんなにたくさんの野生の動物がいたなんて……」

「びっくりだよ!」

 周りの景色は真っ白で動物は冬の動物のみである。二人は野生の小動物に見とれていた。すると先程と同じく地面が揺れだした。野生の小動物はその場から森の奥深くに逃げようとした。

 突然地面が膨らみ出して、地面の雪は上に上がっていった。そしてドガンと大きな音を出して、雪の中から巨大な人型の雪のモンスターが現れた。

「ンガアァー‼」

 雪のモンスターは大声で叫んだ。雪のモンスターは怖そうな顔付きとしゃくれた顎と鋭い牙が特徴である。トウとブータは大きな音に反応して耳を塞いだ。

 小動物はすぐさま反応して逃げていった。雪のモンスターは逃げ遅れた小動物を捕まえて丸ごと食べてしまった。

 先程の地面の揺れはこの雪のモンスターが原因である。雪のモンスターが下を向くとトウとブータを見つけた。

「ンガガガガ、上手そうだな」

 雪のモンスターは二人の所まで走ってきた。

「うわー‼」

 トウとブータは二人で叫んだ。

「逃げろ!」

 トウが言うと二人で逃げた。

「はぁ……はぁ……」

 二人は息を上げながら全力疾走した。しかし、途中で行き止まりの所まで来てしまった。

「行き止まりだよ、どうする⁉」

 ブータが言うとトウは雪の技を出すために両手を雪のモンスターに向けて構えた。しかしトウがいくら力んでも雪の技は出なかった。

「あれ、出ない、あれ?あれ?」

 雪のモンスターは二人の所まで近付くと、右手を大きく振り落として二人をパンチした。しかし二人はすかさず反応して攻撃を回避した。

 回避した時にブータのリュックサックから

オモチャのアイスガンが出てきた。ブータは負けずとアイスガンを持って、雪のモンスターに当てて攻撃した。しかし、雪のモンスターは何ともなかった。

「ンガガガガ、そんなオモチャ痛くも痒くもないわ!」

「なんだと⁉くそー!」

「ん?」

 雪のモンスターは独り言のつもりが、自分が言ったことにたいして人間が返答をしていたので、人間に話し掛けることにした。

「お前ら、おでの言っていることがわかるのか?」

 雪のモンスターは急に大人しくなった。

「えっ……わっ、わかるよ!」

「うっ、うん‼」

 トウが雪のモンスターに返事をした後、釣られてブータも返事をした。

 雪のモンスターは自分と話せる人間がいることにびっくりした。そして嬉しくなって大きな口を開けて笑いだした。

「ンガガガガガ‼そうか、そうか、話が通じる人間なんて初めてあっただよ‼」

 雪のモンスターは二人を襲うのを止めてしまい、しばらくは高笑いした。二人は幸いなことに雪のモンスターに襲われずに済んだ。


 トウとブータは雪のモンスターに襲われずに何とか事を終えることが出来た。

「こんな所でなにやってたんだ?」

 トウは雪のモンスターに言った。

「食事をしてただよ。地面に潜りこむことで動物に見つからないようしてただよ」

「いっ、いつもここにいるの?」

 ブータが雪のモンスターに言った。

「ここは動物がたくさん採れる絶好の場所だ。最近見つけただよ。特に美幌にはたくさんの動物がいるからな。この町には長く住み着いてしまっただよ。ンガガガガガ‼」

 雪のモンスターは高笑いをした。高笑いする時、二人は鼓膜が破れないように耳を塞いだ。動物は雪のモンスターが笑うごとに逃げだしていた。

「そっ、そういえば君の名前は何て言うの?」

ブータ雪のモンスターに言った。

「おでか?おでに名前なんてないぞ」

「あっ、そうなんだ……」

「まぁ好きな名で呼べばいいだよ」

「好きな名前ね……うーん、なんだろう?」

 ブータは頭の中で雪のモンスターの名前を考えた。

「……じゃあ、君は雪男だからアイスマン何てどう⁉」

 雪のモンスターはブータに言われると少しだけ驚いたような表情をしていた。

「……アイスマンか、ンガガガガ、気に入った!」

「アイスマンか、いい名前だな」

「ンガガガガ‼」

 アイスマンが叫ぶとトウとブータは再び耳を塞いだ。

「ありがとうな、その名前は大切に使わせてもらうぞ!」

「どっ、どういたしまして……あっ、僕はブータって言うんだ」

「俺はトウ、よろしくなアイスマン」

「おう」

 一段落ついたところで、トウは本来の目的のことを思い出した。

「……おっとそろそろ、先に進まないと」

「あっ、そうだったね。じゃあアイスマン、僕達もういくね」

「おう気を付けてな!」

「元気でな、アイスマン、またどこかで会おうな!」

「おう、ンガガガガ‼」

 二人はアイスマンが叫ぶ前に自分の耳を塞いだ。そしてアイスマンと別れて先に進んだ。

 二人はしばらく道なき道を歩いていると、

遠くに普段から繁華街に行くために使用している道が見えた。

「あっちは繁華街に行く道路じゃないか」

「そうだね。どうしようか?」

「……取り敢えずいったん繁華街に行くとしよう!」

「そうだね!何か情報がつかめるかもしれないしね」

 二人は繁華街まで行くことを決めた。しばらく歩いていると、周りの景色が暗くなっていることがわかった。時間はすっかり夕方になる時間であった。この時間帯になると夜行性の動物の動きが活発になっていた。

 二人は気付かないうちに、大量の真っ黒い和牛に囲まれていた。たくさんの牛は吠えていた。牛は本来は昼行性だが、人間が群れの縄張りに侵入した場合は夜行性に変わる。

 二人がいた場所は牛の群れの縄張りであった。たくさんの牛は二人のことを囲って凝視した。

「ここから出ていけ、さもないと殺す」

 牛は吠えて言った。二人は動物と話すことが出来るため、牛の言っていることがわかった。

「お兄ちゃん、怖いよ」

 ブータは兄の服を掴みながら言った。

「おい、襲ってきたらただじゃおかないぞ」

「貴様らに何が出来るというのだ」

 牛は吠えて二人に話しかけてきた。

「やっちまえ‼」

隣にいた牛がそう言うと、たくさんの牛は一斉に二人のことを襲ってきた。

 トウは雪の技が出すことも出来なかった。ブータはアイスガンはオモチャなので、結果はやるまでもない。二人はこの場を凌ぐ術がなかった。何も抵抗が出来そうになかったので、小さく縮こまって少しでも痛みを凌ごうとした。

 そのとき突然二人の真上から鈴の音が聞こえた。たくさんの牛も鈴の音に反応して襲わずに立ち止まってしまった。

 そしてその場にいる者は空を見上げた。空にはトナカイが引いているソリが鈴の音を鳴らしながら飛んでいる。ソリはそのまま上から降りてきた。

「うわっ‼」

 二人はソリがぶつかりそうになって驚いて叫んだ。トナカイの正体はシャクシャクの一番のお気に入りのルドルフであった。そしてソリはトウがクリスマスでもらった物である。ソリには黄色い姿をしている大きな狐が乗っていた。

 ソリが降りる時にドシンと大きな音を立てた。たくさんの牛は大きな音に驚いてどこかに逃げて行った。

大きな狐はソリからジャンプして降りた。狐は人間のように二足で立っている。

「あっ、そのソリは……」

 トウが一番に目に入ったのは自分のソリであった。そしてトナカイが自分達の城にいるトナカイであることがわかると安心した気持ちになった。

「無事か、お前達⁉」

「うん、ありがとうルドルフ」

 トウはルドルフに言った。

「それと……」

 トウとブータはルドルフと一緒にやって来た目の前の大きい狐を見た。

「……あの、ありがとうございます」

 ブータが大きい狐に言った。大きい狐は二人が他人行儀であることに違和感を覚えた。

「私だ!わからないか?コンだ!」

「えっ⁉」

トウとブータは驚いた。二人は大きい狐が何を言っているのか理解できなかった。

「コンだ!いつも側にいたではないか」

「……」

 二人はしばらく困惑していた。

「……えっ、本当にコンなの?」

 トウがコンと名乗る者に言った。

「……そうだ」

「どうしていきなり大きくなっちゃったの?」

 ブータがコンに言った。

「……私にもわからない」

「てゆうか、今までどこに行ってたんだよ。心配したんだぞ」

 トウがコンに言った。

「すまない、しかし私はずっとトナカイの小屋にいた。私も突然体が大きくなったので誰にも見つからないようにトナカイ達に協力してもらい隠れていたのだよ」

「……隠れなくてもいいのに」

 ブータがコンに言った。

「見つかったらびっくりするだろう。少なくとも城にいるお母さん達は驚いていたぞ」

コンは城での出来事も兼ねて話した。

「……私は自分が何者なのかわからない……しかし、トウが特別な存在だということはわかる」

 コンはトウを見つめながら言った。

「はっ、えっ、何だって⁉」

 トウはコンの言っていることが理解できず困惑してしまった。

「……理由はわからないがな。感じるのだ……不思議なオーラを……トウからな」

「……何を言っているのかさっぱりわからないぞ。俺から何のオーラが出ているって言うんだ」

「……すまない、上手く説明が出来ない」

 コンは少しだけ困り果ててしまった。

「コンの言っていることは私にもよくわからんぞ。私にはトウからそんなオーラなんて感じないぞ」

 コンはルドルフに言われるとよけいに困惑してしまった。

「……私も自分で何を言っているのかわからなくなってきた」

 コンの話を黙って聞いていたブータはその場の空気が重たいと感じ、話題を変えることにした。

「……ねぇルドルフ、何でお鼻が光ってるの?」

「私の赤い鼻は光るようになっているのだよ」

「そうなの⁉」

「……ところで何か俺達に用があって来たんじゃないのか?」

 トウが言うとコンは本来の目的を思い出した。

「そうだった、二人が遅いから迎えに来たのだ!」

「……俺達はお爺ちゃんを探しに来たんだ。コンもいなくなったからさ……てっきりコンがお爺ちゃんを探しに行ったのかと思ったんだよ」

「そうだったのか……とんだ誤解を生んでしまった……それにしても随分と時間がかかっ掛かっているようだな。繁華街にすら着いていないじゃないか」

「途中でモンスターにあって大変だったんだよ」

 ブータがコンに言った。

「そうだったのか、とにかく今日はもう遅いから、城に帰ろうではないか」

「……いや、ここからだと繁華街の方が近い。それに今夜はいつもより動物の様子が異常だから城に戻るのは危険だ」

 ルドルフは冷静に分析して言った。

「じゃあ、繁華街のどこかのホテルで一泊しようか。訳を説明してお金は後で払うようにしよう」

「いや、今夜は知り合いの所に泊まろう」

 ルドルフはトウに言った。

「知り合い……知り合いって動物か?」

「シャクシャクの弟の所に泊めてもらうんだ」

「えっ、お爺ちゃんって兄弟いるの?」

 ブータがルドルフに言った。トウとブータは自分達のお爺さんに兄弟がいることを知らなかった。

「知らないのも無理はない。シャクシャクとオシャマクラはアートが生まれる前からずっと会っていないのだからな」

「……仲悪いの?」

「仲が悪いわけではない。二人とも自分の仕事のことばかりしか考えないから会えるのに会わなくなってしまったんだ。私はいつも繁華街に行く時はオシャマクラに顔を出すようにはしている」

「……その人オシャマクラって言うんだ」

 トウがルドルフに言った。

「そうだ。今夜はオシャマクラの家に泊めてもらおう」

「うん」

 ブータがルドルフに言った。話がまとまるとトウとブータとコンはソリに乗った。

「私もお爺さんがいなくなって心配だよ」

 コンがトウとブータに言った。

「一緒に探してくれるの?」

 ブータがコンに言った。

「当然だ。家族だからな」

 ルドルフはソリを引いて繁華街まで向かった。トウとブータとコンは楽しい話をしながらソリに乗っていた。


 ルドルフが操縦するソリは美幌の繁華街までやって来た。

ルドルフには普通のトナカイと同様にトナカイを操る紐で繋がっているが、トウとブータとコンは何も操縦することない。ルドルフは他のトナカイとは違い賢いため、自分で道を決めて進んでいる。ルドルフは言わば運転手である。

 ルドルフはある一軒家を見つけると止まった。オシャマクラの家は大きいが、家の周りには家という建物が見えない。繁華街ではあるが、少し外れた場所にある。

「ここだ。今夜はここに泊めてもらうんだ」

ルドルフが言うとトウとブータとコンはソリから降りた。トウは家の入り口の扉を二回ノックした。すると中からシャクシャクの弟のオシャマクラが出てきた。

オシャマクラはシャクシャクと同じぐらいの大きさで白髭もじゃもじゃである。顔立ちの他にも、髪型と髪の薄さもシャクシャクによく似ている。

「誰だお前達、こんな夜中に何のようじゃ!」

 オシャマクラは威嚇する態度で言った。トウとブータはオシャマクラに怖がってしまった。するとルドルフが口を開いて話した。

「シャクシャクの孫達だ。すまないが今晩だけ泊めてやってくれ!」

 オシャマクラは声のする方向を見ると見覚えのあるトナカイであることがわかった。

「……ルドルフではないか……ではお前達は本当に兄貴の孫ということか」

オシャマクラはびっくりしていた。なぜならオシャマクラとトウとブータはこれが初対面であるからである。

オシャマクラは三人を家の中に入れることにした。ルドルフはソリの近くで休むことにした。

 オシャマクラはたくさんの食事を用意してもてなした。ソファに座ったトウとブータの目の前のテーブルにはたくさんの料理が並んだ。

 しかしコンは食事に目を行くこともしない。ソファに座ろうともせず壁に寄り掛かっていた。

「お爺さん、ありがとうございます。こんなにもてなしてくれて」

 トウがオシャマクラに言った。

「気にするな、同じ血の繋がった中じゃないか。さぁ食べてくれたまえ」

 オシャマクラはソファーの近くにあるキッチンから新しい料理を作りながら話した。

「ヘイナス‼」

 トウとブータは食事の挨拶をした。

「はっはっはっ、それはサンタクロースが食事をする時に言う挨拶じゃな。確かごちそうさまはリーグスじゃったな。懐かしいな!」

 オシャマクラは笑いながら話した。

「お爺さんはサンタクロースじゃないの?」

 ブータは食べながらオシャマクラに言った。

「ワシは靴職人じゃよ。靴を直したり綺麗にしたりしている。それで生計を経てている。美幌のサンタの靴はほとんどワシが磨いている。サンタクロースは神聖な服装じゃからな。服装を整えるならまずは足元からというじゃろ?」

トウとブータは食事を食べながらオシャマクラの話を聞いていた。

「……まぁ、じゃが元サンタクロースではある。兄貴と違って試験には受かってはないがな」

「サンタクロースにも試験があるの?」

 トウがオシャマクラに言った。

「おぉあるぞ、公認サンタクロース試験じゃ!」

 トウとブータは公認サンタクロース試験という試験があることを初めて知った。

「それに合格すればサンタクロースになれるの?」

「別に試験は受からなくてもサンタの仕事はやれるぞ。ワシじゃってそうじゃった。兄貴はわざわざ取りにいってたがな……」

「そうなんだ。僕もほしいな」

「試験を受けに行かなかったワシから言うのも変なことじゃが、何事も挑戦するのがいいと思うぞ」

「うん!」

「お前達はサンタの学校に通っているのか?」

「えっ?」

 突然二人は何のことかと思い聞き返してしまった。

「ノイルッシュサンタ学校じゃよ。通っているじゃろ?」

オシャマクラはトウとブータがサンタの学校に通っていると思って聞いていた。

「僕達、サンタの学校には通ってません」

 トウがオシャマクラに言った。

「なんじゃと!兄貴は何をしておるんじゃ」

「お爺ちゃんがサンタの学校に行くなっていうんだ」

 オシャマクラはトウの発言に驚いてた。

「……全く、兄貴は何を考えているのか」

「……ねぇ、お爺さん、お爺ちゃんが行方不明なんだよ」

 ブータは話を切り替えようとした。

「その話は食事の後にしよう。上手い料理も不味くなってしまうわ」

「うん、わかった……」

 ブータは食べることに専念した。オシャマクラはトウとブータがきちんと食べていることを確認すると、壁に寄り掛かっているコンの方を向いた。

「ほらお前も食わんか、コンよ」

「……私は大丈夫だ。それよりも、私のことがわかるのか?」

コンは自分のことについて知っている人間がいることに驚いた。

「あぁ、何となく兄貴の城にいた喋る小さな狐ではないかと思ったのじゃよ」

「……そうか」

 この時、コンはそれ以上は聞くことはなかった。

「ねぇお爺さんはサンタの学校に通ってたのですか?」

 トウがオシャマクラに言った。

「通ってたぞ。ノイルッシュサンタ学校じゃろ?あそこは楽しいぞ。良い青春時代を送れる」

「へぇー!」

 トウとブータは驚いて口を揃えて言った。

「ワシがもう少し女の子に積極的になっとれば、今頃は独り身でなかったのになと思うわ」

トウとブータはオシャマクラの発言に笑った。オシャマクラのおかげで二人は楽しい気持ちになれた。

 食事が終わるとオシャマクラは三人に温かいココアを用意してくれた。コンの分はテーブルに置いてあるものの、相変わらず部屋の隅に寄りかかっている。

 オシャマクラは自分のココアを用意しソファに座った。

「……さてそろそろ本題に入ろう。兄貴はなぜ行方不明になったんじゃ?」

「一ヶ月前にある男の人が城に来たんだ。お爺ちゃんはその男の人と一緒にどこかに行っちゃったんだよ」

 トウがオシャマクラに言った。

「そうじゃったのか……」

「お爺さん、何か心当たりはない?」

 ブータがオシャマクラに言った。

「ワシはシャクシャクとはもう長年会ってないからな。ワシにはわからんよ」

「そう……」

「その男の特徴は?」

「黒いマントを羽織っていたよ」

 トウがオシャマクラに言った。

「黒いマントか、ブラックサンタクロースの可能性が高いな!」

「ブラックサンタクロース!?」

 トウとブータは聞いたことのない言葉に驚いて口を揃えて言った。。

「……何だお前達、サンタクロースを目指しているのにブラックサンタクロースも知らんのか⁉」

「……うん、知らない」

 ブータがオシャマクラに言った。

「……全く兄貴にも困ったもんだな。兄貴は今も昔と変わらず仕事のことしか考えてないのだな。家族のことをあんまり考えてないのかもな」

 オシャマクラは兄の行いに不満を言った。

「まぁ、ワシが言っても何も説得力はないがな……」

「教えてください、お爺さん。ブラックサンタクロースって何ですか?」

 トウが言うとオシャマクラは溜め息をついてから話し出した。

「……ブラックサンタクロースと言うのはな、二千年ほど前にクネヒト・ループレヒトと言う人物が創設した組織のことじゃ。組織に属している子分をブラックサンタクロースと呼ぶ。子分よりも階級の下の者をクランプスと呼んでいるそうじゃ。サンタクロース事業を営む組織としては二千年も続くなんて異例のことだ」

 トウとブータはオシャマクラの話を真剣に聞いていた。

「……実は兄貴も昔、ブラックサンタクロースじゃった」

「えっ⁉」

 トウとブータが驚いて口を揃えて言った。

オシャマクラの話を壁に寄り掛かりながら聞いていたコンも驚いていた。話は窓ガラスから聞いているルドルフにも聞こえていた。

「恐らく城に来たのは、兄貴がブラックサンタクロースだった時の関係者に違いない」

「……ブラックサンタクロースはお爺ちゃんとどこに行ったのかな?」

 トウがオシャマクラに言った。

「それはわからん。しかし、ブラックサンタクロースは良い評判は聞かない。兄貴が心配じゃよ……」

 トウとブータも話を聞いているうちにシャクシャクのことが心配になってきた。

「お前達はこれからどうするのじゃ?」

「明日は繁華街でお爺ちゃんの手掛かりになりそうなものを探してみようと思うんだ」

 トウがオシャマクラに言った。

「そうか、じゃあ明日に備えてもう寝ないとな、良い子はもう寝る時間じゃ!」

 オシャマクラはトウとブータを寝室に連れていって寝かせることにした。二人は明日に備えて寝ることにした。

「僕、自分の家以外で泊まるの初めてかも」

「俺もだよ、おやすみブータ」

「おやすみお兄ちゃん」

 トウとブータが就寝した。その後もコンとオシャマクラは話を続けていた。

「……お前はワシが生まれる前から既に住んでいたらしいからな、詳しいことはよくわからんのじゃよ」

「そうか……」

「何か最近お前の中で変わったことがあったんじゃないか?」

「わからないな。トウのことであるとしたら、トウが雪の技を使えるようになったことだな」

「何と!もう雪の技が使えるのか、さすがは兄貴の孫じゃな」

 オシャマクラは大きな声を出してしまい、トウとブータが起きたのではないかと思い寝室の方を見た。

「トウから聞いたのだが、ネイルスタースミス家はこれを操る能力があるらしい」

「まぁ、正確に言うと全員が使えるわけではないがな。ワシも少しだけなら技は出すことは出来る」

 オシャマクラは左手から雪の技を出してコンに見せた。雪は床に落ちてすぐに解けてた。

「この技はな、ユールラッズの子孫が使えるようだ」

「ユールラッズ?」

「ユールラッズにも何人かいてな、この雪の技が使えるのはユールラッズのステキャルストゥイルのおかげじゃ」

「……私とユールラッズは何か関係があるのか?」

「……すまんが、わからない」

「……そうか」

 二人はしばらく黙り込んだ。するとオシャマクラはコンに別の話をしだした。

「なぁ、一つ聞いてもいいか?」

「何だ?」

「真実を知ってどうするのじゃ?」

「そっ、それは……」

「今の姿じゃ何か不便だと言うのか?」

「……」

 コンは何も言えなくなった。

「少なくとも兄貴の家族はみんな受け入れてくれているのじゃろう?だったら今の姿でもいいのではないのか?人生は一度きりじゃぞ。楽しく生きるべきじゃないのかね」

「……」

 コンは自分の気持ちの整理がつかなくなってしまった。

「……さて、お前もそろそろ寝ろ。いざという時にトウやブータを守れるのはお前なのだからな」

「……あぁ」

 コンはオシャマクラに言われると、壁に寄り掛かったまま目を閉じて寝た。

「……器用なやつ」

 オシャマクラはそう言うと部屋の電気を消して、ソファの上で毛布を被って寝た。


 次の日の朝、トウ達はシャクシャクの情報を集めに再び出掛けることにした。三人は再びルドルフが操縦するトウのソリに乗った。

「色々とありがとう。お爺さん」

 トウはオシャマクラに言った。

「あぁ、お前達、気を付けていくんだぞ」

 オシャマクラがそう言った後、トウ達を乗せたソリは移動していった。ブータは後ろを振り向いてオシャマクラに手を降った。

「じゃーね、お爺さん‼」

 オシャマクラは笑顔で手を降り返した。やがてオシャマクラの姿は見えなくなっていった。

 その後、トウとブータとコンはソリに乗りながら話をした。

「……ところで、この後どうするんだ」

 コンはトウとブータに言った。

「どうすればいいのだろう?」

 トウは腕を抱えながら考えるかのように言った。

「うーん……」

 ブータもトウの真似をして腕を抱えながら考えるかのように言った。しかし、トウとブータには具体的な計画があるわけではなく、どうすればいいのかも思い付かなかった。

 ソリが当てもなく移動していると、三人がサンタの仕事で行った施設の前に来た。

 ブータが施設の入口の前にいるミイを見つけた。ミイは怪我している小さな子犬を看病しているところであった。

「あっ、お兄ちゃん、あの人ってこの前の人じゃない?」

 ブータが言うとトウは反応してブータの示す方を見た。トウもミイを見つけた。ミイもソリに乗っているトウとブータを見つけて、思わず「あっ」と声が出た。

「ルドルフ止まってくれ!」

 トウはルドルフにソリを止めるように言うとすぐにソリは止まった。そしてトウとブータはソリから降りてミイの所まで走った。

「また会ったわね」

「はぁ……はぁ……どうしたの?」

 トウがミイに言った。

「この子が道で倒れていたのよ。怪我しているからここまで運んで手当てしているのよ」

「……ひどい傷だね」

 ブータは傷だらけの犬を見て言った。

「いったいどうしたの?」

 トウがミイに聞いた。

「町でクランプスが暴れだしたの。この子もそれに巻き込まれちゃったの」

「クランプスってブラックサンタクロースの子分のことだろ?」

「えぇそうよ。あいつらは鬼のような格好をしていたわ」

「黒い格好じゃないの?」

 ブータはミイに言った。

「黒いマントを羽織っているのはブラックサンタクロースの幹部だけよ」

 ミイは二人と話ながら子犬の手当てを終えた。

「さあこれで大丈夫よ!」

 座っていた子犬は自力で少しだけ歩いて喜んで吠えた。

「あはっ、ありがとうだってさ。名前なんて言うの?」

 ブータは子犬に話しかけた。子犬は再び吠えた。

「へぇー、モチって言うのか、誰かの子犬かもしれないな」

トウはモチの首に着いている首輪を見て思った。ミイは首輪に名前が着いていないのを確認していたのに、トウが子犬の名前がわかったことに驚いた。

 子犬は再び吠えた。

「クランプスに⁉」

 トウとブータは子犬の発言に驚いていた。ミイは目の前で何が起きているのか理解できなかった。

「……何かクランプスのことで知っていることはない?」

 トウがそう言うと子犬は再び吠えた。

「……なるほどね」

「……えっ、あなた達、子犬の言っていることがわかるの⁉」

「うん、俺達は動物と話せるんだ」

「えっ、普通だよ⁉」

 ブータは純粋な気持ちで言った。

「……普通じゃないわよ。普通の人は動物と話せないわよ」

「他の動物もコンみたいに普通に言葉を話してくれればいいのにな……」

トウはふとそのように思った。

「ところで今日は狐さんは一緒じゃないの?」

「いるよ、あそこに」

 ブータはソリの方を指で指した。

「あの狐って……」

 ミイはソリの方を見て言った。ソリからコンとルドルフがこちらの様子を見ていた。

「あぁ、前に施設に行った時にいた狐だよ」

 トウはミイに言った。

「急成長ね……」

「ちょっと色々とあったんだよ」

 三人が話しているとモチが吠えだした。

「うん、元気でね!」

 ブータがそう言うとモチはそのままどこかへ行ってしまった。

「……何て言ってたの?」

「もう行くね。さよならだって」

「……っよし、そろそろ行くか!」

 突然トウは気合いを入れだした。

「そうだね!」

 二人はソリに戻ろうとした。

「……どこに行くの?」

「俺達は町民会館に行く、モチがクランプスは町民会館にいるって言ってたんだ」

「あのね、お爺ちゃんが行方不明なんだ。お爺ちゃんはブラックサンタクロースの人とどこかに行っちゃたんだよ」

「……そっ、そう」

「色々とありがとう、じゃあ!」

 トウはミイに言うとソリに乗った。そして再びソリは動き始めた。ミイは移動しているソリを黙って見ていた。

「……そういえばトウ、ちゃんとアナゴンダさんに謝りなさいよ‼」

「あぁ……わかってる‼」

 ミイと別れてソリは町民会館まで移動した。


 ミイと別れた後、すぐに町民会館に着くことが出来た。そこは先月サンタクロース会議が行われた場所である。ソリは町民会館の近くに止まった。

 町民会館ではクランプスがたくさんいて周りを囲んでいる。クランプスは鬼の仮面をして肩に藁のある格好が特徴である。

 奥の方を見てみると黒いマントを被っている者も少数いた。

「よし、降りよう!」

 トウがそう言うと、三人はソリから降りた。

「すまないがお前達、先に行ってくれないか」

「うん、ルドルフはここで待ってて!」

 ブータはルドルフに言った。

「いや、私は別件で用を済ましてから向かうことにする」

 3人はルドルフの用事のことを聞くこともなく先に向かった。ルドルフは三人が先に行ったのを確認するとソリとともに飛んでいってしまった。

 三人は除雪されて雪山になっている所に隠れた。そして、敵に見つからないように上から見下ろした。

「あれがブラックサンタクロースじゃない?」

 ブータは奥にいる黒いマントを被っている人を見て言った。

「……これはいったい何をやっているんだ?」

「中にたくさん人がいるぞ。町の人達じゃないのか?」

 コンはトウに言った。

「何か揉めているみたいだね」

「うん、なんか閉じ込めているように見えるな」

 三人は町の人達とブラックサンタクロースとの会話を聞くことにした。

「おい、ここから出せよ‼俺達が何をやったっていうんだ‼」

 町のある大男がブラックサンタクロースに文句を言っていた。

「そうだ、そうだ、ここからだせ‼」

 町の人達は怒号していた。

「えーい、うるさいうるさい、いいかよく聞け、言うことを聞かない奴は痛い目に合わすぞ‼」

 黒いマントを羽織っているブラックサンタクロースの子分が町の人達に言うと、クランプス達は自分の持っている槍や斧を町の人に向けた。そうすると町の人達は静かになっていった。

「この町にブラックサンタクロースのアジトを造ることにした。お前達には俺達の言う通りに従って働いてもらう」

 子分の発言に納得できず、町の人達は再び怒号した。しかし、町の人達は何も抵抗できずにいた。

「クランプスよ、美幌にいる住人をこの場所に集めるんだ」

「はっ、了解しました‼」

 子分がクランプスに命令すると、一斉に掛け声を出した。一部のクランプスは町内会に止まり、残りのクランプスは町内会から離れ、別れて行動し始めた。少数のクランプスがトウ達の所に近づいて来た。

「……ヤバい来るよ」

 ブータは一番に危険を察知した。

「逃げよう」

「いや、ここは任せてくれ」

 コンはそう言うと雪山から降りてクランプスに姿を見せた。

「だっ、誰かいるぞ!」

「……狐か?」

 クランプスは突然のコンの登場に驚きを隠せないでいた。

 姿を見せたコンはいきなり右手を前に突き出した。すると右手から小さな炎が出た。炎はクランプスの足元に行き、クランプスの動きを止めた。

「うわぁ‼」

 クランプスは驚いた。それをこっそりと見ていたトウとブータも驚いていた。

「すげぇ……どうやったんだ?」

「コンもお兄ちゃんみたいに技が出せるんだね」

 トウとブータは二人で小声で話していた。

コンの炎は時間が経つと弱まり次第に消えていった。

「おめぇら‼こんなんでびびっているんじゃねぇぞ、やっちまえ‼」

 一人のクランプスが言うと、少数のクランプスはコンに向かって一斉に襲ってきた。すると次にコンは、空中で丸く縮こまって一回転をした。そのとき尻尾でる炎の玉を無数に出していきクランプスに当てていった。

「うぎゃああぁぁ‼」

 クランプスは炎に当たるとひどく叫んでそのまま倒れていった。炎の攻撃を食らったクランプスの叫びに気付いた他のクランプスが近付いて来た。

 コンは次に自分の尻尾を地面に突き刺した。尻尾は伸びて地中を抜けると、六本ほど大きくなって地面から出てきた。そして尻尾は無作為に動いてクランプスを攻撃した。

「なんだ、あのでっかい尻尾は⁉」

 トウは眼球を大きくしながら驚いていた。

「いっぱい出てきた!」

 ブータは驚いて感動してしまい、パチパチと拍手をした。

「……おい、こっちにも誰かいるぞ‼」 

 ブータの拍手にクランプスが気付き、クランプスが二人のの存在に気付いてしまった。

「やばい見つかった」

 トウがそう言うと二人は逃げようとした。しかし、二人に逃げる時間はなかった。逃げれないとわかった二人は前に出てクランプスに姿を見せた。

 ブータはアイスガンをクランプスに向けた。トウも釣られて両手を前に出して戦う体勢に入った。

「……なんだ。ただのガキじゃねえか」

「……お前達、いったい何をやっているんだ!」

 トウはクランプスに言った。

「ガキに言う必要なんてねえよ……俺達はただ、ボスの命令にしたがっているだけだ」

「捕まえちまえ‼」

 一人のクランプスが言うと、少数のクランプスが一斉に二人を捕まえようと襲って来た。

 ブータはアイスガンでクランプスに打った。アイスガンは一人のクランプスに当たった。

「いてぇ!……ちくしょう、やりやがったなあ‼」

 アイスガンを打たれたクランプスは怒って、持っていた槍をブータに投げた。ブータは驚いて横に飛び込んだ。ブータは槍を何とかよけることが出来た。

 するとトウはブータをかばおうと前に出た。そして両手を前に出して雪の技を出そうとした。

――修業を思い出すんだ、思い出すんだ、思い出すんだ

 トウは目を閉じて心の中で何度も同じ言葉を言った。トウの脳裏にはアートとの修業のことが浮かんでいた。自分が雪の技を出した感覚を思い出していた。

 そしてトウは目を開けてクランプスに狙いを定めた。そして雪の技が両手から放たれてクランプスに当たった。雪の技に当たったクランプスはそのまま吹っ飛んでしまった。

「はぁ……はぁ……出たぞ‼」

 トウはひどく疲れてしまったが雪の技が出たことに喜び笑顔になった。

「ブータ下がってろ‼」

「うっ……うん」

 ブータはトウに言われるとトウの後ろに一歩下がった。トウは次々と襲いかかってくるクランプスに雪の技を使ってどんどんと吹き飛ばしていった。吹き飛んでいったクランプスはそのまま倒れていった。

 トウがある程度一人で倒していくとブータもトウの横に出てきて、負けずとアイスガンでクランプスを撃ちまくっていた。

 それを見ていたコンはトウとブータの近くに行った。三人は同じ所で連携しながら戦っていった。

 三人がある程度クランプスを倒すと、ブラックサンタクロースの子分達も異変に気付いてやって来た。三人は負けずと子分にも太刀打ちしていった。

「クソ、こいつら妙な技を使いやがって!」

 ブラックサンタクロースの子分は三人に苦戦していた。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 三人は息が上がって疲れてしまった。敵の体力も疲弊していった。三人とブラックサンタクロースは距離を置いてしばらく睨み合っていた。

 しばらくすると敵の後ろの方からクランプスや子分よりも大きくて黒いマントをしている人物が近付いて来た。


 大きい男の正体はトントン・マクートである。三人は大きい男が誰なのかすぐにわかった。

「あのお爺さんって……」

 ブータはトウに言った。

「あぁ、前に城に来た人だ」

 マクートは三人のことを見た後、後ろを振り返った。

「随分と時間が掛かっているようだなお前達!」

マクートはクランプスと子分に言った。

「もっ、申し訳ありません。あいつら妙な技を使うもんですから」

 一人の子分はマクートに言った。

「言い訳するな‼」

マクートは怒鳴った。すると突然、右手を上げ出した。右手から不思議な力が集まり、その力をクランプスと子分に向かって放った。

「ぎゃああぁぁ‼」

クランプスと子分は真っ黒になり焦げて気絶してしまった。不思議なパワーの正体は雷である。マクートは雷の技が使える。マクートが来てから辺りは雷が鳴り響き、黒く曇っていた。

「さてと……」

マクートはそう言うと、三人の方を再び振り返った。

「……妙な技を出すガキだな。思い出したぞ。シャクシャクの城にいたガキどもだな。ならば納得がいく」

「お爺ちゃん……お爺ちゃんはどこだ?」

トウはマクートに言った。

「ふふふ、さあな?」

マクートは不気味な笑みを浮かべて言った。

「紹介が遅れたね。私はブラックサンタクロースのリーダー、トントン・マクートだ」

「マクート……」   

 トウは警戒心を強めながら言った。

「私はある物を探している。それを探すのに美幌にいる町の奴等がどうしても邪魔なんだ。おとなしく捕まりやがれ」

「なにぃ!」

 トウはキレ気味に言った。

「探し物って何?」

 ブータはマクートに言った。

「貴様らに教えてもその価値を見い出せないだろう」

「なにぃ!」

 トウは再びキレ気味に言った。

「そんなことよりお爺ちゃんはどこなの?場所を知っているんでしょう?教えて!」

ブータはトウと同じ質問を繰り返した。

「ふふふ、知りたいのなら力ずくで聞き出してみな」

トウはマクートの挑発に乗って雪の技をマクートに放とうとした。

「よせ、トウ‼」

 トウはコンの言うことを無視して技を放った。マクートも負けずと雷の技を放ってきた。雪の技と雷の技は互いにぶつかり合った。しかし、トウはまだ技を出すことになれてなかったこともあり、マクートの雷の技の方がリードしていた。

「はっはっはー、使い方がなってないな。これじゃあ、まるで殺してくれとでも言っているようなものじゃないか‼」

そう言うとマクートは雷の技の力をさらに強めた。トウの雪の技は完全に相殺されてしまった。

「しまった‼」

「ふははははー!」

 マクートは雷の技を再び放ってトウに当てた。

「うわあぁ‼」

トウはそのまま吹っ飛んでしまい倒れてしまった。

「お兄ちゃん‼」

「トウ‼」

 ブータとコンはトウの所に駆け寄った。

「ふはははは‼」

マクートは笑いながら町の人達が見える台のある所に移動していった。

「子分よ、それからクランプス、私はカルデラ屈斜路湖に戻る。後のことはお前達に任せたぞ!」

 マクートは台の上でそう言うと、台から降りて大きなシロクマが操縦するソリに何人かの部下とともに乗った。そしてカルデラ屈斜路湖まで移動していった。

「ブータ、すまないがトウのことは頼んだぞ!」

「うん……えっ、コンはどうするの?」

「私はあいつを追う」

 コンはそう言うと、マクートを乗せているソリを追いかけていった。

 コンがいなくなってしばらくすると、トウは意識を取り戻すことが出来た。

「大丈夫?お兄ちゃん!」

「……あぁ」

 すぐにトウは起き上がりマクートを追いかけに行こうとした。しかし敵に道を邪魔されてしまい、進むことが出来なかった。

二人はマクートを追いかけるために再び戦闘態勢に入った。その時、空から鈴の音が聞こえてきた。全員が上を見上げるとルドルフが操縦するソリがやって来るのが見えた。

ソリにはアートとエナンとアナンが乗っていた。

「ソッ、ソリが飛んでいるぞー‼」

「こっちに落ちてくる‼」

 敵はソリが落ちてくると思い、その場を逃げて行った。ソリはトウとブータの近くに着陸した。

「お父さん、お母さん⁉」

 ブータはアートとエナンとアナンの登場に驚いた。

「どうしてここに⁉」

「美幌が危機だって時に黙って家にいれるか」

 トウが言うとアートが答えた。

「私達も戦うよ」

 アナンが言うと三人はソリから降りた。エナンはフライパンを持ち、アナンはシャベルを持った。そして三人は戦う体勢に入った。

「お父さん、コンがお爺ちゃんをどこかにやってしまった奴を追って行っちゃったんだ」

 トウはアートに言った。「わかってるよ。お前達は下がっていなさい」

「俺も戦うよ!」

「僕も‼」

「……お前達は十分やってくれた。後は任せてくれ」

そう言うとアートは雪の技を出した。敵の周りは氷が張られて出れなくなった。

 アートが敵を引き付けている隙にトウがマクートを乗せたソリを追いかけていった。ブータもトウの後を追って走っていった。ソリはまだ微かに見えていた。

「おい、トウ、ブータ、戻ってこい‼」

 二人はアートの呼び掛けに答えなかった。

「あの子達だけじゃ心配だわ。あなた一緒に着いていってあげて!」

 エナンはアートに言った。

「そっ、そうしたいけど……こいつらを何とかしないとだな」

 アートはトウとブータの後を追いたいと思っていたが、敵に邪魔されていけなかった。

「あの方角は恐らくカルデラ屈斜路湖だろう……」

「私が行こう」

 ルドルフはそう言うとトウとブータを追いかけに行こうとする。

「待って、ルドルフ。あいつにお願いしてくれない?」

「アナン、あいつって誰?」

 エナンはアナンに言った。

「未来のあんたの息子よ」

 ルドルフはアナンの言葉を聞くと頷いた。そしてそのまま飛んで行ってしまった。残された三人は敵に立ち向かっていった。しかし、エナンとアナンは戦闘経験がないため、ほとんどはアートが一人で敵を倒していった。





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