第5話 我が家の座敷童


 一瞬飛んで行った思考から戻ってきた涼子は、とりあえず着替えが見られていたかもしれない問題云々は置いといて、確認すべき所を抑えにかかることにした。もう今更どうしようもないことだし。相手は生身の人間でもあるまいし。


「ねえ、じゃあきわちゃんはなんで今まで一時間限定でしか出てこれなかったの? 」

「それ ね、ちから なかった。それに じょうけん あわなかった。」

「こうやっているだけでも体力使うってこと? 」

「ん! 」


どうやらきわちゃんは見えていた通りに飢餓状態だったらしい。存在するだけでエネルギーを消費するというのは人間と同じようなものなのだな、と感心する。そんな状態で、それでも毎日あの一時間だけは出て来ていたのか。……何故?


「じゃあきわちゃんが今こうして出てこれてるのはお菓子とジュースのおかげなのかな? 」

「ん! 」

「……そんなに大変なのに、なんで今まであの一時間だけ出て来てくれていたの? 」

「それ ね、ぼく のせいじゃ ない。」

「? 」

「りょーこ、つよくなる いちじかん。」

「えーっと……あの十一時から一時間だけ私の霊感が強くなる……ってこと? 」

「ん! 」


それにしてもなんでそんな中途半端な時間なんだろう。丑三つ時とかじゃなくて? と聞いてみると、その時間も強くなるけど寝ているから私自身には自覚がないということだそうだ。なるほど、私の感受性の高さの問題というわけか。


「あれ、じゃあ昨日会えなかったのも私が原因? 」

「んーん。きのう おとといので つかれた し おかしおなかいっぱい ねてた。」

「おーうお菓子昨日から食べていた訳ねわかった。」


いつのまにかちゃっかりお菓子に手を伸ばしていたり気まぐれに寝て姿を消していたりと座敷童的一面が垣間見えてきた。悪戯好きで、人が好き。気まぐれ。そのどれもがきわちゃんは当てはまる。


……あれ、ちょっと待てよ。「姿を現していること自体がエネルギーを使う行為」なのであれば、体力さえあればいつでも姿を現している(私には一時間しか見えないけど)きわちゃんは物凄く健気な子なのでは……?


今までの情報であれば、そんな疲れるのであればあの一時間にだけ合わせて姿を現しているんだろうと思うところだったけど、今現在は夕方の時間。ふいうちでも姿が見えることからその可能性は除外できる。


「きわちゃん……。お菓子もジュースも好きなだけ飲み食いしていいからね……あとお気に入りのおもちゃがあったら言ってよね……。」

「ん! あり がと。」


いかにも幸せそうな顔でにこにことしている。なんでこんなにうちの座敷童は可愛いんだ? そういえば最初に疑問に思っていたこともこれで説明が付くようになった。座敷童がいるのに一向に福が来るような家ではなかったのはきわちゃんがそこまで力を有していなかったため。きわちゃんがやせ細っていたのもそのため。よくテレビとかで見る元気な座敷童などは人形やおやつ、おもちゃに囲まれた生活を送っているものな、当然のことだ。


あ、そういえば何でこの装いなんだろうか、と頭をよぎる。きわちゃんは謎が多すぎて一向にクエスチョンマークが無くならない。


「そういえばさ、きわちゃん。」

「ん? 」

「座敷童といえばお着物を着ているイメージだけどなんできわちゃんはその格好なの? 」

「ぼく しんだとき このかっこだった から。あと ざしきわらし きもの すくない。」

「へー……そっかぁ……。」


情報量が多い。しんだとき? しんだときって死んだ時ってことよね? なに、座敷童って福の神様的なものじゃなくてもっとこう、幽霊的なジャンルなの? それで皆着もの着ている方が少ない……世代交代が座敷童界でも起こっているっていう事か。そうか……なんとも世知辛い。


「あー……最後にさ、一個聞きたいんだけど。名前何て言うの?きわちゃんでずっと行くわけにもいかないんじゃない? 」

「…………んーん、やっぱり きわで いい。りょーこが つけてくれた うれしい。」

「…………よし、お菓子沢山食べなさい……。」

「やっ た」


この座敷童は、なんという人たらしだろう。お菓子ならいくらでも食えとつい言ってしまう……。とりあえず涼子は、きわちゃん用のお菓子を補充することを考え始めた。一日の昼間だけで五つ空になるのだ、相当な量が必要になってくる。


……さて、それをどう母に説明したものだろうか。

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