メンバーを集める 1

退院したよ、と結月からメッセージが届いた。

――検査はどうだったの?

――――何ともなかったよ

 何もない人が精密検査のための入院までするだろうか、そんな邪推をしてしまうが、とりあえずその前提でメッセージを返すことにする。

――よかった。退院祝いしないとだね。

――――本当に?

――本当に。何度だってやってあげるからさ。陽菜が。

 少し恥ずかしくなって、人のせいにしてしまう。

――――期待しないで待ってるよ

 と言われてしまうと、僕は裏切りたくなるのを、彼女は知ってそういうことを書いたのだろうか。

――バンド、やるよ


「お兄ちゃん、朝だぞ、起きろ起きろー」

 身体を激しくゆすられる。目を開けると、妹の仁菜が視界の右から左へ、左から右へと移動していた。違う、僕の頭が左右へ揺れていた。

「起きた、起きたってば、やめてくれ」

「はーい。でも、急がないと、いつも登校する時間になっちゃうよ。早く朝ごはん食べなきゃ」

「え、もうそんな時間なの」

「お兄ちゃん、時々そうやって寝坊するよね。私も人のこと言えないけど」

 

 玄関を出ると、長岡姉妹が待っていた。

「おはようございます、結月さん、日奈子さん。ごめんなさい、お兄ちゃんが待たせちゃって」

「仁菜がゆっくり食べてるからでしょ」

「お兄ちゃんが時間通りに起きてこないからでしょ」

 と、いつもの取るに足らない諍いをしてしまう。

「相変わらず新保さんちの兄妹は仲がいいよね」

 と、結月が言った。

「ゆず姉も日奈子と一緒にいるんだから仲いいでしょ」

「まあね」

「今日は朝練が休みだから、一緒に登校するの。悪い?」

「悪くない」

 なぜかけんか腰な日奈子の態度はおそらく仲がいいと言われたことに対する照れ隠しだろう。この四人で駅へ向かって歩き出す。

「ゆず姉は退院出来てよかった」

「ありがとう。そうだ、バンド、本当にやってくれるんだよね」

「男に二言は……」

「なぜそこで言いとどまるの、真一」

 と日奈子が咎めた。

「あんまり楽器をやれる自信がなくて」

「あれ、ボーカルをやってくれるんじゃないの」

 結月が疑問を口にする。

「いや、やってもいいけど……それ以前にバンドするなら楽器の数がなきゃだめでしょ」

「私が弾くアコースティックギターに、歌ってくれるだけでもバンドにならないかな」

「それは、お姉ちゃん、相当カッコよくやらないと様にならないよ」

「せめて学園祭のバンドなら、楽器1つなのは冴えないよ」

 その言葉に柚木は思いついたように言う。

「じゃあ、真一はピアノ弾こう。アフロにして」

「どっかのアーティストじゃないんだから。そもそも僕はピアノ弾けない」

 そうだったね、と結月は笑った。入院のときもそうだったが、元気そうで何よりで、僕はほっとした。

「とりあえず、メンバーを集めないといけないよ、ゆず姉」

「最悪の場合は私のギターで、真一が歌おうね」

「だから、厳しいって。ああ、そうだ、日奈子も仁菜もよかったらバンドしてもいいよって人いたら紹介てくれないかな」

「お兄ちゃん、自分で探そうよ」

「いや、探すけどさ。でも、ゆず姉とは同じクラスだからさ」

 結月は前に一つ留年しているから、同じ学年となっている。だからだろうか、結月はクラスで少し浮いた存在であった。彼女や僕からほかのメンバーを募るのは少しハードルを感じていた。

「気持ちはわからなくもないけどね。分かったわ、わたしも、ちょっと声かけてみる」

 と日奈子が言ってくれたのは、助かった。

「しょうがないなあ、お兄ちゃんは。分かった、私も聞いてみるよ」

「やっぱり持つべきものは妹だな」

「そうだね、真一」

「お姉ちゃんもちゃんと声かけるの」

「お兄ちゃんも」

 妹たちは、頼りになると同時に、兄や姉よりしっかりしていた。

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