二扉目 紙。

 とある家の、とある部屋の、とある男性。


 くっそ~、腹いてぇ~~。


 今日昼に食べた、あの飯にでも当たっか? 確かに、初めて入った定食屋は、綺麗とは言えない。むしろ汚い。何故入ったのか。そういう店は、実は隠れた名店で、美味しいというのが通説……と、勝手に、思いこんでいたのがいけなかった。普通に不味かった。ゴキブリも居たからね。よくあれで潰れないもんだ。


 そう思いながらテレビを見ていた。


 もう無理、漏れる、限界!!

 急いでトイレへ駆け込んだ。


「セ~~フ、危なかった~」


 と、言いながら用を足していた。


 ふぅ~スッキリ!!まったく保健所にでも通報してやろうか。そう思いトイレットペーパーのホルダーに手を伸ばした。


「んん?あれぇ!?えぇぇぇぇ!?紙がないーーーっ!!」


 トイレットペーパーがない!予備も全くない!!どうしよ。困ったぞ。このまま部屋に戻ってティッシュペーパーで拭くか? いや、でもそこにたどり着く前に、もしかしたらフローリングに……。いや、このままシャワーで流せばいいか、悩むまでもない。シャワーだな。行くしかないでしょ。自分の家で誰にも見られるわけじゃないし。そう思い、ドアノブに手をかけようとしたまさにその時。


 コン コン


「ふへぇ?」


 素っ頓狂な声が出てしまった。誰かノックした?

 気のせい?耳を澄ませ、ドアと睨めっこをした。


 コン コン


「わぁっ!!は、入ってます!!」


 そのノックに思わず返事をしてしまった。


 誰かが扉を叩いてる! 気のせいじゃなかった。何故? 強盗か? 鍵掛け忘れた? 俺に気づいて殺そうと? いや、そしたら人が居るってわかった時点で逃げるだろ ?電気だってついてるんだから。全くわからない。冷や汗がどっと出た。


 コン コン


 くそっ!何なんだ、変質者か? 男の部屋に入ってどうするつもりだ? まさかそっち系?


 コン コン コン コン コン コン


「誰だよ、出てけよ。警察呼ぶぞ」


 って言っても携帯持ってない……しまった。これは出たら犯られるパターンか。


 …………。しばらく沈黙した。


 全神経をドアの向こうへ集中させた。今まで生きてきた中で、これ程集中したことがあっただろか。

 神経が研ぎ澄まされていく。額には相当な汗が滲み出る。


 どれくらい時間が立っただろうか。

 よし、居ないな。まったく気配を感じない。諦めて帰ったか。


 手にはいつの間にかスッポンが握られていた。


 スッポンを構え、扉をそ~~と開けた。

 そして、ゆっくりと外を覗くと。


「うわぁぁぁぁ」



 俺は大声を上げた!!驚愕してしまった!!

 そして思わず二度見した……。


 そこには、微笑みながら、トイレットペーパーを持った隣の家のおっさんが立っていた……。







 ――――――――――――――――――――

聡、美里サイド。


「次はこの家みたいね。へ~小綺麗な部屋ね。聡の部屋とは違うね」


「悪かったな、ならここに住めば!!」


「そんなんで怒んないでよ。ほら、この人お腹壊してるみたいよ」


「なんかさ、透明人間になって、他人の家に勝手に入って覗き見してる気分だよ。これが男じゃなかったら最高なのに」


「何馬鹿な事言ってんの!これだから男は!まったく!」


「はい、ごめんなさい。定食屋だってさ、原因。あ~わかる。その通説。確かにちょっと小汚いラーメン屋とか美味しかったりするよな。近所のラーメン屋がまさにそうだった。彼はハズレを引いたみたいだね。これは同情するよ。」


「確かに可哀想だけど、私だったら最初から入らないわよそんなとこ。いくら美味しくても、衛生的にも良くないでしょ」


「あっトイレットペーパーがないらしい。予備もだってさ。ガッハッハッ」


「笑うのは可哀想でしょ」


「いやそうだけど、ごめん。うん?ちょっと静かに!! 今ガチャツていったぞ。」


「―――っえ?ウソでしょ!おっさんが入ってきたんど……」


「大丈夫かよこれ。何とかした方がいんじゃないか?不法侵入だぞ。」


「不法侵入は私達もだけどね。何とかって、どうすることも出来ないでしょ」


「わかってるけど、このままじゃ彼殺されるんじゃ?」


「う~ん、彼、相当恐怖みたいね」


「そりゃそうだろ、誰だってビビるぞ。いきなりトイレのドアをノックされたら」


「聡見て、おっさんの手元」


「ん? 手元? あっマジか……。良かったんじゃ彼。おっさん、優しいじゃん」


「そういうことじゃないでしょ。なんで持ってんのよ。トイレットペーパーなんか」


「そりゃそうだな……あっあれじゃね、盗聴とか盗撮とか!んで、トイレットペーパーが無いことがわかったんじゃない?」


「う~ん、そうかもね、だとしたら立派な犯罪よね。それより、男が男を?キモイんだけど」


「そうだよな。なんでおっさんが男……。うおおっ!!ビックリした。彼がいきなり大声出すからこっちまで驚いたよ」


「確かに、でもしょうがないわよ、ドア開けたらおっさんがトイレットペーパー差し出してんのよ。ほら彼の顔、凄い事になってるわよ。えっ隣人? 怖っ!!―――って聡、扉が現れたわ。」


「えっこのタイミング? 彼大丈夫か? ちょっとこの後どうなるか見たくない?」


「気になるけど、ここで扉が現れたんだから、ここまでってことでしょうね。行くわよ」


「う~ん。凄くモヤモヤする……」

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