第6話
6.
初春の湖は一年で最も冷え込んでいて、薄い氷の膜が表面につくられては壊れて水面を漂流していた。箒で寄せられた塵がちりとられるように秋がなくなり、色彩を欠いた冬が深まって、母親の症状は面会謝絶となるほどに悪化し、彼女の意識は沈んでいるというよりも、存在感を失って薄れていると形容した方が傍目にも正確だと思われる頃、路面に吐く息は漫画の吹き出しみたいに白さを表現してみせ、水色くんは浅葱色のマフラーを首に巻けばスカイブルーのダウンジャケットを羽織るようになり、アサゲはいまだにヒマワリちゃんのことを想い患っていた。あの年頃の男の子にとってすぐに諦めることなどできないということは私にも分かっていたので、それでどれだけ彼が激しい気性を火花のように弾けさせ、あとで後悔することになるとしても、彼の気持ちを止めようとは思わなかった。いつも行く四阿からは遠く微かにだが、対岸の山の近くに小さな赤い社が浮かんでいるのが見えていた。山際から突堤のように細い道が続いて社が湖のさなかに坐しているのだ。それはアスファルトに慣れた私たちにとっての唯一の神様であり、古来より高い山嶺から湖を守ってきた神を人間が拝まずにはいられないために、顕現しているように思われた。
二月のある寒い朝、私とアサゲと水色くんの三人は四阿に集まって、湖に沿って山の方へと歩き始めていた。
それというのも、先日アサゲが日常に山積したストレスに耐えかねたように「ヒマワリちゃんに振り向いてもらいたい」とこぼしたのに対し、水色くんが「それなら神様に願掛けに行きましょう!」と応えたのが発端であった。聞けば、水色くんは普段より湖の奥に垣間見える社の存在が気にかかっていて、丁度いい機会と見做したのだそうだ。「なにもこんな寒い時期に行かなくても」とごねる私に、彼は「こんなに適した時期はないですよ……、それによもや三人揃って行けるだなんて……」とひとりでに何度も頷いてみせた。彼は何かを知っていそうな顔をしていたが、私は特に訊ねることをしなかった。しかし彼は確かにある種のタイミングを計っていたのである。それを私はあとになって知ることになる。いずれにせよ、あの日私たちは出発したのだ。水色くんは私がクリスマスにプレゼントした手袋をはめて楽しげに歌を口ずさんで、待ち合わせ場所である四阿に佇んでいた。何年か経った後でも、私はそれをクリスマスに彼からもらった写真立ての中に見て取ることができる。
四阿から湖に沿って北に歩くと、駅に近づくのとは反対に、民家や店舗が淡い空の元に姿を消し、建物同士の間隔が徐々に広くなっていった。薄い灰色にところどころ厚い雲が混じるといったあまり好天とは言い難い天候ではあったが、屋根が取り払われて空が大きく目の前に現れるのは見ていて気持ちのいいものだった。たまに雲の合間から日光が幾筋か射し込み、湖の揺れが明るく反射した。ほとんど使われていない駐車場や、積まれているコンテナがあって、山の匂いが強くなる。山の匂いには、気をつけていなければまるで全てを取り込んでしまいそうな魔力がある。街の風景を頭に思い描きながら、そうした強い力を怖がるがゆえに人はああいった高い建物をつくるのだなと、私は思った。神に抗おうとしたバベルの塔のように、あるいは賽ノ河原で石を積む水子のように。
いつも遠くに見えていた桟橋は昔ながらの渡船場さながらの風情を漂わせていたが、看板の掲げられた小屋に人気はなく、そばに括りつけられた五匹のアヒルが湖面の流動のせいで桟橋にそのからだを打ちつける断続的なガタガタという音が虚しく辺りに響いるだけだった。アヒルボートは二人乗りで、ハンドルの下にはペダルが備え付けられている。水色くんはそのアヒルの、細くしなやかな首に確かめるような手つきで触れた。
「少年、ヒマワリちゃんと乗りたいかい?」彼は言った。
「でもボロボロだよ、これ」
「氷が溶けて、あたたかくなって使えるようになったらまた綺麗に整備されてるさ」水色くんはトントンとアヒルの頭を軽く叩いた。
私はあることを思いついた。
「ねえ、これに乗ったらそれがスイッチとなって湖が割れるなんてことないかな、ほらモーゼのときみたいに! あるいは湖の栓が抜けて山の地下にある水力発電が稼働し、国家機密であるところの……」
私の観念奔逸的迸りをアサゲは無下に否定した。
「湖はただの湖さ」
「理念なんてどうでもいいってことね」私が言うと、
「まあね」アサゲは、照れたように俯いて、それからアヒルの群れを見やった。
しばらく歩くと、四阿を見つけて私たちはベンチに座ってすこし休憩をとることにした。その建築物は簡素で、私たちが普段過ごす四阿と同じつくりだった。もしかしたら私たちと同様に、どこかの誰かも知らない幼な顔の三人が、暇を持て余せば、ここに集合して他愛もないことに興じたり、下らないことを喋りあったりするのかもしれない。
アサゲがドロップ缶から取り出したハッカ味の飴玉を私たちは舌に転がし、各々周囲の景色に目をやった。湖に浮かぶ赤い社は随分明瞭なものとなっていた。アサゲは山脈の輪郭に視線を向け、水色くんは道を挟んだ向かいの廃品置き場を観察していた。時折、山の中からは鳥の甲高い悲鳴や木の枝を飛び立つ音が聞こえ、遠くからは林業者のものだろうか重機の唸っているのが聞こえてきた。
「ヒマワリちゃんと街を出たい?」
アサゲに訊くと、彼は物静かに「うん」と首肯した。それから私に向かって訊き返した。
「きっとここから抜け出さないといけないんだ。そうじゃない? 自分を取り囲む壁を見たら、壊さなくちゃって思うことはないの」
「そりゃあるよ」私は口ごもった。
場に沈黙が降りるのが怖くて、私は、水色くんに目を向けた。「ねえ、君はどう思う? 街を出ることについて」
「そうですね……」
水色くんはすこし考える仕草を見せてから、立ち上がって廃品置き場に向かって歩いた。私とアサゲはなんとなくそれに従った。そこには傷んだり汚れたりした洗濯機やクーラーの基体やテレビや床屋のサインポールや室外機なんかが、枯れて茎だけの残った雑草の中に捨て置かれ、それぞれに過ぎた年月を懐かしんでいるようだった。その中のいくつかは生きることを諦めない羊歯に絡まれており、サインポールの内部の色はもはや区別を失い、そこには三つの区切りがあるだけとなっていた。アサゲは横倒しになった洗濯機にちょこんと腰を下ろした。水色くんは室外機の前に屈みこみ、中のプロペラの具合を確かめた。プロペラは雨水や泥でひどくうらぶれたものになっていた。室外機の表面を軽く指でなぞり、指の腹に付いた黒ずみを目の前に掲げながら彼は口を開いた。
「街から出たら、どうなるんでしょうね……。ここにいる彼らもかつては街に居場所を定め、その生活に疑問を抱いたのかもしれません」
小さくそう呟くと、彼は顔を上げて空と湖を仰ぎ見、膝に手を当てた。
「さて、そろそろ行きましょう。車があれば便利なんですが、あいにくわれわれがいるのは楽園ではありませんから」
アサゲが洗濯機からぴょんと飛び下りて、地面に唾を吐いた。
「車なんてやだよ、あれに乗ったらたちまち精神科ゆきさ」
そこからそう離れていないところにローソンがあったので、私たちはそこで早めの簡単な昼食を済ませた。なぜなら、この先には昼食のとれる店なんてないかもしれないほどに、私たちは山に近づいていたからである。駐車場に車の影はひとつもなく、隅に猫が二匹丸まって、時々何か外に漏れてはいけない秘密事項を囁き合っていた。
傍から覗き込む湖は、同一のものとはいえ、その光景が見る位置によって異なるのが不思議だった。歩くことで社の後景に佇む山々の角度が変化し、まるで社が多くの山を従えているようにも思われた。近くの水面をみれば、水が澄んでいるところと藻に覆われているところとがある。湖に注ぎ込む河川が生活排水であるようなドブ川の部分以外の比較的綺麗な部分では、他にすることもなさそうな中年の男性たちがぽつぽつと、車を路肩に停め、湖面に竿を向けて糸を垂らしていた。
しかしローソンから一時間ほど歩けば、もう釣りの人影はまったく見当たらなくなった。重機の音も聞こえなかった。曇天のもと、三人の織りなす足音だけが道に響いた。
「ほら、あそこですよ」
水色くんは丁字路の奥に括りつけられた木の標識を指し示した。それはかなりの年代物であったが、「登山口」を表していることは分かった。標識の後ろから石の階段が林の中に伸びており、夏に水色くんが訪れた際はここを登っていったのだと言う。私たちは山に登るわけではないので、丁字路を右に曲がって、別の案内板の指す「弁才天堂」の方へと向かった。
アスファルトの舗道が砂利道へと変わり、いずれ飲み込まれる奥妙な自然の引力を感じる。道の左側は山の斜面が続き、右側にも、生垣の隙間に、興隆した文化が未来にもそうであると思われながらもあっけなく粉塵に帰してしまったことを暗示するような枯れ木たちが立ち並ぶようになる。砂利の敷かれた道を五〇メートルほど進んだところに、丸太でできた鳥居が構えられ、人知の気配のないひっそりとした雰囲気の中、タクシーはその前に停まっていた。
運転手と思われる老年の男が車に寄りかかって煙草を吸っていた。彼の白い髭は長く、煙草はそれを掻き分けて咥えられているようだった。その姿はどこかワラビやゼンマイといった植物の印象を見る者に与えた。彼は、私たちに気づくとにこやかに声をかけた。
「やあ、どこに行くんだい?」
水色くんは手を上げて、快活に応えた。
「お参りですよ、ミスター。神様にいつも見守ってくれるお礼を言いに来たんです」
「ほう、若いのに珍しいな。最近の若者はフロッピーディスクとカセットテープの違いも分からんというのに。むしろテレビデオすら過去の遺物となりつつある。わしにとって孫はもう異星人みたいだよ」
「時の流れは目まぐるしいですね、ミスター。でも安心してください。人間の多くはいまだ若者も含め、空間と時間の中で起こることしか考えていません。それにおいては人類皆平等です」
「でも昔より随分機械は増えた」
「確かにそうです。でも中身はおそらく何も変わってません。些細なことで騒いだり、傷ついたりしてるだけです」
水色くんの話を聞くと老人はハハハとしわがれた声で笑った。
「若さは財産だな」
「年を重ねるのも素敵なことに違いありません」
私たちが歩き出すと、後ろで老人が新たにライターを着火させる音が聞こえた。鳥居をくぐると、私たちを深奥な林立が左右から密閉した。鳥居と共に砂利道も終わり、代わりに土と溶け合ったイチョウやモミジの落葉が敷き詰められている。
これより参道と書かれた木目板を横目に、鳥居の方をちらと振り返ってから、私は声を押し殺して申し出た。
「今タクシーの運転手の格好をした人がいたでしょう?」
「はあ」水色くんは真意が読み取れないといった表情をした。
「ねえ、あの人ってレイプ魔かも」
アサゲが噴き出すのも厭わず、私は持論を展開した。
「だってこんなところにタクシーが停まってるのなんておかしくない?」
「そんなことないですよ、スミレ」水色くんは首を振った。「あんなにいい人だったじゃないですか」
「でもテレビでこういう状況見たことあるもの。知ってるかな、あの超能力者が凶悪事件を解決する……」
「他人をあまりそんな凶悪犯に仕立て上げない方がいいですよ、スミレ。人には人の事情がありますから」
「そうだね、もう服役は終わったのかもしれないね」
「そうですよ」水色くんは力強く頷いた。アサゲは楽しそうに湖に石を投げ込んでいた。
山を見上げれば緑葉を纏ったスギやヒノキの針葉樹林が空に聳えているのが見えたが、参道に植えられているのは専ら広葉樹林のようで、葉はひとしなみに散り終えていた。右に並ぶイチョウの木の間隙からは湖面が窺え、そこには随分前に紅葉して散った葉々が、金属のくすみみたいに端にたまって浮いていた。左側にツルツルした表面のサルスベリが見え始めた頃、前方から杖をついて腰を屈めて歩いてくる老婆が現れた。土が湿っているせいもあるのか彼女の立てる物音はほとんど聞こえず、それは自然と一体化してるような怪しさを辺りに漂わせていた。
私は身を強張らせたが、老婆はすれ違いざまに軽く会釈を寄越しただけですぐに立ち去ってしまった。
「あの人、レイプ犯の仲間かな」私はふっと本音を口にした。
「どう見たって参拝帰りじゃないですか、手首に数珠つけてましたよ」
「呪い殺したのかもしれない、怪しいわ」
「スミレも充分怪しいですよ」
そんなことを話してる間に弁才天堂は現れた。やや新しくつくられた朱色の鳥居があり、そこから湖面の上を細い橋が続いていた。鳥居をくぐったあたりで、首に冷たいものが当たった。見上げるといまや満遍なく覆われた灰色の雲のさなかで、黒い雨雲が丁度頭上に差し掛かっているところだった。祠の扉は閉められていたが、私たちは各々丹念に編み込まれた紐を振って、鈴を鳴らし、神に自らの祈りを心で告げた。アサゲも水色くんも長い時間をかけて、言葉に出さず祈りを告げていた。私も願った。街から出られますように、と。
この日常から抜け出せられますように、私は祈った。
私たちが橋を引き返していると、金属バケツに誰かが躓いたみたいに、突如として雨は強まりをみせた。鏡のような湖面は波紋で埋め尽くされ、それらはそこに潜むビル二階分ほどの体長を引き摺る怪魚の起床を思わせた。怪魚の起きるのを湖は願っていたのだ。だから祝祭をしなくてはいけないのだ、きっと。
そんな想像をしながら私たちは駆け足になった。いくら祝祭のためとはいえ、風邪をひいてはいけない。水色くんが、近くにいい場所を知っているというので、参道を途中で山間に入り、滑りそうになる細い道を登った。雨がバタバタと藪に当たって音を立てた。
「いい場所って?」アサゲが叫んだ。
「もうすぐ」先立って急ぐ水色くんが腕を上げて左を指した。「こっちです!」
彼の示した先には、山の斜面に洞窟が掘られていて、私たちはそこに飛び込んだ。そこは以前彼が滝修行に来た際に見つけた場所らしかった。
洞窟に入ると、外界から私たちはすっかり切り離れてしまったようだった。まるでピラミッドの地下に潜行しているようだ。けれど不思議と孤独ではなかった。私たちは孤立していたが、決して寂しい集まりではなかった。
雨は規則正しく働きアリのように地面に降り注いでいた。洞窟は深く奥に行くほど天井が下がり、どんどん細くなっていった。冷蔵庫で三年間冷やされたアイスノンのようにひんやりとした岩に座って外を眺める私たちの声は、その果てない闇の中で上下左右にぶつかっては響いた。
ダウンジャケットについた水滴を払いながら、水色くんはアサゲに訊いた。
「ちゃんと祈ったかい?」
「うん」アサゲは座っている岩を手のひらで叩きながら頷いた。
「そう、なら何も心配ありません。あとは思いの丈をぶつけるだけだね」
「でも、なんて言ったらいいんだろう」アサゲの声はたちまち雨の中に形を消してしまいそうなものだった。
「褒めればいいんじゃない?」私が訊くと、アサゲは余計に考え込んでしまったようだった。
「どこを? 言葉にするとなんでも薄っぺらくなっちゃうし、それを並べてたら一晩経っても終わらないよ。僕だって最近ずっと考えてたんだ。けれど考えれば考えるほどヒマワリちゃんのどこが好きなのか、自分でも分からなくなってくる」
「直感を信じるのです、少年よ」
「説得力があるやらないやら」私は笑って首を振った。
雨はしばらく降り続いた。やがて待つのにも疲れて、岩に凭れたアサゲは一口も発しなくなり、ついには眠りこんでしまった。この洞窟で息をするのは私と水色くんだけになった。閉塞した空間で二人がいるというのは、水色くんの部屋に私が行くのと同じ環境だと思われたが、その底流にはある種のしびれのような緊張が走っていた。それはいつ敵に襲われるかも分からないという、不気味で気の抜けない野性的な緊張であった。そのとき私はハタと、自分が水色くんに安心をもらっていたことを発見した。
「水色くん、私ね――」
私が言いかけた瞬間、糸のように降りしきる雨を眺めていた水色くんがゆっくりと口を開いた。私は口を噤んで、彼の声を聞いた。
「いつかスミレの同級生が捕まったこと、ありましたね」
「うん、皐月さんね」
「あれ、実は羨ましかったんです」
「私もだよ」私は正直に言った。
彼は驚いた風に目を見開いてこちらを向いたが、やがて「そうですか」と息を吐き、頬を緩ませた。
「今、学校は春休みですか?」
「違うよ、高校は三月の中旬まであるんだ。まじでファッキンだよ。……水色くんはもう復学しないの?」
「どうでしょうね」彼は静かに声を落とした。まるで目に見えない巨大なムカデが街を侵略するのを見て、自分の無力さを噛みしめているような口ぶりだった。「僕は……ちゃんとやっていけるのだろうか」
長い沈黙があった。彼は頬杖をついて自分の中にある無数の区切りを見極めるように外界の光景に目を凝らしていた。どのくらいの時間が経ったかは分からない。ただ雨が木や地面を叩く音と、地面から溢れた雨水が川となって流れてゆく音、洞窟の奥で水滴が滴る不規則な音だけが、しばらく私たちを取り囲んでいた。その途方もなさが慣れて普通の風景として固定されそうになった頃、水色くんが急に私の顔を覗きこんだ。その表情は先程とは打って変わって、朗らかなものであった。
「君の家族が戻ってくるといいですね」
「ねえ、ひとつだけ訊いていい?」私は妙に苦しくなった心をもって、立ち上がった彼に言った。「あなたはさっき何を願ったの?」
「この雨がずっと僕らを閉じ込めてくれるように」
雨はいつしか上がっていた。
***
いつだったかは覚えてないけどきっと普通の一日に、彼が口走ったことを私は今でも思い出す。
さよならは出会いと同居している。さよならは旅をして、僕たちに疑いもなく、後悔もなく、ただ無邪気に訪れるのです。出会いはそのドアとなって、僕たちはそれをひらく。それだけなんですよ、ミス神田川……。彼はそう言った。私は聞こえないふりをした。しかしそれは確かなことだった。運命の日はいつだって唐突だ。ワニのように知らないうちに近づいて、私はその扉を何気なく開けてしまう。毎日のうちのたったひとつのものだと思い込んで。その表札は汚れて読めず、さよならとも出会いとも判別がつかない。妙に印象強く残っていることは、確かそのとき、彼がどうして水色の服で身を包んでいるのか、それがようやく腑に落ちたと思われたことだ。それがなんでだったかは時が経つほどに色褪せて見えなくなってしまったけれど、そのことだけははっきりと私の中に残っている。
ドアをひらいたのは彼か私、どっちだったのだろう。いや。それも彼に言わせれば、「ドアが勝手に訪れた」ということになるだろう。ともかくして私は、そのひらいたドアの中に吸い込まれる。
そうしてその日は現れた。
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