第17話 作戦会議


 宮司さんと精霊さん、笹村さんからの助力で、個人対個人としての付き合い方を考え始めた涼子たちは、まず精霊さんからのメッセージというものの共有から始めた。


「じゃあ早速話し合っていくわけですが、きわちゃん……。近づきすぎだよ、の他に精霊さんからのメッセージはある? 」


「ん。じゃあ、いうね。

いっこめは、ぼくがずっといっしょにいると、りょうこのふたんふえて、りょうこ、つかれさせるってこと。

にこめは、ざしきわらしがどういうものか、かんがえなおしたほうが、こんごのためって。

みっつめは、おたがいこじんのじかん、つくるべきって。

ぜんぶひっくるめて、ちからのつかいかた、かんがえなおしてみてっていってた。」


そう言ってきわちゃんはしょんぼりとうなだれた。ひとまず全て書き留めた涼子は、メモを見ながら考える。せっかく出してもらった助け舟。だがどう生かしていくべきなのか——。

きわちゃんはどうやら一個目の『涼子の負担増えて疲れさせる』というところに一際、罪悪感を覚えているらしい。一個目に意識が全て向いているようだ。……まあ、その一個目と二個目はセットで考えた方が良いだろう。それならば。


涼子はまず、三つ目の『お互いに個人の時間を作るべき』……いわゆるプライバシーの話から始めることにした。取っ掛かりはこれが一番無難だ。


「きわちゃん。じゃあさ、三つ目の『お互いに個人の時間を作るべき』っていうところから考えてみない? いつなら一緒に出掛けて良くて、いつなら控えた方が良いのか、決めようよ。」

「……うん。」

「じゃあー……、とりあえず、私が集中したい時間、を言うね。私が集中したいのは、大学の講義を受けている時間。バイトの時間。絵の制作をしている時間。そこだけ。」

「そのじかん、さけるのがいい? 」

「……そうだね、申し訳ないけど。」

「んーん、ありがとう、りょうこ。じゃあそのじかん、べつべつ。」

「と、なると大学の講義のない時間で、制作しない時間、っていうことになるんだけど……。」


これがなかなか難しい。月火木は講義がみっちり入っているし、水金は講義が午前だけとはいえ午後を絵の制作にあてている。そうすると、それぞれ帰ってきた後と、土日のバイト帰り——十五時以降、とかなり絞られてくる。……その、わずかな時間で満足してくれるだろうか、という疑問を抱えつつもきわちゃんに空いている時間を伝える。

きわちゃんは「ん! 」とスムーズに理解を示してくれ、結局は、


『午後が休講日である水曜日と金曜日、制作も終わり帰宅したらきわちゃんとの時間として割く。土日のバイト後、余力があって気が向いたらきわちゃんとの時間に充てる。』


という所に落ち着いた。そうしておいて、その他の時間はきわちゃんにはこの家を守っていてもらうことにする。

そうすればきわちゃんは、ほとんどの時間をこの家に費やすことになる。しかしどうしても涼子と母を重ねてしまうからには、涼子のいない間に座敷童としての仕事をしてもらった方が良いだろう。


次に涼子は、二つ目の『座敷童とはどんな存在なのか考えなおした方が良い』というアドバイスを、『この家を幸福にすると涼子自身にどんな利益があるか』という事を話すことできわちゃんに納得してもらおうと考えた。

『座敷童』を理解してはいるものの納得しないまま突き進むよりかは、本人も納得して、思うように力を使わせてあげたかった。それにはやはり前提に「涼子の幸せ」=「この家の幸せ」と教えるしかない。


「いい、きわちゃん。二つ目のこの『座敷童とはどんな存在なのか考えなおした方が良い』ってやつなんだけど。」

「うん。」

「この家を良い方向へ持って行ってくれると私は——すっごく助かります。」

「そうなの? りょうこじしんを しあわせにするより? 」

「うん、すっごくすっごく。」

「……なんで? たとえば? 」


「例えばね、んー……、じゃあ、父さんと母さんの収入が増えたとします。」

「うん。」

「そうすると貰える画材費……支援金が増えます。お菓子も買える。」

「! りょうこ、できることが ふえる! 」

「そう! そして他には、じゃあ、家族の仲がもっと良くなったとします。」

「うん。」

「そうしたら単純に嬉しいし、家の居心地は良くなるし無駄に警戒しなくて済むし、それによって余力ができたり新しく感性が刺激されて今まで描いてこなかったような絵にチャレンジすることができるかもしれません! 」

「いい しげき! 」


「そうその通り! なのできわちゃん……私じゃなくてこの家全体に対して頑張ってくれませんか? 」

「それなら がんばる! やるき、でた! 」

「うん、ありがとう。私を幸せにしたいのなら、家を通してね。そうしたら私、なにも考えずその好意を受け取れるから。座敷童っていう存在は、そうやって家自体を盛り上げて人を幸せにしていくものなんだよ。……伝えたい事、わかった? 」

「うん、わかった! いえをとおして、みんなしあわせにする。それが、ぼくのおしごとだった。がんばる! 」


すっかり意気揚々としていて、この家自体に意識を向けてくれるようになったのがわかる。涼子は、この二年間できわちゃんが向ける力の配分までわかるようになっていた。


なんとなく涼子自身に視線が絡まって取れないような気がする時は、こちらに力を向けている時。逆に、この家自体に親近感を覚えるときは、家全体に意識を向けてくれている時、と言った風に。

そして今現在、きわちゃんは努めて家全体に頑張って気を巡らしてくれている。慣れない作業に、うんうんと頭を悩ませて一生懸命な姿が見える。


——これで、上手く回ればいい。

きわちゃん自身がまぎれもない『座敷童』であること、涼子はその家に住まうただ一人の、ただの人間であること。座敷童であるからには家全体を幸福にして自分を幸福にして見せよ、と、伝えることができた。


これできっと大丈夫なはず。今まで長い時間を共有してきたきわちゃんが突然いなくなるのは少し寂しいけれど、あるべき姿に戻っただけ。



案外寂しがっている自分に気が付いて、苦笑いがこぼれた。

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