第2話 サンタの仕事

 それからあっという間に時間は過ぎて、約束の火曜日になった。シャクシャクとトウとブータとコンは朝からサンタの仕事に向けて準備をしていた。

 トウとブータがプレゼントに持ってきたのは、オモチャとエナンの手作りクッキーである。

 トウとブータはサンタクロースの赤と白の服装と帽子をしていた。服には黒い腰巻きベルトをしている。コンはトナカイに真似た衣装を着ていた。お鼻はルドルフと同じ真っ赤である。その姿の三人はソリの近くまでやって来た。

「相変わらずでかいソリだね」

 ブータはコンに言った。

「なにせたくさんのプレゼントを運ぶからな」

 ソリの手前に到着した三人の後ろから、白くてプレゼントがたくさん入っている袋を持ちながらシャクシャクがやって来た。シャクシャクは白い袋をソリの後ろの所に置いた。

「コンや、トナカイ達を呼んで来てくれるか?」

「あいよ!」

 コンはシャクシャクにお願いされると、口笛を吹いてトナカイ達を呼んだ。

「ねぇ、いま気になったんだけど、こんなにたくさんの荷物をいつもどうやって運んでいるの?あとどうやって飛んでるの?」

 トウはシャクシャクに聞いた。

「ホッホッホッホッ、まぁ疑問に思うのは当然じゃな。今まで何も教えて来なかったからな。ワシのようなサンタクロースには不思議な力があるのじゃよ」

「えーなんか魔法みたいだね」

 ブータがシャクシャクに言った。

「魔法みたいなものじゃよ。ワシにはそれが使えるんじゃ。ワシは特別だからな。ホッホッホッホッ!」

 シャクシャクは自慢気に笑った。

「お爺ちゃんは魔法使いだったの?」

「いや、ワシはサンタクロースじゃよ?」

 三人が話をしているとトナカイ達を呼びに行ったコンが戻ってきた。

「へいお爺さん、トナカイの準備が、できましたぜ!」

コンはトナカイ八匹をソリの近くに整列させた。

「ルドルフはいないの?」

 トウがシャクシャクに聞いた。

「ルドルフは普段は一人用として使っている。それと、今日はアートのやつと森に薪を取りに行くと言っておったわ」

シャクシャクはトナカイ八匹を見てそれぞれ名前を呼んだ。

「よし行くぞ、ダッシャー、ダンサー、プランサー、ヴィクセン、コメット、キューピッド、ドナー、ブリッツェン」

8匹のトナカイはバラバラに吠えた。

「なんじゃなんじゃ、全員返事がバラバラじゃな……。まぁいいわ」

 コンはトナカイをソリと結びついている紐で結んだ。トナカイは二列になって並んだ。トウとブータはその様子を見ていた。するとブータがある疑問を抱いた。

「ねぇ、お兄ちゃん。僕さ、今だにトナカイの見分けがつかないんだけど……」

「俺もわからないよ。なぁコン、このトナカイってオスメスどっちなんだ?」

「おいらもわからないや、ルドルフさんはオスらしいけど。だって手入れはいつもお爺さんがやってるからな」

「……せめてコンはわかっていてくれよ」

 トウはコンに言った。

「どっちでもいいじゃろう。知りたいならトナカイに直接聞くといいじゃろう?さぁ、そんなことより、ソリに乗りなさい」

シャクシャクに言われると、三人はソリに乗った。その時エナンとアナンが送り迎えにやって来た。

「気をつけてね」

「何事も経験だな」

「うん、行ってくるね」

「うん」

 ブータが言ったあと恥ずかしそうにトウも返事をした。

「よーし、しっかり捕まっとけよ!」

シャクシャクがそう言うと、シャクシャクから不思議なオーラのようなものが流れた。そのオーラはたちまちソリとトナカイたちを纏った。シャクシャクがトナカイ達を結ぶ紐を引くとトナカイ達が動きだした。

「飛行‼」

「うわっ‼」

 シャクシャクの合図とともにソリがガクンと動き出した。後ろに乗っている三人は驚いて声を出してしまった。

トナカイ達は地上ではなく、空中に浮遊しながら走った。ソリに付着してある鈴が振動で鳴り出した。

「では行ってくる」

「じゃあねお母さん、おばさん、行ってくるね」

 ブータが手を振ったので、エナンとアナンも手を振った。

 やがてソリは安定して離陸しだしたのでトウとブータとコンは下に見える景色を見た。

 景色は今は冬ということもあり、雪で積もっていて辺りは白一色だった。地上にはいくつか大きな氷の固まりがあった。まさに絶景と呼べる大地を見ることができた。

「どうじゃすごいじゃろう?冬になると美幌には他の町にはない優雅な氷の大地ができるのじゃ。お前達にこれを見せたかった」

 三人は地上でしか見たことのない景色に魅了された。

「すごいね‼」

「あぁ‼」

「おいら感動して涙が出てきたよ」

「ホッホッホッホッ、落っこちるなよ」

 シャクシャクはソリを運転をした。運転はトナカイに繋がっている紐で操縦している。

 しばらく離陸した後、シャクシャクはあることを提案した。

「ワシは病院の子ども達に会いに行く。病院だから大勢で行かないほうがいいだじゃろう。お前達は別で子ども達が住んでいる施設に行ってくれ」

「任せて‼」

 三人は一斉に声に出して了承した。そして三人は、初めてのサンタの仕事に興奮してきた。


 ソリからシャクシャクは子ども達の住んでいる施設を見つけた。施設とは児童養護施設のことである。ソリは下降して施設の近くで着陸した。

 この時期になるとクリスマスソングを流している家や店がほとんどで、外にいても聴ここえるほどである。子ども達の住んでいる施設からもクリスマスソングが流れていた。

「では頼んだぞ。二時間後にはこの場所に戻ってくる」

「うん、ありがとうお爺ちゃん!」

「ありがとう!」

 トウがお礼を言ったあと続けてブータもお礼を言った。

トウとブータとコンをソリから降ろすと、シャクシャクを乗せたソリは再び空を飛んでいった。

 三人はプレゼントが入ってある白い大きな袋を持ち、施設の門の手前に降ろされた。中に入ろうとすると、門の装飾が目に入って立ち止まった。

「ここか、なになに?美幌児童養護施設クリスマスパーティー?」

 トウは門の装飾に書かれている文字を読んだ。

「ここに子ども達がたくさん住んでいるようだな」

 コンがそう言うと、三人は門もくぐり抜け玄関の前まで移動した。ブータが玄関に設置されてあるベルを鳴らした。すると一人の太くて巨体の男がやって来た。彼の名前はヤフウーカス・アナゴンダという名前で、ここの施設長である。アナゴンダは肩まである黒髪と短い黒い髭が特徴である。

「なんだお前達、クリスマスパーティーに参加しに来たのか?」

 三人はアナゴンダの巨体に驚き一瞬だけ身を引いてしまった。

「……僕達はサンタの仕事として子ども達にプレゼントを配りに来ました」

 トウがアナゴンダに言った。

「……今年のサンタの仕事は中止になったと聞いたぞ」

「僕達はお爺ちゃんの手伝いでサンタクロースをやっています」

 ブータがアナゴンダに言った。

「もしかしてお前達はシャクシャクの孫か?」

「そうだよ」

「……うわさは聞いていたが、やはりシャクシャクは一人でサンタの仕事をやったのか、自分の家族を巻き込んでまで……」

「僕達は好きでこの仕事を手伝っているのです」

 トウがアナゴンダに少し強めの口調で言った。

「……まぁいいわ。入るがいい。狐が一匹いるようだが、ちゃんと管理しろよ」

「今日のおいらは狐じゃなくてトナカイだ」

 アナゴンダは三人を施設の中に入れた。

「とにかく今日は楽しんでくれ、仲間が増えるのはいいことだ」

 アナゴンダは施設の中で一番広い広場に案内した。

「おーい、みんな、サンタさんが来たぞー‼」

アナゴンダは施設の子ども達を呼んだ。子どもの数は全員で十五人ほどいる。

十四人の子どもはサンタクロースの登場に驚き、興味本意でトウとブータとコンに近づいた。三人は子ども達に囲まれてしまった。

「みんなにお菓子やぬいぐるみをプレゼントするよ‼」

 トウがそう言うと子ども達は喜んで頂戴とばかりに手を差し伸ばす者もいた。

 三人は少しばかり対応に困っていた。でも嬉しかった。

「ねぇサンタさん、プレゼントくれよー」

「いいよ、はいクッキーだ」

 男の子に言われるとトウはクッキーを渡した。そのあと他の子ども達にもクッキーを渡していった。

「うめぇ、サンタさんありがとう‼」

「どっ……どういたしまして」

 ブータやコンもトウの真似をして自分の持っている白くて大きな袋からプレゼントを渡していった。

「はい、どうぞ!」

「はい、どうぞ!」 

 女の子はコンからクッキーを受け取ると笑顔になった。

「こんにちは、トナカイさんあなた話せるのね」

「おいらは優秀だからな。そんじょそこらの動物とは訳が違うんだ!」

コンは照れくさそうに答えた。それを聞いた女の子はクスッと笑った。

「よーし、ここからは毎年恒例の行事だ。みんなでケーキをデコろうではないか‼」

 突然アナゴンダが子ども達に向けて話しだした。そして子ども達はケーキの置いてあるテーブルに飛び込んだ。

 ブータとコンも施設の子どもと一緒にケーキの方に飛び込んだ。二人はサンタの仕事を忘れて子ども達がケーキをデコるのを見ていた。

トウはケーキの方に飛び込みはしなかった。トウはブータとコンよりも人一倍働いていたこともあり、疲れてケーキどころではなかった。

 施設でのサンタの仕事も一息ついたので、トウは椅子に座ってシャクシャクが迎えに来るのを待つことにした。

 トウが座っていると、ある女の子が目に止まった。子ども達がケーキをデコる中、一人だけケーキの方に迎わなかった女の子であった。女の子の名前はミイ。長い青い髪が特徴の少女である。

 トウはミイの所に近づいて話しかけることにした。

「ねぇ、君はケーキを見に行かないの?」

「私はあんなお子ちゃまのやるようなことに興味がないの、それに今はリース作りに忙しいの」

「リース?」

「知らないの?クリスマスに飾るリースのことよ。リースはね魔除けの意味も込められているのよ」

「そっ、そんなこと知ってるよ。だってサンタクロースだぞ。何を作っているのか聞いただけだよ」

「そう……」

 ミイはトウのことを無視するかのように一人でリースを作り始めた。

「……何か魔除けしてほしいことでもあるの」

「……別に魔除けしてもらいたくて作っているわけじゃないわよ。クリスマスにはリースを飾るのがお似合いだから作っているだけよ」

「そうなんだ」

 トウはさりげなくミイの隣の椅子に座りだした。

「……私はミイって言うの。あなたの名前は?」

「俺はトウだ。ネイルスタースミス・トウだ。あっちにいるのは俺の弟のブータ、それとペットのコンだ」

 トウはミイにケーキの方を指してブータとコンを紹介した。ケーキの所ではブータとコンがケーキを子ども達よりたくさん食べているようだ。

「……行儀がなってないわね」

「そのようだな、ごめん」

「私に謝っても仕方ないでしょ!」

 ブータとコンは施設の子ども達に食べすぎだと注意された。アナゴンダが仲介に入ってきた。

「よいよい、みんなで仲良く食べようじゃないか!」

 アナゴンダはトウとミイのいる方を見た。

「おいミイ、お前も早く食べないとケーキが全部なくなっちまうぞ‼」 

「私はいいわ」

「僕も食べていいですか?」

 アナゴンダは少しずつトウとミイが座っているテーブルに近付いてきながら話していた。

「連れが先に勝手に食べてるのによくそんな質問したな。勝手に食べろ!」

「……すみません」

 トウはケーキの置いてあるテーブルからケーキを持ってきて、再びミイの隣の椅子に座った。

 アナゴンダはトウがケーキを食べる前に質問し始めた。

「ところでお前は何でサンタクロースになりたいんだ?」

「……僕はお爺ちゃんがサンタクロースだからかな。自分もいつかお爺ちゃんのようなサンタクロースになりたいなって思うようになったんだ」

「ふん、普通に生きてたらサンタクロースになりたいなんていう奴ははあまりいないぞ。大抵サンタクロースになりたいという奴はは身内にサンタクロースがいるっていう奴がほとんだ。だいたいサンタクロースは人を救うことなんて出来ないだろう」

 トウはケーキをテーブルに置いてアナゴンダの目を見た。

「そんなことないよ。クリスマスに子ども達に笑顔を与えることができるんだよ」

「俺はそれが気にくわないんだ。そもそもなんでクリスマスしかサンタクロースは稼働しないんだ。医者のほうが人の命は救えるし、救いの勇者だって一年間ずっと稼働してるぞ」

「サンタクロースはクリスマスにやって来るからいいんだよ。一年に一回好きなプレゼントを子どもに与えることが出来る最高の仕事さ」

「お前の言ってることはわからなくはない。ただな、サンタクロースは子ども達を本当に救ってやることなんて出来ないんだよ。ワシはこういう仕事をしているからわかるが、サンタクロースという仕事はな気楽すぎるんだよ」

トウとアナゴンダが言い合いをミイはただ見ていた。するとケーキの置いてあるテーブルの方が騒がしくなってきたので、三人は一斉に見た。

 するとそこにはブータとコンがテーブルに乗って騒いでいた。施設の子ども達はそれを見て面白おかしく笑っていた。

「あいつら!」

トウはそれを見て、二人のことを止めようとした。トウは急ぎ目に向かっていたこともあり、止めにいく途中で置いてある棚に右足がぶつかってしまった。

 棚の上には壺が置いてあり、ぶつかった衝撃で揺れて壺が落下してしまった。壺はガラスが割れるような音をしてバラバラに割れてしまった。

 広場にいる全員が割れた音に反応して割れた音の方を見た。ブータとコンも騒ぐのを止めてしまった。

 先程トウからクッキーを一番に貰った男の子は、誰よりも早く割れた音の方に行った。

「あー、それはアナゴンダさんが大切にしている壺だ‼」

 男の子は粉々に割れた壺を指で指して言った。全員が壺の周りに集まった。

「危ないから近づかないで‼」

 ミイは子ども達に近寄らないように訴えた。

 トウは直ぐ様アナゴンダの方を見た。アナゴンダは真っ赤な顔をして怒っていた。

「すっ、すみません弁償します‼」

 トウは動揺して体はガクガクに震えていた。周りの子ども達も怖がってアナゴンダから少しずつ離れていった。

「……その壺はこの施設を卒業した者達が記念に作ってくれた物だ。どこにも売っていない」

 アナゴンダはそう言うと、トウとブータとコンを見つけて掴んだ。そして三人を施設の玄関まで連れて行き外に放り出した。

「帰れ、二度と来るんじゃねぇ‼」

 アナゴンダは玄関の扉を強い力で閉めた。扉の閉まる音が三人の耳に痛く響いた。

 結局トウはケーキを一口も口に出来なかった。三人の初めてのサンタの仕事は失敗に終わってしまった。


 三人は気を取り直してサンタの仕事をすることにした。

 シャクシャクのソリがトウとブータとコンを乗せて再び離陸した。辺りはすっかり暗くなり、ソリからは美しい夜景が見えていた。

「ねぇ、暗くて何にも見えないよ」

 ブータはシャクシャクに言った。

「すっかり暗くなったな。ちょっと待ってな」

  シャクシャクがそう言うと、不思議な力を使ってソリとトナカイの周りが光らせた。

 ソリに乗っている人の姿が暗くて見えなかったが見えるようになった。

「ところでどうじゃったか、初めてのサンタの仕事は?」

 三人はそれを聞かれると動揺し始めた。

「うっ……うん、大丈夫だったよ」

「だっ……大丈夫だったよ」

「おっ……おうよ、楽勝だったぜい」

 トウが動揺しながら言うと、ブータとコンも動揺しながら言った。

シャクシャクは三人の動揺した姿をおかしいと感じたが、これ以上は何も言うことはなかった。

「……よし、次は繁華街の中心に行くぞ。一件一件プレゼントを配って行こうではないか!」

 シャクシャクは繁華街の全体が見渡せる場所に来るとソリから飛び降りようとした。「えっ、お爺ちゃんが降りたらソリが落っこちるんじゃないの?」

 トウがシャクシャクに言った。

「ソリにはちょいと魔法のようなものを掛けておるから浮いたままなのじゃ。お前らは下に降りて仕事をしてくれ」

 シャクシャクはソリから目的の家を見つけると屋根に飛び降りた。そして家に付着してある煙突に入っていった。

「いいなー。僕もお爺ちゃんみたいに煙突から行きたいな」

「俺達は下に降りて仕事するしかないな」

 トウはソリの中にあるロープを下に垂らした。三人はロープを使って下に降りて、しばらく当てもなく歩いていた。

「ところで、コンもサンタの仕事をやるのか?トナカイの格好をしているのに?」

 トウがコンに言った。

「当たり前だろ、今日はそのつもりで来ているのだから」

 トウはそれならどうしてサンタの服装をしないんだと疑問に思ったが、口に出すのを止めた。

「じゃあ僕も行ってくるね」

「おう!あっ、ちょっと待って、集合する時間を決めよう」

「あっ、そうだったね。さすがはお兄ちゃん」

「えへへ」

「何なら二時間後にこの場所にまた集まるってのはどうかな?」

 コンは二人に言った。

「うん、じゃあそうしよう」

「じゃあ、二時間後にまたここで」

 トウがそう言うと、三人は別れて仕事をすることにした。一人になったトウは歩いて家を探していた。そして一つの家を見つけると立ち止まり煙突の方を眺めた。

――やっぱりサンタクロースだから上から行くか

 トウは重たい荷物を掲げたまま家の屋根の所まで梯子を使って上がった。

「はぁ……はぁ……しんどい」

 煙突のある屋根の所に辿り着いたが、煙突は暗くて何も見えなかった。

 トウは煙突の中の構造が、滑り台のように滑り落ちる作りだと想像した。滑り落ちるのをイメージした後、煙突から家の中に入ろうとした。しかしトウのイメージとは違い、煙突は真下の薪の火がそのまま上から出る一直線の構造になっており、そのまま落ちてしまった。

 煙突から落ちたトウは薪を焚く暖炉の所に落ちた。幸いなことに火が着いていなかった。この家は電気ストーブを使っており、暖炉は使用しないで封鎖していた。

 落ちた時に大きな音が立ててしまった。トウが起き上がると目の前には食事をしている家族がいた。お父さんとお母さんと男の子と女の子がいた。四人は大きな音に気付いてトウの方を見た。

「おい、大丈夫か⁉」

この家のお父さんがトウに近付いてきて声を掛けた。

「いてて、大丈夫じゃないですよ」

「そうか……わざわざ煙突からご苦労なことだな。後で直していけよ」

「はっ、はい」

 目の前の食事は美味しそうな料理でいっぱいであった。ケーキにフライドチキンにローストビーフなどがあった。

「サンタさんだ。手紙に書いてあった通り来てくれた」

 女の子がトウを見て言った。

――手紙?そう言えばお爺ちゃんは手紙とかどうしたのかな?……まぁいいや

 トウはシャクシャクが普段どのようにしてサンタの仕事をしているのか疑問に思った。

 「……そうだ。はいこれ、プレゼント!」

 トウは持ってきた白い袋からオモチャを渡した。

「わぁ、ありがとう!」

 プレゼントを貰った女の子はとても喜んだ。

「君にも、はいどうぞ」

 トウは男の子にもオモチャを渡した。しかし男の子は不満そうだった。

「……きみ、見たところ僕と同い年ぐらいだよね?だったら、僕がこんなオモチャなんかもらっても嬉しくないことぐらいわからないかな?」

 トウはそこまで考えてなかった。男の子はトウにオモチャを返した。

「……ごめん、ごめん、じゃあこのお菓子をあげるよ」

 トウは男の子から返されたオモチャを白い袋の中に入れると、中から母親が作ったお菓子を取り出した。

「……まぁ一応もらっとくけどさ」

 男の子はトウからお菓子を貰った。

「ありがとう」

 トウは男の子に言った。

 トウはここでの仕事が終わったので、次の家を回るために帰ろうとした。しかし、暖炉を直なければならず、すぐに帰ることは出来なかった。

 トウは暖炉を直したこともなかったため

修理に時間が掛かってしまった。そうこうしているうちに、再び集合する時間になってしまった。トウの仕事はこれで終わってしまった。

 トウは次にサンタの仕事をやる時には、もう少し対策を練ってからやろうと思った。その後、家から出たトウは再び集合する場所まで向かった。


 その頃ブータは一件の家を見つけると梯で屋根まで登っていた。ブータはそのまま屋根に着いている煙突から中へ入ろうと考えて煙突を除いた。すると、中には登り降りが可能な梯が着いていた。ブータは梯を使って下に降りていった。

 家の中には父と母と三つ子の女の子がいて、サンタクロースを待ち望んでいた。

「あなた、本当に大丈夫かしら?」

 母は父に言った。

「何が?」

「煙突の中に梯を取り付けて、屋根の蓋の鍵を掛けないでいるなんて、いつ泥棒が入ってきてもおかしくないじゃない?」

「心配ないよ。鍵をかけないのはクリスマスシーズンで僕達が家にいる時だけだよ。それに、鍵を開けとかないと子ども達がサンタさんが来ないって言ってくるんだ」

「でも今時サンタさんって玄関から来るじゃない……そもそも今年のサンタの仕事は中止になったんじゃないの?」

「もし来なかったら俺がサンタの格好をして煙突から登場するさ」

 二人が話していると暖炉からコツコツが聞こえてきた。ブータが梯で降りている音である。

「あなた、何か聞こえてこない?」

「サンタクロースかもな……」

「えっ、サンタクロース⁉」

 三つ子の女の子は一斉に言った。そして暖炉から真っ黒でサンタの格好をしたブータがやって来た。

「メリークリスマス!あはははは!」

 ブータは自分で言って自分で笑っていた。家の者はブータを見て驚いていた。

「子ども……」

「あなた、煙突を掃除してなかったの?」

 母は父に小声で言った。

「あぁ……すまない」

「サンタさんだ!」

 一人の女の子が言うと、三つ子の女の子は叫んでブータの所へと近付いた。女の子はブータと同じ年である。

「君達にプレゼントをあげるよ。はいこれ!」

「ありがとう!」

「ありがとう‼」

  一人の女の子が言った後、二人の女の子が言った。

「私もあげる!」

「私も!」

「私も!」

 三人の女の子はそれぞれブータにプレゼントをあげた。

「えへへ、ありがとう」

 ブータは少しばかり照れくさかった。しばらくすると、ブータは家を離れようと家にいる人と別れることにした。

「じゃあそろそろ行くね」

「じゃーね‼」

 三つ子の女の子は一斉に言った。

「うん!」

 ブータがそう言うと、父はブータを玄関まで案内した。

「ありがとうございました」

「あぁ、なんかすまなかったな……」

「えっ、なにが?」

「いやいや、いいんだ……じゃあな」

 そう言うと父は玄関を閉めようとした。

「あっ、待って!サンタさんは煙突から入って来たんだから、煙突から帰らないと行けないんじゃないかな?」

「……好きにしてくれ」

 ブータは再び暖炉の中に入っていき、梯で煙突を登っていった。そして屋根に辿り着き、屋根に着いている梯で屋根を降りた。そしてブータはどこかへ行ってしまった。父はブータが家から去るのを確認すると、玄関のドアを閉めた。

「無事に帰っていったよ」

「そう、よかった」

「……まぁ、子ども達も楽しそうだったからよかったんじゃないか?」

「……そうね」

 その後ブータは他の家に行かないで、そのまま約束の場所まで戻ってきてしまった。

 ブータは一件だけ行ってすぐに戻ってきたので、一番に辿り着いてしまった。ブータはしばらく二人のことを待つことにした。


 その頃コンは一件の家を見つけると、近くにあった木の枝をよじ登り、そして屋根に移った。屋根には煙突があり、中は真っ暗で何も見えない。しかしコンは何のためらいもなく、煙突の中へと入っていき、そして煙突の中で華麗な回転を咬まして暖炉の所でカッコよく着地をした。着地をする時にドンと音を立てた。コンは煙突の中に入ったので真っ黒な姿になってしまった。

 コンが暖炉の所で周りを確認すると、大家族が宴会をやっていた。大家族は真っ黒でトナカイの格好をしているコンを見て驚愕していた。大家族は四十人が老若男女いた。

「メッ、メリークリスマス……」

 コンは自信なしげに言った。

「メリークリスマス‼」

 大家族は本の少しばかりの沈黙の後に一斉に言った。

「ねぇねぇトナカイさん、今日はサンタさん?」

 一人の小さな男の子がコンに言った。

「あいつらのことは知らない」

 大家族は本の少しばかりの沈黙の後に一斉に笑いだした。その後コンは子ども達にプレゼントを配った。

「はいどうぞー」

「ありがとう‼」

 子ども達は喜んでコンに言った。

「いやぁーそれなしても、プレゼントを配るのがサンタさんでなくトナカイの格好をした喋る狐なんて珍しいな」

「そうだな」

 大人達はコンを見ながら言った。

「はいどうぞー」 

 コンは大人達にもプレゼントを配ろうとした。

「俺達はいいよ」

「あっ、そうなの……」

 するとコンは、近くに置いてある大道芸用の道具が目に止まった。

「じゃあおいらが今からすごいパフォーマンスを見せてあげるよ」

 そう言うとコンは、大きな玉に乗ってそのまま傘を持って傘回しをしだした。傘の上には小さな玉がコロコロと転がっている。

「おぉ、すばらしい‼」

 大家族はコンに盛大な拍手をした。コンは今までたくさんの人の前でパフォーマンスを披露することがなかったので、照れてしまった。しかし内心は嬉しかった。それからコンは、大家族と別れを告げて居酒屋を後にすると、何件もの居酒屋を回って大道芸を披露していった。ジャグリングやマジックなど様々な大道芸をやった。すると一人のサーカス団で働く中年の男がコンに声を駆けた。

「君、うちのサーカス団に入らないかい?」

「おいらはトナカイになるんだ。サーカス団には入らないぞ!」

「そっ、そうか……がっ、頑張れ……」

 その後コンは約束の場所に戻ることにした。するとその時、ふとあることを思った。

――あれ?サンタさんの役割って何だったっけ?……あっ、でも今回のおいらはトナカイだよな……あれ?じゃあトナカイの役割って何だったっけ?

 そしてコンは約束の場所に着いた。するとリスと戯れ遊んでいるブータがいた。

「あはははは、止めてよくすぐったい!」

 リスはブータの体のあちこちを動き回っていた。

「ブータ!」

「あっ、コン」

 リスはコンが来るとどこかへ行ってしまった。

「あとはお兄ちゃんだけだね」

「あぁ」

 ブータとコンは話ながらトウの帰りを待った。


 トウが約束の場所まで到着するとブータとコンがいて、無事に合流することが出来た。

三人はシャクシャクのソリの所まで帰ることにした。

「ねぇ、あれ見てよ!すごく綺麗だよ!」

 ブータがそう言うと、トウとコンもブータの示す方を見た。ブータは町の至る所に飾られているイルミネーションを指した。ここに来るときは、サンタの仕事をやれる嬉しさであまりはっきりと見ていなかった。イルミネーションは、サンタクロースやクリスマスツリーなどの絵が飾られていた。

「どこの家もイルミネーションで溢れているな……」

 トウはふとそう思った。

「そりゃそうさ、なんていったってクリスマスだもんな」

「こうしてたくさんの家が飾り付けすることで、町全体がクリスマス一色にしていくんだね」

「おっ、良いこと言うな」

 コンはブータに言った。

「城の中庭のイルミネーションもすごいよな。あそこは世界で一番輝いているんじゃないか?」

「うーん、どうなんだろうね。僕達あまり繁華街にも行かないからね。もっと綺麗な所ってありそうだけど」

 ブータはトウに言った。

「そうかな?世界は狭いって言うじゃない」

 コンはブータに言った。

「狭いのかなー?」

 トウはふと疑問に思ってしまった。

「なんか今日は色んな経験が出来たね」

 ブータはトウとコンに言った。

「そうだな。おいらちょっと疲れちゃった」

「……サンタの仕事は色々あったけど、楽しかったな!」

 トウはブータとコンに言った。

「うん」

「あぁ」

 それから三人はしばらくの間、町のイルミネーションを見続けていた。


 しばらく三人はシャクシャクのソリの所まで帰ることにした。浮いているソリの場所まで近付くと、シャクシャクがソリの下にいた。

「おぉ、やっと帰ってきたな。おっ⁉」

 シャクシャクは三人が帰ってきた安心感とともに驚きが出てしまった。

 三人は家に入るのに煙突から入っていたので、真っ黒な格好で帰って来ていた。三人は同じぐらいの黒さだったので歩いている時には違和感がなかった。

「……お前ら、慣れていなのに煙突から行ったのか……窓からでいいものを」

「えへへ」

 三人は笑って誤魔化した。そのあと四人はソリに乗って城に帰ることにした。ソリは再び鈴の音を鳴らして離陸した。

 サンタの仕事は終わり、ソリは城に戻っていた。ブータとコンは疲れて眠ってしまっていた。

 トウも疲れてはいたが、眠ることが出来なかった。トウはソリから見える景色をただひたすら眺めていた。

「明日からはワシが一人でやる」

 シャクシャクがいきなりトウに声を掛けてきた。

「えっ、何で?俺達も一緒に行くよ」

「……いやなに、ちょいと遠くで仕事をするからな。それにこれはワシ一人の方がやりやすいのじゃよ」

ト「……うん、じゃあ仕方ないね。わかったよ」

 トウはシャクシャクの意見に同意した。そのあとトウはシャクシャクに聞きたかったことを思い出した。

「……ねぇお爺ちゃん、一つ聞いてもいい?」

「ん、なんじゃ?」

「この辺にサンタの学校ってあるの?」

「あぁ、サンタの学校はあるぞ。美幌にはノイルッシュサンタ学校ってのがある。あれは日本で唯一のサンタの学校じゃ。ワシも昔は通っていたぞ」

「……俺もそこに通ってもいいかな?」

 トウは自信なさげに小声でシャクシャクでお願いした。

「……なぜ通いたいんじゃ?」

「それはもちろんサンタクロースになりたいからだよ!」

「サンタクロースになるなら学校に通わなくてもなれるぞ」

「サンタクロースのことについて勉強したいんだ」

「……それだったらワシが教えてやる。何せワシは公認サンタクロースじゃからな」

「……でも、お爺ちゃん以外の知識からも学んでいきたいと思うんだ」

「それなら城の資料室にたくさんの本が置いてある。サンタクロースの最新の本から古い本まで全て揃っている」

「うん……そうなんだけさ……」

 トウは少しだけ困り果ててしまった。

「同い年の子はみんな通っているんだよ。それにお爺ちゃんだって通ったじゃないか。僕もみんなと同じように通いたいよ」

「……トウは小学校と中学校を通わないと自分で決めたではないか。それなのにサンタの学校には通いたいと言うのか?自分で勉強するのではなかったのか?」

 トウはシャクシャクの言葉を言い返せなかった。

「……それではサンタの学校には行かせられない。ワシはな、あそこの学校に行っても仕事で役に立つことなんて何も学べなかったぞ」

 シャクシャクとトウが話しているうちに城に到着した。城の前にはアナンとエナンがいた。トウはソリから降りてアナンとエナンの方に行った。

「ただいま!」

「おかえり!」

 アナンとエナンがトウに向かって言った。シャクシャクはブータを抱っこしてアナンに渡した。

「おやおや、すっかり疲れ果てているようだね」

 アナンはブータをシャクシャクから受け取り、そのまま抱っこしてブータの部屋まで向かった。

 一方のシャクシャクは、トナカイとコンを乗せたソリをトナカイの小屋に置くために移動した。トウとエナンは二人になった。

「どうだった?」

 エナンはトウにサンタの仕事について聞いた。

「うん、楽しかったよ。お父さんはまだ帰ってきてないの?」

「お父さんも帰って来てるよ。疲れて爆睡しているよ。トウも疲れただろうから今日はもう寝なさい」

「うん」

 トウは自分の部屋に入って寝ることにした。トウはシャクシャクとのサンタの学校の件もあって眠れないと思っていたが、ソリに乗っている時に全く寝ていなかったこともあったため、すぐに眠ることが出来た。


 しばらく三人はシャクシャクのソリの所まで帰ることにした。浮いているソリの場所まで近付くと、シャクシャクがソリの下にいた。

「おぉ、やっと帰ってきたな。おっ⁉」

 シャクシャクは三人が帰ってきた安心感とともに驚きが出てしまった。

 三人は家に入るのに煙突から入っていたので、真っ黒な格好で帰って来ていた。三人は同じぐらいの黒さだったので歩いている時には違和感がなかった。

「……お前ら、慣れていなのに煙突から行ったのか……窓からでいいものを」

「えへへ」

 三人は笑って誤魔化した。そのあと四人はソリに乗って城に帰ることにした。ソリは再び鈴の音を鳴らして離陸した。

 サンタの仕事は終わり、ソリは城に戻っていた。ブータとコンは疲れて眠ってしまっていた。

 トウも疲れてはいたが、眠ることが出来なかった。トウはソリから見える景色をただひたすら眺めていた。

「明日からはワシが一人でやる」

 シャクシャクがいきなりトウに声を掛けてきた。

「えっ、何で?俺達も一緒に行くよ」

「……いやなに、ちょいと遠くで仕事をするからな。それにこれはワシ一人の方がやりやすいのじゃよ」

ト「……うん、じゃあ仕方ないね。わかったよ」

 トウはシャクシャクの意見に同意した。そのあとトウはシャクシャクに聞きたかったことを思い出した。

「……ねぇお爺ちゃん、一つ聞いてもいい?」

「ん、なんじゃ?」

「この辺にサンタの学校ってあるの?」

「あぁ、サンタの学校はあるぞ。美幌にはノイルッシュサンタ学校ってのがある。あれは日本で唯一のサンタの学校じゃ。ワシも昔は通っていたぞ」

「……俺もそこに通ってもいいかな?」

 トウは自信なさげに小声でシャクシャクでお願いした。

「……なぜ通いたいんじゃ?」

「それはもちろんサンタクロースになりたいからだよ!」

「サンタクロースになるなら学校に通わなくてもなれるぞ」

「サンタクロースのことについて勉強したいんだ」

「……それだったらワシが教えてやる。何せワシは公認サンタクロースじゃからな」

「……でも、お爺ちゃん以外の知識からも学んでいきたいと思うんだ」

「それなら城の資料室にたくさんの本が置いてある。サンタクロースの最新の本から古い本まで全て揃っている」

「うん……そうなんだけさ……」

 トウは少しだけ困り果ててしまった。

「同い年の子はみんな通っているんだよ。それにお爺ちゃんだって通ったじゃないか。僕もみんなと同じように通いたいよ」

「……トウは小学校と中学校を通わないと自分で決めたではないか。それなのにサンタの学校には通いたいと言うのか?自分で勉強するのではなかったのか?」

 トウはシャクシャクの言葉を言い返せなかった。

「……それではサンタの学校には行かせられない。ワシはな、あそこの学校に行っても仕事で役に立つことなんて何も学べなかったぞ」

 シャクシャクとトウが話しているうちに城に到着した。城の前にはアナンとエナンがいた。トウはソリから降りてアナンとエナンの方に行った。

「ただいま!」

「おかえり!」

 アナンとエナンがトウに向かって言った。シャクシャクはブータを抱っこしてアナンに渡した。

「おやおや、すっかり疲れ果てているようだね」

 アナンはブータをシャクシャクから受け取り、そのまま抱っこしてブータの部屋まで向かった。

 一方のシャクシャクは、トナカイとコンを乗せたソリをトナカイの小屋に置くために移動した。トウとエナンは二人になった。

「どうだった?」

 エナンはトウにサンタの仕事について聞いた。

「うん、楽しかったよ。お父さんはまだ帰ってきてないの?」

「お父さんも帰って来てるよ。疲れて爆睡しているよ。トウも疲れただろうから今日はもう寝なさい」

「うん」

 トウは自分の部屋に入って寝ることにした。トウはシャクシャクとのサンタの学校の件もあって眠れないと思っていたが、ソリに乗っている時に全く寝ていなかったこともあったため、すぐに眠ることが出来た。


 昨日の疲れがあったのにも関わらず、ブータはいつもと変わらない時間に起きることが出来た。

 ブータは目を開けるとすぐに異変に気付くことが出来た。ベッドに引っ掛けてある靴下が膨れあがっていた。ブータは靴下の中身を見ると包装された箱が入ってあった。

 靴下はプレゼントを入れる用の靴下で、普通の靴下よりも大きめに作られている。

ブータはすかさず包装している紙の部分を破り箱を開けた。中には青い拳銃のオモチャが入っていた。

「わぁ!アイスガンだ」

 ブータは急いでトウに報告するためにトウの部屋までアイスガンを持っていた。

「ねぇ、見てみてお兄ちゃん、サンタさんからプレゼントをもらったよ‼」

 トウは寝ていたがブータの声によって起きてしまった。

「プレゼント?」

 トウはベッドから起き上がり、目を閉じたまま言った。

「うん‼お兄ちゃんは何もらったの?」

 眠たそうなトウは半目だけ開けてた。トウはサンタの仕事に夢中になりすぎて、毎年クリスマスにプレゼントを貰っているのを忘れていた。トウはプレゼントを入れる用の靴下の中身を確認する。

「入ってないや。いや……中に手紙が入っている」

 トウは目をきちんと開けて手紙の内容を読んだ。


手紙 

メリークリスマス ネイルスタースミス・トウくん 君へのプレゼントは城の外に置いてあるよ。きっと君に役に立つだろう。

           サンタクロースより


「僕のにも手紙が入ってたよ。メリークリスマスって書いてあった」

「城の外に行ってみよう!」

 トウは手紙を置いてブータと城の外に走って行った。

 城の入り口には大きい赤いリボンの付いた小さなソリが置いてあった。

「うわぁ、すげえや‼」

「これ、お兄ちゃんのプレゼントじゃないかな?ほら、ここに名前が書いてあるよ」

 ソリにはネイルスタースミス・トウと彫られていた。

「やったー‼」 

「僕にも使わせてね」

「もちろんだよ。ところでブータは何貰ったんだ?」

「僕はね……これさ、アイスガン‼」

 ブータはトウにアイスガンを見せた。

「それってテレビでやってたやつじゃん。雪を氷にして打つやつだろ?」

「うんそうだよ、前から欲しい行ってたやつだよ。嬉しいな」

「ちょっと打ってみてくれないか?」

「うん、いいよ。えーと、まず地面の雪をこのアイスガンの中に入れて、それから揺する。そしたら準備完了だったっけ?」

 ブータはテレビで仕入れた知識を活用して、アイスガンが打てる準備を完了させた。

 そしてブータは何もない所に向かってアイスガンを打った。アイスガンを四発も打ち、バンバンバンバンと音が鳴った。

アイスガンは子どものオモチャなので、本物の銃とは違い威力はあまりない。しかしブータにとっては前から欲しかった物であるためすごく喜んだ。

「そういえばまだ言ってなかったね。お兄ちゃん、メリークリスマス!」

ブータは照れ笑いしながら言ったため、トウも釣られて照れ笑いした。

「メリークリスマス、ブータ!」

二人の様子をアートとアナンはを上の窓から見ていた。

「今年は奮発してしまったな」

 アートがエナンに言った。

「余計なことを言うんじゃないよ」

アナンはアートの耳をつねった。

「いててて、まったく奥さんが二人いると大変だ」

「いつから私はあんたの奥さんになったのよ」

アナンは先程より強めにアートの耳をつねった。

「いててて!」

「静かにしなさいよ。聞こえちゃうじゃない」

「だったらつねるなよ」

「だいたいあんたさ、自分でプレゼントを入れるとか言ってたよね?それなのに昨日は疲れたのか城に帰ってきたらすぐに爆睡しやがって」

「すまない……エナンと用意してくれたんだろ?あのソリに付いていたリボンも、ブータの靴下にプレゼントを入れたのも」

「ふんっ、後でエナンにも謝りなさいよ」

「あぁ」

 アートとエナンが話している頃、トウとブータはアイスガンを打って遊んでいた。するとトウとブータの前にエナンがやって来た。

「よかったわね。二人とも昨日はお疲れ様、それからメリークリスマス!」

「メリークリスマス、お母さん!」

 トウとブータは一斉に言った。エナンは二人に言われて笑顔になった。

「もうそろそろ朝食が出来るわよ。手を洗って中に入りなさい」

 エナンは二人を城の中に連れていき、手をを洗ってから朝食を食べに行った。


 シャクシャクは朝食を食べた後、ルドルフと一緒に城の外でサンタの仕事の準備に取り掛かっていた。二人はソリにプレゼントを運ぼうとしていた。

「今日はトウ達は誘わないのか?」

「あぁ、今日からワシ一人でやると言っておいたわ」

「……シャクシャクの考えることぐらいお見通しだ。周りに一人でサンタの仕事をすると言っても誰もが反対して仕事をやることは出来なかった。だが、家族とやるということで周りの人を納得させたんだろ?」

「ホッホッホッホッ、まぁ、子ども達はサンタの仕事をやってみたかったから、よかったかもしれんがな。それに、やはりワシは一人でやるほうが効率よく動ける」

「ふっ、その不思議な力とやらは普通の人は持っていないから無敵だな」

「その通りじゃ、ホッホッホッホッ!」

 二人は話しながらプレゼントをソリに乗せた。そのあとルドルフは自ら紐を取り付けた。

「よし、行くぞ!」

「あぁ」

 するとシャクシャクを乗せたソリは突然ソリが見えなくなるほど光だして、そのまま別の場所に瞬間移動した。移動した場所は美幌の繁華街の中心であった。

「今日は色んな町に行かなければならない。少しだけ分裂していこう!」

「大丈夫か?年寄りにはその技は厳しいんじゃないか?」

「何を言うか!サンタクロースというのはな、年寄りになってからが働きぶりを見せる年齢じゃぞ!」

「……まぁいい、無理はするなよ」

「では行くぞ、せいや‼」

 シャクシャクが叫ぶと右手から不思議な光を出てきて、その光を近くに五個も放った。すると、シャクシャクと全く同じ形をしているシャクシャクが五人も作られた。シャクシャクは自分のドッペルゲンガーを作り、シャクシャクは六人となった。

「では行ってくる!」

 五人のシャクシャクは一斉に喋り、そのまま姿を消していった。ドッペルゲンガーのシャクシャクは一つ一つの町に移動し、それぞれサンタの仕事を行った。

「ワシらも行くか!」

「あぁ」

 残された本物のシャクシャクはソリに乗った。

「飛行‼」

 シャクシャクはそう言うと、そのままソリは浮上して空を飛んでいった。

「あっ、サンタさんだ‼」

 繁華街に住む男の子は空を飛んでいるサンタクロースとトナカイを見て言った。

「本当だ!」

「サンタさーん!」

 男の子の隣にいた男の子と女の子も気付いて、そのまま手を振った。シャクシャクはそれを見て子ども達に手を振った。

 シャクシャクを乗せたソリはそのまま児童会館の方まで向かった。近くまで来ると着陸した。

 そしてルドルフとソリを近くに置き、プレゼントの入っている袋を持って児童会館の入り口まで向かった。

 シャクシャクが入り口のドアをトントンと叩いて扉を開けた。すると職員がやって来た。シャクシャクは職員と打ち合わせをした。

 そして職員はたくさんの子ども達が遊ぶ遊具室に移動して子ども達を近くに集めた。

「みなさーん、今日はクリスマスということでサプライズゲストが来てます‼」

「えっ、誰々⁉」

「わかった‼サンタさんだ‼」

「そう、サンタさんです。どうぞー!」

 職員が合図をするとシャクシャクは遊具室の扉を開けた。

「みんな、メリークリスマス‼」

 遊具室にいる子ども達はサンタクロースを見て驚愕して叫びだし、そのまま近付いた。

「良い子のみんなにプレゼントがあるんじゃ。みんな良い子にしておったかな?」「はいはいはいはいはいはいはい‼」

 一人の男の子はテンションが上がってしまい、同じことを何度も叫んだ。すると近くの女の子がシャクシャクに声を掛けた。

「サンタさん、私ね……誕生日プレゼントをお爺ちゃんとお婆ちゃんから三つも貰ったんだ。でもまだパパとママには話していないんだ。私って悪い子だよね?悪い子だからプレゼントは貰えないよね?」

「……素直に言ってくれてありがとう。そんな君はワシからみたら立派な良い子じゃ。ほれプレゼントじゃ」

「ありがとう!」

 女の子は笑顔になって喜んだ。その後シャクシャクは子ども達に順番にプレゼントを配っていった。

「……おや、もう中身が無くなった……」

 子どもの人数が多いため袋に入っているプレゼントでは足りなかった。するとシャクシャクは袋に向かって不思議な力を使った。するとプレゼントの袋が膨らんだ。中にはプレゼントがたくさん入っていた。そしてシャクシャクは再びプレゼントを子ども達に配っていった。全てを配り終わると子ども達にさよならの挨拶をして児童会館から出た。

 その後もシャクシャクは、別の施設を何件か行ってサンタの仕事を行った。やがて夜になると一件一件の自宅を訪れて子ども達にプレゼントを配っていった。

 その仕事も終わる頃に、ドッペルゲンガーのシャクシャクのサンタは本物のシャクシャクの所に戻ってきた。シャクシャクはドッペルゲンガーのシャクシャクを消していった。

「……よし、最後の仕事じゃ」

「今年はやけにサービスをするな」

 ルドルフはシャクシャクに言った。

「何を言うか!この仕事はサービスがあってなんぼじゃろ!」

 そう言うとシャクシャクは、その場で夜空にたくさんの不思議な光を放ち夜空のイルミネーションを浮かべさせた。夜空にはサンタクロースやトナカイの絵だったり、クリスマスツリーや雪だるまの絵があった。さらに「Merry Christmas」の文字を大きく浮かばせた。

「パパ、見てみてー‼」

 繁華街に住む女の子は文字を見て驚愕した。繁華街にいる人達は家の窓から夜空に浮かぶイルミネーションを見て楽しんだ。

「はぁ……はぁ……これで今年のサンタの仕事は終わりじゃな……」

 シャクシャクはかなり疲れ果ててしまった。

「すっかり遅くなった。朝日がもう見えている」

 ルドルフは朝日を見ながら言った。

「はぁ……はぁ……ワシももう年じゃな……」

「はりきって技を使いすぎるからだ」

「帰りは飛んで帰ろう……」

「その必要はなくないか?私の力が残っている。城にすぐに移動できるぞ」

「最後はゆっくりと景色を見たいのじゃ」

「……わかった。飛行‼」

 ルドルフが言うとソリは浮上した。

「……本当に大丈夫か?」

「大丈夫じゃ、あとは城に帰って眠るだけじゃからな……」

「そうか……そういえば、この前アートとも話したのだが、そろそろトウとブータにネイルスタースミス家が代々と使える技を教えてもいいのではないか?」

「つまりユールラッズの技ということじゃな。じゃがトウはとにかくブータにはまだ早いかもしれんな」

「どうだろうな、ブータは努力の天才だと思うぞ。将来は兄のトウを越えるかもしれないぞ」

「ホッホッホッホッ、二人の成長が楽しみじゃな」

 二人が話しているとソリは城の近くまで着いた。ソリはそのまま下降していった。

「……後は頼むぞ」

「あぁ」

 ルドルフはシャクシャクにソリを頼まれて自らトナカイの小屋に入れた。シャクシャクはそのまま城の中に入った。そしてそのまますぐに眠りについた。シャクシャクの今年のサンタの仕事は終わった。

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