ふたりぼっちは友達がほしい。
水巷
第1話 『プロローグ』
———小さい頃から、てんで『友達』って奴ができたことがない。
これは大袈裟でも誇張表現でも何でもなく、僕という人間を語る上で切っても切り離せない、僕のパーソナリティを指し示すための紛うことなき事実そのものだ。
友達が少ないのではない。いないのだ。
それはもう、世界に僕しか存在しないかのごとく。
例えば、それは幼稚園の頃のこと。
自分と同じくらいの背丈の子どもが、快活に活発に溌剌に、園庭でボール遊びやブランコをしている光景。
皆で協力し合いながら、あるいは喧嘩し合いながら、試行錯誤してブロックやおままごとで遊んでいる光景。
そんなハートフルな光景の片隅で、誰にも気づかれない陰で、ひとりひっそりと絵本を読んでいるような子ども———それが僕だった。
「あそぼー」とも言われず。
「いれてー」とも言えず。
とかく、社交性が欠如していた。
周囲に壁を作っていた。
誰にも破ることのできない強固な絶壁。
たまに先生や親が気を利かせて、交ざれるように口利きをしてくれたこともあったけれど、それでも駄目だった。
気がつけば、いつのまにかひとりになっていた。
引っ込み思案で、無口に根暗。
特筆すべき才能も何もない、その他大勢のモブキャラ。
そんな僕だったけれど、そんなどうしようもない僕だったけれど———それでも、天は僕を見捨ててはいなかった。
それは、小学一年生の頃のこと。
陰鬱な幼稚園児が、さらに複雑怪奇になる人間関係の巣窟に放り込まれ、これからどう目立たず、当たり障りのない学校生活を送っていこうかと頭を悩ませていた、そんな頃。
僕の隣に、ひとりの少女が現れた。
あの時のことは、今も———十年以上が経った今でも、僕は鮮明に憶えている。
ひどく儚げで、脆くて、触れれば折れてしまいそうで、でも、だからこそ美しい少女。
いつも俯き、一言も声を発さず、教室の片隅でたったひとり、本を読んでいるような女の子。
けれど、決して冷めていたわけではない。
クラスメイトが馬鹿をやる傍ら、「私はこいつらとは違う」なんて、達観に見せかけた拙い背伸びに酔いしれていたわけではない。
彼女は、いつも友達を欲していた。
遊び、喋り、笑う———そんな間柄になれるような友達を希っていた。
何故そんなことが、僕みたいな人間にわかったのか。
答えは簡単だ———『同じ』だと、そう思ったから。
仲良くなりたい。でも、できない。
そんな、自分でもどうしようもない矛盾を、僕も抱えて生きてきたから。
だからなのだろう。
あの日あの時あの場所で、その他大勢のモブキャラの僕が、ひとりの女の子に、手を差し伸べることができたのは。
「……ぼ、僕と……、と、……友達に、なってください……っ!」
冴えない僕の稚拙なお誘いに、果たして彼女は。
「———うんっ!」
これまで聴いたことのない可愛らしい声でそう言って、華やぐような笑顔を見せてくれた。
———それが、僕とあの幼馴染との、運命的な出逢いだった。
ふたりぼっちは友達がほしい。 水巷 @katari-ya08
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