第13話 洞窟探索
あの二人に襲われた日から一週間が過ぎた。衝撃的な出来事だったが、こっちに来てからやや平和ボケをしていた僕にとってはいい刺激になったと思う。
セシルさんは例の魔物を調べてから、何やら自室に篭ることが増えた気がする。変な荷物が届いたりもするし。
近々何かあるかもしれない、僕なりにそんなことを考え始めていたある朝の朝食の後……
「ごちそうさまでした」
「食べ終えたら出かける用意をして。そうだね、動きやすい服装がいいかな」
「どこ行くんですか?」
「ん~ダンジョン」
◆◆◆ ◆◆◆
「ここがその悪い魔術師の隠れ家とやらですか」
「ああ、王宮の情報を流してくれた人の話ではね」
馬に乗せて連れられたのはそう遠くない場所にある洞窟だった。 ここにこないだの騒動の黒幕がいるらしい。
どうやら信頼できる情報のようだが……見た感じただの洞窟だ。
しかし……なぜか、この洞窟から胸騒ぎのような物を感じる。何だろうこの頭ではなく身体が拒絶しているような感覚は……
「さあ、行くよ」
「ちょっと待ってくださいよ」
こうして迷宮探索が始まった。こうもあっさりと。
「とりあえず私の後ろをついてくれば大丈夫。こういうのは慣れてるから」
そうして一時間ほど歩いてきたわけだが……確かに分かれ道なども即決だ。それでいて迷っている様子も無い、それに楽しんでいるようにすら見える。慣れているというのは本当だろう。
しかし洞窟の閉鎖感のせいだろうか、会話が減ってきた気がする。この空気を断ち切ろうかと、僕はふと頭に浮かんだ疑問を聞いてみた。
「そういえば、国はもう居場所も割れてるのにその魔術師を捕まえようとしないんですか。こういうのは僕たちの仕事ではないと思うんですけど」
「いや、つい先日十数人の捜索隊をこの洞窟に送ったらしい。それでねえ……生きて帰ったのはほとんどいなかったとのことだ」
「え……」
まさかの回答に僕は思わず足を止めてしまった。
「どういうことですか……」
「それはやっぱり何かいたんじゃないの……といってるそばから」
かすかに地面が揺れた、と思った次の瞬間、
「あれは……何ですか?」
壁や地面の土が集まり、大小さまざまな大きさの人型の物体になった。
一番大きいものは洞窟の天井に届くほどであり、その腕でつぶされたらただではすまないと一目でわかる。
「以前、話したやつだよ。侵入者撃退のための土人形でしょ。ここのやつが作ったんだろう、まあ少し後ろで見ててちょうだいな」
セシルさんはそれを前にしても、全く動じる様子が無い。戦うつもりだろう。僕は言われたように距離をとった。
考えてみればセシルさんが戦うというのははじめて見る。参考になるだろうからしっかりと見ておこう、そう考えたが……
「え? もう……こんなに?」
僕が前を向いたとき、すでにゴーレムの半数が土くれとなっていた。そして、残りのゴーレムも動き出す間もなく次々とその形を崩していく。セシルさんはその場から動く様子もない。
その数が残りわずかとなったところで、以前教えてもらった視覚強化の魔術を通してその現象の正体が分かった。
ごく小さい、それこそ肉眼では認識するのがほぼ不可能なほどの大きさの魔力弾。それがゴーレムの魔力が集中している一点、恐らくコアであろう場所に超高速で打ち込まれていた。それも命中した後、破裂するように一発一発が調整されている。
驚くべきはその動作だ。未熟な僕はもちろん、この世界の人は魔術を使う際に基本的に集中が必要だが、ほとんどそれがない。まるで呼吸をするかのように自然に放っている。その上狙いも超正確、軽く振るった杖の先から豆まきの豆のようにバンバン飛んでるのに、打ち漏らしはほとんどない。
先週の山での出来事を思い出す。あの狼は見た目には全く外傷が無かった。同じように急所となる場所にピンポイントで打ち込んだのだろう。
「一通り片付いたかな」
「……凄すぎます。ちゃんと見てましたよ」
「そ、そう……」
頬を赤らめて、ちょっと照れているようだ。そういうところ可愛いな。
「もっと派手にするんじゃないかと思っていましたが、意外ですね」
「ドカドカやるだけが戦いじゃないからね。こんなところで派手にやったら煙たくなるし」
「それにしても……」
「じゃあやってみる? 一匹残ってるみたいだし」
その指差す方向にはゴーレムが一体だけ残っていた。大きさは中間くらいで、既に半壊といった状態だが明らかにこちらに敵意を持って動き出していた。
「いい? あれを怖いとかは思わないで、ただの土くれで出来た人形だ。それをちょいとつついて壊すだけ」
「つついて……壊すだけ……」
言われるがままに杖を構える。魔力を小さく凝縮させるイメージで……狙いは魔力が集中している人間の心臓にあたる場所に……
「──!」
足を開き、両手で構えた杖から魔力弾が発射された。そしてドンッという音とともに狙いどおりにゴーレムに命中、すぐに音を立てて崩れ去った。
以前岩に向けて撃ったときよりもずっと重い感触。実際に銃を撃ったことはないが恐らくこれに似た感じだろうと、そう思わせる感触だった。
「さすがだね、こうやって正確にかつ炸裂する威力のあるやつを飛ばすことはやっぱり練習で身に着けるのは厳しい。他の武器があればいらないというのもそうだけど、それなりにセンスがないとできないから。私が知る限りこの世界で会った中でできるのはあと一人だけだ」
「それは誰ですか?」
「そうだね……ここら辺で休憩しようか。それから話してあげよう」
僕たちは手頃な大きさの残骸に腰を掛けた。そして、水筒を取り出して一息つく。
戦いという非日常にちょっと興奮していた気持ちが落ち着いていくのを感じる。
「ふう……じゃあ話そうか。そいつの名はアレン、少し前私の教え子で部下だった男だ」
「宮廷魔術師をやっていたときのですか」
「そうそう、あいつはまあまあ将来有望なやつだったんだが……」
「何があったんですか?」
「いつしか過激な思想を持ち始めてね、危ないやつになってきたんだ。きっと根がそういう奴だったんだろうね」
なんかよくありそうな話だ……
「そしてある日、国家機密の研究を盗み失踪した。その際、警備の兵士を何人か殺してね」
「国家機密……どんな研究ですか?」
「魔力を利用した生物兵器……言っちゃえば人工の魔物の研究だよ」
なるほど生物兵器……前の世界では映画やゲームの中だけの話だったが、確かにこの世界ならばある程度現実的かもしれない……ん?
「もしかして……」
「ああ、この洞窟にいる。この前のからもあいつのクセ……みたいなものが感じられた、間違いない」
やっぱり……
「私はそういうの気に入らなくて、その研究に参加していなかったんだけど、正直あまり進まず凍結に近い状態になっていた。だから国としては損害は少ないはずだった。でも、政治にも口を出す私のことが気に入らなかった人たちがいいキッカケだと思ったのか、責任をとる形でクビにされたんだ」
あららら、そういうことだったのか。
「それに関しては恨んではいないけれど、あいつが実際に危険なことをやっているのなら私が責任をもって止めなくてはね」
「そうだったんですか……」
しんみりとした感じで語っているが、セシルさんにとってはほんの一瞬の小さな出来事に過ぎないだろう。
やっぱりそいつに多少なりとも思い入れがあったということかな。
「さ~て、ここからは少し危険な道のりになるかもしれないけれど……まあ大丈夫だから。そんな緊張とかはいらないよ」
「はい、頼りにしていますよ」
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