学園祭に向けた練習 2
「メンバーは上手く集まったみたいだな」
放課後に教室で鎌倉勇太が僕に話しかけてきた。
「どうして知ってるの」
「いや、まあ、なんだ、その、あれだ」
「どうしてしどろもどろになるの」
「長岡の妹の方から聞いた」
「仲いいの?」
「それなりに」
意外なところに人間関係があるんだな、と思わなくもない。彼らが普段話をするような関係だとは知らなかった。しどろもどろになるあたり、勇太は日奈子に気があるのだろうか。
「メンバーも集めたし、学園祭で歌うことも決まった。担当する楽器も決めたし、あとは練習かな」
「頑張れよ」
「言われなくても」
それに勇太は頷いて教室を後にした。その一部始終を見ていた様子の結月が僕のもとに来た。
「鎌倉君、ヒナと話するんだね」
「去年は同じクラスだったらしいし」
「どんな曲を作りたいとか決まってるんですか」
と来未が尋ねた。
「名曲、だよ」
少し打ち解けてきた様子で結月が答える。
「そりゃ、誰しも名曲を作ろうとはしてますからね、結月さん」
椎が突っ込みを入れた。
「結月はもう少し具体的に答えた方がいいんじゃないか」
「ロック、かな」
「まあ、ギターもってジャズはしないですね、結月先輩」
「まじめに返答されても、困る。冗談、だもん」
と結月が言うと、椎と来未の二人は顔を見合わせた。彼女がそういう冗談を言うと思っていなかったらしい。もう少し仲良くなれば、結月は僕に接するように、椎や来未にも接するようになるのではないだろうか。
「それで、ロックっていっても、どんな感じ?」
「詩を、書いてきたから、これに合う曲調に、なるようにすればいいと思う」
結月はノートを取り出し、開く。
「『つきあかり』」
タイトルを言って、その歌詞を見せてくれた。丁寧に清書された文字で書かれている。思っていたことの発露みたいな、初々しさのある歌詞で、読んでる方も少し恥ずかしくなる。
「なんか、ちょっと、やっぱり、恥ずかしい」
椎はそりゃそうだろう、と言いたげな顔をしていたが、しかし、こういう空気はよく読めるのか、口には出さないでいた。
来未はその初々しさが年齢相応さみたいなものにはまったのか、そんなことない、と言いたげな顔をして読んでいるように見えた。
「いいじゃないですか。私、好きですよ、こういうの」
練習するための場所を求め、スタジオを借りた。準備を終えた結月と来未は少し緊張しているように見えた。
「皆さん、各自の練習の成果をお互いに確認する場です、頑張りましょう!」
といつもの能天気さで椎が言った。
「椎さんは特別なパートとか持ってるわけじゃないですもんね」
「まあ、そうなんだけどね」
まずは練習してきた成果を見せるように、本番と同様に間違えても止まらずに最後まで演奏をする。
とにかく、歌いながらベースを弾くのが大変すぎる。自主練習でもあまりうまくいっていなかったが、合同の練習に間に合わせでかろうじて弾けるようにしただけでは、自分としても全く満足のいく出来にならない。
その調子で、コピーの曲を2つ演奏した。
「真一、ちゃんと練習してた?」
「ちょっと歌もおろそかになってますよね。最悪、歌の方さえちゃんとしてれば、ベースの音を重視して聞く人なんてあまりいないんですから、難しいことはやらない方がいいと思いますよ、先輩」
「新保君、下手」
みんなで好き勝手なことをおっしゃる。
「いや、僕なりには頑張ったんだけどね」
「頑張った、ではなく求められるのは成果だよ」
「もう少し先輩のパートを簡単にしましょう」
「新保君、下手」
演奏もしてない人が下手とか言わんでほしい。と思うが事実なので甘んじて受け入れることにした。
「とりあえず、編曲は後にして、真一は歌だけで、もう一度通しましょう」
歌だけなら、余裕である。手指をちょこちょこ動かす必要がないというのは、いかに楽か、という気持ちを込めて全力で歌った。
「歌だけならいいよね、真一」
「じゃあ次はベースだけですね、先輩」
「新保君、上手」
椎は聞いてるだけなのだから、僕以外への感想を言うべきなのではなかろうか。しかし、彼女らの言う通り、次は演奏だけでどうなるかをまず聞いてみる必要があるかもしれないし、それによって結月は来未の練習にもなるだろう。
「ベースの演奏は、このままの方が、かっこいいのは確かなんだよ」
「これに歌がきちんと乗れば完璧ですよ先輩」
「新保君、上手」
「椎が歌えば解決するのでは」
と聞いてみたが、
「真一が歌わないとダメ」
と、くぎを刺された。
「まあ、もっと直前になってやっぱりダメそうなら少し曲をいじることにして、とりあえず今のままで行きましょ」
ちなみに、今日の僕には、ほかの二人の演奏を聴く余裕はなかった。
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