第24話 道端での出会い
「そういえば、最初にどんな感じで切り出すか考えた?」
「それが……考えているんですけど、あまり思いつかなくて。アイデアくれませんか?」
通学路を来た方向とは逆に二人で話しながら歩いていく。ここは小学生や中学生たちも通るが、今日は休日だからその姿はない。
それにこの時間なら家が留守ということはないだろう。もしいなくてもせいぜいスーパーやコンビニの買い物くらいだ。
ここから家まではゆっくりと歩いて行っても十分かからない、着くまでに何か思いつけばいいけど……
「やっぱり第一声っていうのは難しいもんだよね。行方不明だったとかならまだしも、確実に一度死んでるんだし」
「そうですよね~何かのイタズラじゃないかと思われないか心配ですよ」
「もしかしたら、警察とか呼ばれるかもよ~」
「勘弁してくださいよ~」
いや、本当にそうなりかねないんだよね……
「いっそのこと、いきなりお母さ~んって感じに抱きついてみたら?」
「それは……ちょっと……」
う~ん、覚悟を決めて来たつもりだったけど、やっぱりいざとなるとどんな風にするか迷ってしまうものだ。
それにしてもいきなり抱きつく……か、そんなこと考えもしなかったな。
「そうかな~レンちゃんぐらいの美少女にハグされたら、老若男女問わず誰でも嬉しいものだと思うけど」
「そんなもんですかね……というか何か話が変わってますよ」
「でも、久しぶりに再開した子が親にそういうことするの、別にそこまで不自然じゃないよね」
「…………」
そんな風に言われると、案外悪くないかも。
それに自分の子ども時代を思い出すと、一人っ子だったのも相まって、母さんに甘えていたことが多かった。学校で嫌なことがあったときや転んで怪我をした時なんか走って泣きついたりしてたなあ……
「セシルさんはどうなんですか? 両親との思い出とか。さすがにそんな昔のこと覚えてないですかね」
「少しだけど……魔術が上手くできて褒められたりとかは、おぼろげながら思い出せるって感じ」
褒めれたりしたこと……やっぱり記憶に残るのはそういうことなのか。
「あと、私は一人で全部やっちゃうような子どもだったからね。手がかからないって言われたけど、もう少し甘えればよかったかなと、今もたまに思うんだ。今更仕方ないけどね……」
その言葉と表情からは少し淋しさを感じた。そうか、セシルさんは別れを告げる間もなく別の世界へ来て、そのまま過ごしてきたんだよな。
家族というものにずっと縁がないまま……僕はちょっといけないところに踏み込んでしまった気がしたが……
「やっぱり違いますね……僕は母さんに頼りっぱなしでした」
「それもいいんじゃない? 今日会ったらまた甘えなよ」
それは杞憂だったようだ。返したくれた返事とともに、いつも通り笑いかけてくれた。
やっぱりこの人は外見は若くても、自分の何倍、何十倍もの経験を積んだ大先輩だと改めて思った。
「あっ……あの人」
「えっ?」
突然のセシルさんの声に考えていたことも消え、思わず正面を向いた。
十メートルほど前を歩くのは左手にビニール袋、右手にバッグを持つ中年の女性。入ってきた脇道にはコンビニがあったはずだから、そこで買い物をしてきたのだろう。しかしそれでは普通の通行人だ。
セシルさんが指摘したところ、それは僕にもすぐにわかった。
「あの人、お財布落として……」
「あっ、じゃあ……」
その女性の少し後ろに黒い縦長の形の財布が落ちていた。きっと右手に持つバッグから落としたものだろう。
そしてその人は財布を落としたことに気づく様子はない。さすがにそのまま黙ってみているわけにはいかないので、僕はその財布の場所に駆け寄り、それを拾い上げた。
「……?」
しかし……持った瞬間、不思議な感覚を感じた。何故かはわからないが自分はこれを知っている、持ったことがある……そんな感覚だった。
だが、深く考える前に再び足を速め、前を歩く女性に歩み寄り声をかけた。
「すいませ~ん、財布落としましたよ」
その女性の後ろ姿を間近に見たとき、僕はある予感がした。別にそれは奇跡というほどのことでもない、この場所ならばごく普通にありえることだ。
それでも、まさか……という気持ちもあった。
「あっ……すいません」
そして、その声を聞き、振り返った顔を見たとき……予感は確信へと変わった。
僕の記憶よりも少し体型がふくよかになり、髪も白髪が増えた気がする。でも、その顔を忘れるわけがない。
目を合わしたまま、時間が止まったように身体が硬直した。そして数秒後、口を開け、僕は掠れたような声を出した。
「母さん……?」
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