作曲をする

 オリジナルの曲に関しては、結月と二人で作曲の相談をすることにした。これは結月が作りたい曲であり、僕が歌うから、まずは二人で作り上げる必要がある。

「やっぱりオリジナルの曲だし、私のギターを聞いてもらえるような曲にしたいよ」

「ゆず姉は歌わなからね」

「だから、サビはインストにしたい」

 インスト、つまりボーカルがなく、楽器の演奏だけということだ。つまり、現実を見ないロマンを追い求めた売れないミュージシャンみたいなことを結月は言い出した。

「いいんじゃない」

 それでも、このバンドは結月がやりたいと言ってできたバンドだから、僕はそれを肯定してあげたい。

「そのために、歌詞もこんな感じにしたんだもん」

 歌詞を見ると、サビにあたりそうなところはない。大サビみたいなようなところはあるが、そういう理由だったらしい。

「なら、一応たたき台になるような作曲はもう終わってるんだ?」

「終わってるよ。これ」

 と言って、結月は機器を操作し曲を流し始めた。

 ギターの和音と結月の歌声が吹き込まれていた。

 悪くない、と思う。これくらい歌えるなら、結月がボーカルをしてもいいのだと思う。今のままでは、ガールズバンドでなぜかボーカルが男のハーレムバンドみたいじゃないか。

「や、ボーカルは真一でないとダメだよ。で、ベースボーカルをするの。へんてこすぎて、ロックでしょ?」

 思っていたことを口に出していたようだ。

「へんてこなのは認めるんだ」

「あと、ロックは、ギターはやっぱり男のものだと思うんだよ。手が大きくなくちゃ、簡単にコードも押さえられない」

「そうかな。今は女性も何でもやる時代だ」

「それでも、その人の持っている資質や、やれることは、その才能に準ずる、と私は思うんだよ。

 でさ、やっぱりカッコよさは、男が持つものでさ。ロックってのは、カッコよくなくちゃいけないんだよ」

 と、結月は言った。

「で、この曲の、サビはインストってのは、かっこいいのかな」

「みんながカッコよく弾ききれば、カッコいいもん」

 そういうわけで、このもしかしたら、どころではなく、おそらく本番で白けさせうる、サビがインストのオリジナル曲が採用された。


「本気ですか、結月先輩」

「本気だよ」

 きっぱり結月に応えられて、ホントかよ、といった表情をした来未がこちらを向いた。

「止めなかったんですか、先輩」

「まあ、少しは」

「確かに、カッコよく弾ききれればカッコいいとは思いますけどね、先輩」

「来未ちゃんなら、できるよ」

「ミクちゃんならできる!」

「椎さんは演奏しないからって」

「あ、しいさんには、ステージの前で、手拍子とか、腕ふりとか、お客さんにやってもらえるように、しててほしいな」

「あ、マジですか」

 いつも元気でポジティブな椎も、結月の無茶ぶり気味の指示に少し引いたが、

「いえ、わたくし、精一杯務めさせていただきます、マム」

 と言って、敬礼した。

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