メンバーを集める 2

 一緒に登校してしまったときに厄介なのは、結月と一緒に教室に入る時だ、というのを何度も経験しているので、僕は教室のドアを開けるのに覚悟が必要だった。ドアを開けようと手を伸ばすと、触れる前にドアが開く。

「よう、おはよう、お二人さん」

「鎌倉君、おはようだよ」

「……おはよう、勇太」

「なんか言いたいのか真一」

「とりあえず教室に入りたいからどいてくれないかな」

「おっと、そうだな、ごめんごめん」

 自分の席に荷物を置く。

「今日はお二人さん、仲良く登校なんですね」

 鎌倉勇太がからかい口調で話す。結月が一つ年上なのを知っているからか、彼女に話しかけるときは敬語気味になるのは、仕方ないところだろう。それでも、彼の一つ年上の同級生に物おじしないところが、いいところでである。

「真一の家は私のとこに近いからね」

「家が近いからって、一緒に登校するって、相当仲がいい証拠じゃないですか」

「そうだね」

「そうだね、だって」

 と勇太が僕の方を向いて言う。

「だって、じゃない。仲がいいのはいいことだろ」

 あーあー、うらやましーなー、年上の近所のお姉さんと仲良く登校なんてー、と言いたげな目で勇太はこちらを見てくる。実際のところは分からないが、おおよそそんなところだろう。

「あ、そうだ、鎌倉君」

 何かを思い出したように結月が声を出す。

「なんですか」

 何かを期待している顔で結月の方を見る。女の子を紹介してもらえるとでも思っているのだろうか。

「バンド、やらない?」

「バンド?」

「そう。ギターと、ベースと、ドラムと歌。あと、キーボードとか、バイオリンとか」

「バイオリンは違うでしょ、ゆず姉」

「そういうバンドも、あるんだけどなあ。鎌倉君、バイオリン弾ける?」

「いや、弾けないですねえ」

「じゃあ、ダメだ。誘ってごめんね、鎌倉君」

「いやいや、ほかにもあるでしょ。なんか弾けないか、勇太」

「やー、なんも弾けねえわ。というか、サッカーが忙しいから難しいな」

 お前はどうなんだ、という目で勇太が訴えている気がした。僕にはもう彼のその目に応えられる資格がない。

「そっか、残念」

 と結月が言う。

「結月さんは、バンドやるんですね」

「やったことなかったけど、ギターは。弾けるんだよ。だから、一回バンド演奏してみたい」

「そうなんですね」

「似合わねえ、とか思っただろ」

「まあ、そういう風には見えてなかった、かな。でも、結月さん、ほかにバンドやれそうなメンバーとか、探してみるなら手当たり次第聞いてみますけど、そうします?」

「ううん、そこまでしなくていいよ。ありがとね、鎌倉君」

 てっきり探してほしいのかと思ったけど、断った。何か思うことがあるんだろうか。

 後で理由を聞いてみると、「だって、鎌倉君が連れてきそうな人って、ちょっと怖そうだったんだもん」と言っていた。ゆず姉の少し小心で人見知りなところは、やはり病院では治せないようだ。


 昼休み、ちょっと一緒に来て、と結月に呼ばれる。おっ、今度は一緒に昼飯か、あーんってするのか、という目で勇太は見てきたが、あーんってなんだよ、と目で訴えた。

「どうしたの、ゆず姉」

「妹たちに経過を聞かないと、ね」

「まだ頼んで5時間も経ってないんだけど」

「善は急げ、って言うんだよ」

「果報は寝て待て、とも言うでしょ」

 ことわざにより的確なことわざで返答されたのが意外だったのか悔しかったのか、結月は答えに窮した。

「で、どうするの、ゆず姉」

「まあ、妹たちと一緒にお昼食べるの、誘いに行こうかな」


「首尾はどう」

「忘れてました、結月先輩」

 勢いよく日奈子が言った。それで誤魔化せられると思ったのだろうか。

「正直でよろしい」

「私は、とりあえずクラスの仲いい人には声かけてみたよ」

「おお、偉い。偉すぎる、仁菜ちゃん」

「すごいな、仁菜。で、どんな感じだった」

「一人だけ。会ってみて息が合いそうならやってみたいって言ってくれた」

「まさかの展開」

「ゆず姉が『まさか』というのは失礼では」

「でも、正直に言うと会ったこともないような人と一緒にやってくれると言われると思ってなかった」

「まあ、それは確かに。で、どんな人なの」

 と僕が仁菜に聞くが、少し答えづらそうな態度を妹は見せていた。

「ちょっと、変わった子なんだよね。性格が、というわけではなんだけど。その子、飛び級なの」

「ああ、あの子か。神津さん」

 仁奈から飛び級で同じクラスにいる子がいるという話は聞いていた。

「そう、神津来未ちゃん。私より2つ下の、同級生」

「私と似たようなものだ。私も真一より一つ上の同級生」

「なるほど、確かにそういう風にとらえればゆず姉と似たようなものなのかもだよ」

「お姉ちゃんとは全然違うでしょ。天才少女じゃない」

「妹に暗に天才ではないと言われたよ」

「自分のどこに天才要素がおありとお思いで」

「妹の風当たりが厳しい」

「日奈子は何の役にも立てなかったからってすねない、すねない」

「食べ終わったらお姉ちゃんと息が合いそうな人に声かける」

 と言って、日奈子は急いでお弁当を食べ始めた。

「じゃあ、私たちはその子に会いに行こうか。食べ終わったら仁菜ちゃん、案内してくれるかな」

「了解です、結月さん」

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